麻酔科専門医育成プログラム
目次
- 専門医制度の理念と専門医の使命
- 専門研修プログラムの概要と特徴
- 専門研修プログラムの運営方針
- 研修施設の指導体制
- 麻酔科医資格取得のために研修中に修めるべき知識、技能、態度について
- 専門研修方法
- 専門研修中の年次毎の知識・技能・態度の修練プロセス
- 専門研修の評価(自己評価と他者評価)
- 専門研修プログラムの修了要件
- 専攻医による専門研修指導医および研修プログラムに対する評価
- 専門研修の休止・中断、研修プログラムの移動
- 地域医療への対応
- 専攻医の就業環境の整備機能(労務管理)
- 専攻医の採用と問い合わせ先
1 専門医制度の理念と専門医の使命
①麻酔科専門医制度の理念
麻酔科専門医とは、周術期の麻酔管理を中心としながら、救急医療や集中治療における生体管理、種々の疾病および手術を起因とする疼痛・緩和医療などの領域において、患者の命を守り、安全で快適な医療を提供できる知識、技能、態度を備えている医師を指す。麻酔科専門医制度は、優れた麻酔科専門医を育成し、国民の健康および福祉の増進に貢献するための制度である。
②麻酔科専門医の使命
麻酔科学とは、人間が生存し続けるために必要な呼吸器・循環器などの諸条件を整え、手術という侵襲を可能にする生体管理医学である。麻酔科専門医は、国民が安心して快適に手術を受けられるように、手術中の麻酔管理のみならず、術前・術中・術後の患者の全身状態を良好に維持・管理するいわば「患者の安全の最後の砦となる全身管理のスペシャリスト」である。また、関連分野である集中治療、救急医療、ペインクリニック、緩和医療の分野でも、生体管理学の知識と技能を生かし、患者のニーズに応じた高度医療を提供する役割を担う。
2 専門研修プログラムの概要と特徴
本プログラムでは、専攻医が整備指針に定められた麻酔科研修の到達目標を達成できる専攻医教育を提供し、十分な知識、技能、態度を備えた麻酔科専門医を育成する。麻酔科専門研修プログラム全般に共通する研修内容の特徴などは、別途に作成した「麻酔科専攻医研修マニュアル」に記されている。
秋田県では、地域の中核病院でも麻酔科常勤医が不在もしくは充足しておらず、専門医の育成が急務である。本プログラムは、秋田大学医学部附属病院を中心とし、それぞれに特徴のある連携施設をローテーションすることで、多様な手術の麻酔管理をバランスよく研修し、麻酔科専門医に必要な知識、技能、そして、一生の礎となる考え方と態度を学ぶことを目的としている。一人の専攻医が経験できる症例が多彩かつ豊富であることが本プログラムの大きな特徴であり、4年間で十分な力をつけることが可能である(脳死臓器移植など、一部の先進的な手術を除く)。
3 専門研修プログラムの運営方針
- 研修の前半2年間のうち少なくとも1年間、後半2年間のうち6ヶ月間は、専門研修基幹施設である本院で研修を行う。
- 研修内容・進行状況に配慮して、プログラムに所属するすべての専攻医が経験目標に必要な特殊麻酔症例数を達成できるように、個々に最大限配慮してローテーションを構築する。
研修実施計画例
時期 | A(標準) |
---|---|
初年度 前期 | 秋田大学医学部附属病院(麻酔) |
初年度 後期 | 秋田大学医学部附属病院(麻酔) |
2年度 前期 | 市立秋田総合病院(麻酔、救急医療) |
2年度 後期 | 市立秋田総合病院(麻酔、救急医療) |
3年度 前期 | 秋田大学医学部附属病院(麻酔、集中治療) |
3年度 後期 | 秋田大学医学部附属病院(麻酔、ペインクリニック) |
4年度 前期 | 雄勝中央病院(麻酔、ペインクリニック) |
4年度 後期 | 大曲厚生医療センター(麻酔、救急医療、ペインクリニック、緩和医療) |
週間予定表(本院麻酔ローテーションの例)
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
午前 | 手術室 | 手術室 | 手術室 | 手術室 | 手術室 | 休み | 休み |
午後 | 手術室 | 術前外来 | 手術室 | 休み | 手術室 | 休み | 休み |
当直 | - | - | 当直 | - | - | - | - |
4 研修施設の指導体制
①専門研修基幹施設

