トップページ講座概要がん薬物療法の更なる進歩を期して5. 新規の抗悪性腫瘍薬剤の開発からがん予防まで

がん薬物療法の更なる進歩を期して

5. 新規の抗悪性腫瘍薬剤の開発からがん予防まで

今日、多くのがん研究の成果から、がん細胞の増殖、血管新生、そして浸潤、転移などのメカニズムが分子レベルで理解されるようになり、より詳細な解析が進んでいる。分子標的薬のターゲットも続々と明らかになり、これらを制御する小分子化合物や抗体の開発は加速している。

しかし、一方で耐性化など、がん細胞が分子標的治療をエスケープする機構も見いだされている。

ヒトが、がんになるのが宿命であれば、薬によってがんを予防するのが新たな命題となる。世界保健機関(World Health Organization, WHO)によると2030年には世界で年間1200万人が、がんで死亡すると予想されるが、そのうち約30~40 %は予防可能であるという28)。がんを撲滅する戦略としては「早期発見」、「治療」に加えて「予防」の重要性が提唱されている。

前述したように、セレコキシブは発がんの予防剤としては不適切であった。化学発がん予防剤は化学療法剤とは異なり、余程のハイリスクの人を除き、健常者が対象であり、しかも長期に服用することから僅かな有害事象でもメリットを上回ってしまう。

WHOによれば発がんのリスクを下げるものとして、大腸がんの場合、身体的活動(確実)、野菜・果物の摂取(可能性大)を挙げている。国立がんセンターもがんを防ぐ12条に「緑黄色野菜をたっぷりと」という一条を掲げている。緑黄色野菜のような食事性のものは副作用の点では理想的であるが、いったい緑黄色野菜によるがん予防のメカニズムは何なのか? 科学的な説明が不十分であった。

近年、その抗腫瘍効果/発がん予防の分子機構が明らかになり、緑黄色野菜に含まれるフィトケミカルと総称される化合物が、がん関連分子を標的制御することが判明した。

私も、2005年から東北大学大学院薬学研究科岩渕研が所有する新規合成化合物ライブラリーの中から抗腫瘍活性を持つフィトケミカルアナログをスクリーニングするプロジェクトを開始した。その結果、ウコンに含まれる色素、クルクミンのアナログにクルクミンを上回る抗腫瘍活性を見いだした。このアナログをリード化合物として、新たに100種類以上のアナログを合成し、GO-Y030という新規アナログにクルクミンを50倍以上上回る抗腫瘍活性を見出した29)

クルクミンは、自身のα, β-不飽和ケトン基とタンパク質側のSH基のようなnucleophillicな基を介するマイケル付加反応により、多くの標的蛋白質と会合する。こうしてクルクミンはマルチターゲットインヒビターとして機能するものと推測される(図-10)。クルクミンは実際に“Targeted Cancer Therapy (R. Kurzrockら著)”のテキストにもNF-κBの標的阻害薬剤として登場し、実際に膵がんや多発性骨髄腫で臨床試験が行われている。

クルクミンは食用で毒性がほとんど知られていないが、GO-Y030にも今のところ、強い毒性は認められない。FAPのモデルマウスにGO-Y030を経口摂取させるとポリープの数、大きさともに減少することが示された30)図-11)。

標的分子であるβ-Cateninの細胞内蓄積も減少した。クルクミンやそのアナログには水溶性や吸収性などの生体内有用性が低いという問題点が存在する。これらを改良し、トランスレーショナルスタディーとして展開すべく、現在、方向性を模索している。

この他、クルクミンには炎症性腸疾患などの自己免疫疾患、のう胞性線維症、アルツハイマーなどの疾患に対する薬理作用も知られている。また、新規クルクミンアナログには抗トリパノソーマ活性や抗ウイルス活性なども存在し、眠り病やウイルス感染症への応用も検討中である。

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