お知らせ

周術期ナースセミナー 質疑応答

麻酔法の選択

Q1. 事前準備が充分にできない緊急手術などの場合に気をつけていることやスタッフへの指示などありましたら教えてください。

A. 術前検査が不十分となるため把握できていない合併症があるかもしれないと考えて症例に当たります。手術室内でのアレルギーは抗生剤とロクロニウムが多いとされており、導入時の血圧低下の際はこれらのアレルギーが隠れていることがあるので注意が必要だと思います(自分は今までに緊急手術時のロクロニウムアレルギーを2例経験しました)。また、よく「バイタルは保たれています」との事前情報がある症例でも入室時に確かに血圧は90/60くらいあっても脈拍が130くらいある場合があります。これは本人の交感神経が頑張ってやっと血圧を保っている状態が多く、麻酔導入に伴い交感神経が抑制されることで血圧低下することが多い。研修医や若手医師には収縮期血圧より心拍数が高いときは、導入したら血圧が下がる可能性が高いので昇圧薬を複数用意したり太い静脈ラインを用意した方がいいと指導しています。緊急手術時には麻酔科医も視野が狭くなっているので、関わる人全員で注意しあえる環境を普段から作っていくことが重要だと考えます。

Q2. 高齢者の影響のご説明がありましたが、最近高齢者が多く、特に何歳以上で気をつけたら良いでしょうか?年齢よりも基礎疾患でしょうか?

A. 日本を含む多くの国で高齢者は65歳以上と定義されていますが、この年代はまだまだ活動的な方も多く現状に合わないという意見もあり、日本老年医学会などで心身の種々のデータを検討した結果、医学的には75歳以上を高齢者として考えることが多い様です。すなわち、75歳以上で色々な合併症が増える可能性が高くなるということなので年齢で考えるならば75歳以上で特に慎重に考えた方がいいと思います。基礎疾患では透析患者、肝機能低下患者、心機能低下患者、長期絶食で中心静脈栄養が必要な患者さんなどでは年齢に関わらず慎重な管理が必要だと考えます。

Q3. 泌尿器の手術で、硬膜外麻酔が不利益を生む原因についてお願いいたします。

A. 今回提示させていただいた論文では、根治的膀胱全摘術は手術時間が長時間であり侵襲も大きいため、高齢者では硬膜外麻酔に伴う相対的な循環血液量減少や低血圧に対する代償能力の低下が原因ではないかと推察されていました。

Q4. 抜管後に覚醒時興奮で危険が伴う状態のため、落ち着かせるためプロポフォールを使用する場合とセルシンを使用する場合があります。使い分けの根拠について教えていただきたいと思います。また、事前のリスク評価で防ぐことは可能でしょうか。

A. 私の経験不足かもしれませんが、個人的には抜管後の興奮に対してセルシンを使用することはあまりありません。セルシンは作用時間も長く、興奮を抑制した後の鎮静に注意が必要になるかと思います。使用するメリットとしては興奮により静脈ラインが抜けてしまった場合などに筋注できる点が挙げられるかと思います。覚醒時興奮に対してはプロポフォールやフェンタニル、ミダゾラムを手術終了から覚醒までに投与する方法や、デクスメデトミジンの有用性も報告されています。事前のリスク評価ですべてを防ぐことはできないかもしれませんが、いずれの方法であってもある程度の鎮静作用を残存させることにより覚醒時の興奮を抑制でき、また使用する薬剤は拮抗薬があるものか作用時間が短いものがいいのではないかと考えます。

呼吸の危機管理

Q1. カプノグラムのご説明がありましたが、術後や搬送中、病棟で鎮痛鎮静薬を使用する時にも換気の指標として使っていいのでしょうか?

A. 搬送中でもカプノグラム評価は可能となります。
気管内挿管されている場合はポータブル式カプノグラム(当院ではメインストリーム方式)を使用することで評価できます。
抜管後であれば経鼻酸素カニューラを介したカプノグラムもあります。比較的どの施設でも評価できるものとしては心電図モニターから胸郭運動を検知し呼吸回数をみる手段もあります。皆さんのご施設で導入可能なものを検討してみてください。

Q2. 術後PACUでの再挿管の可能性につきまして、先生のご経験上でも結構ですが、その症例の共通した特徴や予兆はございましたでしょうか?