秋田大学医学部附属病院
- 研修プログラム
統括責任者 - 新山 幸俊
- 専門研修指導医
-
新山 幸俊(麻酔、ペインクリニック)
木村 哲(麻酔、ペインクリニック)
佐藤 浩司(麻酔、集中治療)
小玉 早穂子(麻酔、心臓麻酔)
- 専門医
-
根本 晃(麻酔、ペインクリニック)
山本 夏子(麻酔、ペインクリニック)
堀越 雄太(麻酔、集中治療、無痛分娩)
関川 綾乃(麻酔、無痛分娩)
厨川 千香(麻酔、無痛分娩)
今野 俊宏(麻酔)
佐藤 結香(麻酔)
小林 紗雪(麻酔)
水野 香菜(麻酔)
鵜沼 篤(麻酔)
嵯峨 卓(麻酔)
須永 悟史(麻酔)
- 認定病院番号
- 80
- 特徴
- 心臓血管外科(小児を含む)、小児外科など全診療科があり、多彩な手術の麻酔研修が可能。また、ペインクリニック、集中治療など麻酔科周辺領域の研修も可能。
②専門研修連携施設A

市立秋田総合病院病院
- 研修実施責任者
- 佐藤 ワカナ
- 専門研修指導医
-
佐藤 ワカナ(麻酔、ペインクリニック)
長崎 剛(麻酔、ペインクリニック)
安部 恭子(麻酔)
越村 裕美(麻酔、緩和医療)
重臣 宗伯(麻酔、ペインクリニック)
円山 啓司(麻酔、救急医療) - 専門医
-
和田 詠子(麻酔)
- 認定病院番号
- 496
- 特徴
- ペインクリニック、緩和医療、救急医療など麻酔科周辺領域の研修も可能。

秋田厚生医療センター
- 研修実施責任者
- 岩崎 洋一
- 専門研修指導医
-
岩崎 洋一(麻酔)
松本 聖子(麻酔) - 専門医
-
中鶴間 優汰
- 認定病院番号
- 710
- 特徴
- 男鹿南秋地域における医療の中心施設。緊急手術も多く、さまざまな条件下での手術麻酔の研修が可能。

大曲厚生医療センター
- 研修実施責任者
- 大高 公成
- 専門研修指導医
-
大高 公成(麻酔、救急医療)
秋山 博実(麻酔、緩和医療)
中島 麻衣子(麻酔)
菅沼 絋平(麻酔) - 認定病院番号
- 608
- 特徴
- 秋田県南内陸部における中心的医療施設。麻酔、救急医療に加え、秋田県内では数少ない緩和医療が可能な施設である。

由利組合総合病院
- 研修実施責任者
- 山﨑 豊
- 専門研修指導医
-
山﨑 豊(麻酔)
斎藤 厚(麻酔)
岩谷 久美子(麻酔) - 認定病院番号
- 583
- 特徴
- 秋田県南沿岸部における中心的医療施設。幅広い内容の手術麻酔およびリハビリテーションと連動した集中治療が経験可能。

雄勝中央病院
- 研修実施責任者
- 矢部 雅哉
- 専門研修指導医
- 矢部 雅哉(麻酔、ペインクリニック)
- 認定病院番号
- 758
- 特徴
- 秋田県最南端の総合病院。
③専門研修連携施設B

