現在位置:トップページ研究者募集寺田教授の研究>中心体機能補助の可能性、中心体が存在しない卵割

↑PageTop/ページ上部へ

中心体機能補助の可能性、中心体が存在しない卵割

精子中心体機能不全による受精障害の輪郭が浮かび上がってきた現在、我々はその治療の可能性を検討している。精子中心体は精子中片部再奥部に存在しており、その周辺には精子核と同様のジスルフィド(S,S)結合が存在する。カエル卵子抽出液にtublinを加えたものに精子を注入しS-S結合の還元剤であるDTTとionomycinでprim(点火)するとvitroでも精子星状体(sperm aster)の形成が起こることが報告されている。我々はともにウシ卵子内で星状体形成を示さなかった形態正常な死滅精子症精子とDFS精子に対して、配偶子の化学的処理による中心体機能の賦活を試みた。すなわち、ICSI前の精子をDTT処理し、ICSI後に注入したウシ卵子を微小管重合促進剤である paclitaxel処理をし精子星状体の形成を観察した。この操作により、形態正常な死滅精子症例では精子星状体が正常とほぼ同様の率で形成されたが、 先天的奇形精子症例であるDFSでは精子星状体形成率の向上は認められなかった。DFSのような先天的な精子中心体機能欠如に対しての治療法開発の困難さが示された(図29)。 哺乳動物のなかで唯一、げっ歯類の精子には中心体が存在しない。また、卵子活性化を媒精以外の方法で誘起し、卵割を来す単為発生処理において、卵子が精 子中心体の関与なしにどのように核を中心に移動させ、第一分裂紡錘体を形成するかは明らかになっていない。これらの事実は、精子中心体の受精の成立に対する必要性に疑問を投げかける。 我々は中心体を完全に取り除いたウサギ精子核のICSI系の微小管形成を観察し、正常精子を用いた場合と比較検討した。精子核のICSI系では精子星状体は観察されなかったが、げっ歯類の受精で観察されると同様の、ランダムな微小管の束が雌雄前核の周辺に形成されているのが観察された。また、ICSI後10時間では、両群の微小管形態に明らかな差異はみとめられず、精子核群でも卵子中心に分裂紡錘体が形成されるのが観察された(図30)。 また、我々は現在まで釈然と捉えられていなかったウシ卵子単為発生誘起時の微小管形態をPaclitaxel処理によって明瞭にとらえることに成功した。単位発生誘起により複数の微小管星状体が卵子内に形成され、卵子細胞質全体に拡がってゆく過程で、雌性前核は卵子中心に移動してゆくことが観察された(図31)。 同様の所見はヒト単為発生誘起後の卵子の微小管形成の検討でも得られた(図32)。これらの観察は、卵子細胞質にも機能的なMTOCが存在し、精子中心体が存在しないときに、卵子は前核移動に必要な微小管を形成しうることを示す。今後、単為発生誘起により形成された分裂紡錘体と精子中心体により形成された分裂紡錘体の機能的な質(キネトコアプロテインの発現等)の相違の有無を検討してみたいと考えている。すなわち、いままでの知見からは精子中心体が受精に必須のファクターであるとは断言できず、中心体が存在しない卵割が正常であるか 否かも含めてさらに検討してゆく所存である。

文献(総論)

  • Nakamura S, Terada Y, Rawe VY, Uehara S, Morito Y, Yoshimoto T, Tachibana M Murakami T, Yaegashi N, Okamura K. A Trial to Restore Defective Human Sperm Centrosomal Function. Human Reprod 2005 20:1933-1937.
  • Morita J, Terada Y, Hosoi Y , Fujinami N, Sugimoto M, Nakamura S, Murakami T, Yaegashi N, Okamura K Microtubule organization during rabbit fertilization by intracytoplasmic sperm injection with and without sperm centrosome. Rep Med Biol 2005 4:169-177.
    (平成18年日本生殖医学会学術奨励賞受賞論文)
  • Morito Y, Terada Y, Nakamura S, Morita J, Yoshimoto T, Murakami T,YaegashiN,Okamura K. Dynamics of Microtubules and Positioning of Female Pronucleus during Bovine Parthenogenesis. Biol Reprod 2005 73:935-41.
  • Terada Y, Hasegawa H, Ugajin T, Murakami T, Yaegashi N, Okamura K. Micortubule organization during human parthenogenesis. Fertil Steril. 2009 91:1271-2

スライドサムネイル

図29

図29

図30

図30

図31

図31

図32

図32

↑PageTop/ページ上部へ