A. 経験上、原因となりやすいものは上気道閉塞や麻薬の残存があるかと思います。
上気道閉塞の際は胸郭のシーソー呼吸を認め、麻薬血中濃度が高い場合、呼吸回数の減少が特徴的なサインになります。いずれも視診や聴診といった簡便な方法で判断可能です。

Q3. 抜管基準の抜管前検査は5項目全てを検査して、抜管している先生が多いですか?それとも、あくまで目安の項目であって先生によってやる項目、やらない項目がありますか?

A. 基本的にはこれらを網羅するようにしています。
特にカフリークテストは長時間手術や気道浮腫をきたす術式、患者病態においては必須になります。陰性反応的中率100%と抜管不可判断においてより有用のようです。

Q4. ブリディオンを入れるタイミングを教えてください。

A. 自身の経験の範疇では、困難気道に際して筋弛緩薬の緊急拮抗を選択したことはありません。
イエローゾーンにおける緊急拮抗についてはガイドラインで選択肢の1つとして提示されていますが、実際問題として覚醒を考慮する時点では、大部分の症例で酸素飽和度が低下し始めています。酸素解離曲線の推移から、その後の主要臓器機能障害を避けるには覚醒を得る時間的猶予が不足し、声門上器具挿入を選択したことしかありません。

緊急手術の麻酔

Q1. 抜管後のケアでもっとも注意すべきことを教えていただけますでしょうか?

A. 気道開通の維持だと思います。抜管前には、抜管後上気道狭窄や再挿管のリスクを評価します。抜管後の評価項目については、人工呼吸器離脱に関する3学会合同プロトコルで示されていますのでご参照ください。
https://www.jsicm.org/pdf/kokyuki_ridatsu1503b.pdf

Q2. 酸素化でHFNCとありましたが、手術室でHFNCを使用することは多いのでしょうか?

A. 当院では、オペ室ではHFNCを迅速導入時には使っていません。酸素の配管があれば、手術室でも使用することは可能と思いますので、酸素化が逼迫している場合には使用を考慮してもいいかもしれません。

体温管理 ~冷たい人とは言わせない!~

Q1. 温風式加温装置を使用していますが、ブランケットの損傷がある場合、効果が低下する気がすると思うのですが、どうしたらいいですか?

A1. 損傷部位から温風が放出されることで、対流方式が変わってしまったり、直接術野へ風が流れてしまうことも懸念されます。損傷に気づかれた際には、新しいものに変更いただければと思います。なお、温風式加温装置対応のブランケットは単回使用となっておりますのでご留意ください。

Q2. 最近導入された浅側頭温によるモニタリングは何かデメリットはありますか?

A2. 低侵襲で深部温を測定できる点で有用と感じております。脳波モニタリングや脳オキシメータを貼付している際には、温度センサーの貼付部位に苦慮致します。メーカー推奨ではありませんが、頸部に貼付し、頸動脈温を測定しても深部体温との相関性が保たれるとの報告もあります。

Q3. 体温低下予防で温風式加温装置を使用していると、段々と体温が上昇し、37度後半になってしまうこともあります。加温を止めるタイミングや体温の目安などがあれば教えていただきたいです。

Q4. 中枢温が37度後半ですが体表は冷たい場合、加温するかどうか悩みます。適切な対応を教えていただきたいです。

A3,4. 日頃から悩ましく思っております。まずは中枢温が上がっても末梢を触れてみてください。もし、冷たければ末梢血管を収縮させてかろうじて中枢温を保とうとしているのかもしれません。その際に安易に加温を止めてしまうのは危険かもしれません。体幹だけでなく、四肢の加温強化もご検討ください。ただし、末梢冷感は末梢循環不全の徴候でもあります。水分バランスが適切かどうか考えることも大切です。ご担当の麻酔科医師と話し合われた上でご対応ください。

Q5. 術前・術後の加温はどのようなブランケットを使用されますか?また術中は高温で加温されると伺いましたが、機器の仕様で自動的に温度が下がった場合は、また高い温度に変更されるのでしょうか?

A5. 当院では、術前は加温機能のないタオルケットを使用しております。術後は病棟であれば羽毛布団、ICUであれば電気毛布を使用しております。恐れ入りますが、このようになった経緯は把握しておりません。NICEのガイドラインでは一貫して積極的な加温を推奨しておりますので、ご施設でできる範囲のことをご検討いただければ幸いです。最高温度での加温はあくまでガイドライン上での推奨であり、そうでなければならないものではありません。機器の仕様で温度が下がった場合は、その理由をご確認ください。設定温度より上昇している場合などでは低温熱傷の危険性もありますので、ご注意ください。なお、皮膚が薄い場合や循環不全の際には低温熱傷のリスクが上がると報告があります。リスクがある場合には無理のない加温を心掛けていただくとともに、全ての患者さんにおいて術中に複数回観察可能な範囲で発赤など熱傷の徴候となる所見がないかご確認いただければ幸いです。

Q6. 整形外科の人工股関節時温風加温装置は避けたほうがよいことを知りませんでした。自施設は温風加温装置しかありません。大学ではどのような対応されているのでしょうか?