中通総合病院
- 研修実施責任者
- 今井 友佳子
- 専門研修指導医
-
今井 友佳子(麻酔)
本郷 修平(麻酔)
小松 博(麻酔)
- 専門医
- 難波 美妃(麻酔)
- 認定病院番号
- 507
- 特徴
- 地域医療支援病院。心臓血管手術の麻酔研修が充実している。

秋田県立循環器・脳脊髄センター
- 研修実施責任者
- 西野 京子
- 専門研修指導医
- 西野 京子(麻酔)
- 認定病院番号
- 1674
- 特徴
- 脳卒中を中心とした脳神経疾患と循環器疾患に対して、高度な専門的医療を包括的に提供できる体制が整備されている施設である。

本荘第一病院
- 研修実施責任者
- 小松 大芽
- 専門研修指導医
- 小松 大芽(麻酔、ペインクリニック)
- 認定病院番号
- 1672
- 特徴
- 「地域と手をつなぐ医療」を理念として、地域の急性期医療を支える施設である。
5 麻酔科医資格取得のために研修中に修めるべき知識、技能、態度について
①専門研修で得られる成果(アウトカム)
麻酔科領域の専門医を目指す専攻医は、4年間の専門研修により下記の4つの資質を修得し、安全で質の高い周術期医療およびその関連分野の診療を実践し、国民の健康と福祉の増進に寄与することができるようになる。
- 十分な麻酔科領域、および麻酔科関連領域の専門知識と技能
- 刻々と変わる臨床現場における、適切な臨床的判断能力、問題解決能力
- 医の倫理に配慮し、診療を行う上での適切な態度、習慣
- 常に進歩する医療・医学に則して、生涯を通じて研鑽を継続する向上心
麻酔科専門研修後には、大学院への進学やサブスペシャリティー領域の専門研修を開始する準備も整っており、専門医取得後もシームレスに次の段階に進み、個々のスキルアップを図ることができる。
②麻酔科専門研修の到達目標
安全な周術期医療を国民に提供できる資質を十分に備えるために、研修期間中に「麻酔科専攻医研修マニュアル」に定められた専門知識、専門技能、臨床的判断能力と問題解決能力、医師としての倫理性と社会性、学問的姿勢に関する到達目標を達成する。
③麻酔科専門研修の経験目標
研修期間中に専門医としての十分な知識、技能、態度を備えるために、「麻酔科専攻医研修マニュアル」に定められた経験すべき疾患・病態、経験すべき診療・検査、経験すべき麻酔症例、学術活動の経験目標を達成する。
経験症例に関しては、原則として研修プログラム外の施設での経験症例は算定できないが、地域医療の維持など特別の目的がある場合に限り、研修プログラム管理委員会が認めた認定病院において卒後臨床研修期間に経験した症例のうち、専門研修指導医が指導した症例に限って専門研修の経験症例数として数えることができる。
6 専門研修方法
「麻酔科専攻医研修マニュアル」に定められた1)臨床現場での学習、2)臨床現場を離れた学習、3)自己学習により、専門医としてふさわしい水準の知識、技能、態度を修得する。
7 専門研修中の年次毎の知識・技能・態度の修練プロセス
専攻医は研修カリキュラムに沿って、下記のように専門研修の年次毎の知識、技能、態度の到達目標を達成する。