A6. 当院では人工股関節手術時は温熱マットレスを使用しております。温風加温装置をご使用されている場合は悩ましいことと思います。文献上、温風加温装置の使用が術後感染のリスクと考えられておりますが、低体温自体もリスクになります。加温した輸液・洗浄液の使用や室温管理などを代替案としてご検討いただいても良いかもしれません。温風加温装置をご使用になる場合は、術野に近い腹部の使用は避け、上肢・胸部に止めることは一つの方法かもしれません。感染が懸念事項になりますので、麻酔科医や外科医と話し合われた上で、バイオクリーンルームでの手術や頭部まで覆う防護服の使用など、ご施設でできる限りの感染対策を心がけてください。

Q7. 整形外科でのIPT手術に温風式加温装置は避けたほうがよいというのは聞いたことはありますが、術後感染の要因や発生率はとしてはどの程度のものなのでしょうか?

A7. ご紹介した術後早期回復プログラムの文献(Acta Orthopaedica 2020;91:3-19)に1編の論文が引用されています。2011年の文献(J Bone Joint Surg Br. 2011; 93(11):1537-44)では、温風加温装置と温熱マットレスの比較で、3.0%と0.8%と有意な差を認めております。ただし、患者背景として年齢や糖尿病の有無は影響しておりませんでしたが、輸血や肥満の有無などの情報はありません。また、英国の報告であり、本邦とは手術室環境が異なる点も注意が必要です。

Q8. 体温管理で徒歩で入出する利点は何ですか?

A8. ベッドや車椅子など静止した状態に比べて、徒歩による運動で直前まで熱産生が行われているので、体温が保持されやすい利点があります。ただし、患者さんの状態に応じてご検討いただければ幸いです。ベッドや車椅子をご利用される際も、できる限りブランケットなどで加温・保温を行ったり、手術室ベッドに移乗した後に温風加温装置でしばらく(文献での推奨時間は10-30分間と長いですが…)加温していただくこともご検討いただけば幸いです。

患者満足度 UP につながる術後管理を目指して

Q1. 再クラーレ化はどの位の期間注意したらいいでしょうか?

A. ロクロニウムの再クラーレ化は帰室後に起こり得ることであり、病棟やICUで注意が必要なので気になるところですね。
ロクロニウムの一般的な効果持続時間は30~40分とされていますが、高齢者では約2倍に延長することがあります。
日本における再クラーレ化の報告では、帰室80分前後してからSpO2低下や意識障害をきたしたというものが多いので、帰室して2時間は注意が必要ではないかと思います。
当院では術中に筋弛緩薬を使用した患者さんに対しては、スガマデクス(ブリディオン)で拮抗しています。
この拮抗薬は非常に有用ですが、それでも術後に筋弛緩薬は残存するケースが報告されています。
麻酔科医は、再クラーレ化が起こらないように(ロクロニウムが過量投与とならないように)ロクロニウムを使用する際には筋弛緩モニタリングを行い、筋弛緩作用が消失するまでの時間も評価しています。
個々の患者さんのロクロニウム効果持続時間をおおよそ予測できます。
通常より延長傾向にある患者さんの場合には、術後看護師さんへ申し送る必要があるかと思われます。

Q2. 術後せん妄予防について質問です。以前COX-2選択的阻害薬の術前投与は効果があると学会で知りました。当院では術前に内服しているセレコキシブを術当日に止めてしまいます(必要ないとの判断で)。貴院でのお取り扱いを教えていただけますか?

A. 術後の積極的な疼痛管理はせん妄予防につながるとされており、COX-2選択的阻害薬も同様でないかと思います。
当院では、一律に術前中止する薬剤の中にCOX-2選択的阻害薬は含まれず、手術当日に継続するかは術前診察・術前指示を出す麻酔科医の判断によります(全て内服中止する医師もいます)。
私は、疼痛があるため処方されているものであれば手術当日も内服継続としています。
他の医師には、内服している理由によって(疼痛のためであれば)基本的に当日内服させる、入室が2件目以降であれば内服させる、という意見がありました。

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