①専門研修1年目
手術麻酔に必要な基本的な手技と専門知識を修得し、米国麻酔学会術前状態分類(American society of anesthesiologists physical status classification: ASA-PS)1〜2度の患者の通常の定時手術に対して、指導医の指導の元、安全に周術期管理を行うことができる。
②専門研修2年目
1年目で修得した技能、知識をさらに発展させ、全身状態の悪いASA-PS3度の患者の周術期管理やASA-PS1〜2度の緊急手術の周術期管理を、指導医の指導のもと、安全に行うことができる。
③専門研修3年目
心臓血管外科手術、胸部外科手術、脳神経外科手術、帝王切開手術、小児手術などを経験し、さまざまな特殊症例の周術期管理を指導医のもと、安全に行うことができる。また、ペインクリニック、集中治療、救急医療など関連領域の臨床に携わり、知識・技能を修得する。
④専門研修4年目
3年目の経験をさらに発展させ、さまざまな症例の周術期管理を安全に行うことができる。基本的にトラブルのない症例は一人で周術期管理ができるが、難易度の高い症例、緊急時などは適切に上級医をコールして、患者の安全を守ることができる。
8 専門研修の評価(自己評価と他者評価)
①形成的評価
- 研修実績記録:専攻医は毎研修年次末に、専攻医研修実績記録フォーマットを用いて自らの研修実績を記録する。研修実績記録は各施設の専門研修指導医に渡される。
- 専門研修指導医による評価とフィードバック:研修実績記録に基づき、専門研修指導医は各専攻医の年次ごとの知識・技能・適切な態度の修得状況を形成的評価し、研修実績および到達度評価表、指導記録フォーマットによるフィードバックを行う。研修プログラム管理委員会は、各施設における全専攻医の評価を年次ごとに集計し、専攻医の次年次以降の研修内容に反映させる。
②総括的評価
研修プログラム管理委員会において、専門研修4年次の最終月に、専攻医研修実績フォーマット、研修実績および到達度評価表、指導記録フォーマットをもとに、研修カリキュラムに示されている評価項目と評価基準に基づいて、各専攻医が専門医にふさわしい①専門知識、②専門技能、③医師として備えるべき学問的姿勢、倫理性、社会性、適性などを修得したかを総合的に評価し、専門研修プログラムを修了するのに相応しい水準に達しているかを判定する。
9 専門研修プログラムの修了要件
修了要件は、各専攻医が研修カリキュラムに定めた到達目標、経験すべき症例数を達成し、知識、技能、態度が専門医にふさわしい水準にあるかどうかである。各施設の研修実施責任者が集まる研修プログラム管理委員会において、研修期間中に行われた形成的評価、総括的評価を元に修了判定が行われる。
10 専攻医による専門研修指導医および研修プログラムに対する評価
専攻医は、毎年次末に専門研修指導医および研修プログラムに対する評価を行い、研修プログラム管理委員会に提出する。評価を行ったことで、専攻医が不利益を被らないように、研修プログラム統括責任者は、専攻医個人を特定できないような配慮を行う義務がある。
研修プログラム統括管理者は、この評価に基づいて、すべての所属する専攻医に対する適切な研修を担保するために、自律的に研修プログラムの改善を行う義務を有する。
11 専門研修の休止・中断、研修プログラムの移動
①専門研修の休止
- 専攻医本人の申し出に基づき、研修プログラム管理委員会が判断を行う。
- 出産あるいは疾病などに伴う6ヶ月以内の休止は1回までは研修期間に含まれる。
- 妊娠・出産・育児・介護・長期療養・留学・大学院進学など正当な理由がある場合は、連続して2年まで休止を認めることとする。休止期間は研修期間に含まれない。研修プログラムの休止回数に制限はなく、休止期間が連続して2年を越えていなければ、それまでの研修期間はすべて認められ、通算して4年の研修期間を満たせばプログラムを修了したものとみなす。
- 2年を越えて研修プログラムを休止した場合は、それまでの研修期間は認められない。ただし、地域枠コースを卒業し医師免許を取得した者については、卒後に課せられた義務を果たすために特例扱いとし2年以上の休止を認める。
②専門研修の中断
- 専攻医が専門研修を中断する場合は、研修プログラム管理委員会を通じて日本専門医機構の麻酔科領域研修委員会へ通知する。
- 専門研修の中断については、専攻医が臨床研修を継続することが困難であると判断した場合、研修プログラム管理委員会から専攻医に対し専門研修の中断を勧告できる。
③研修プログラムの移動
- 専攻医は、やむを得ない場合、研修期間中に研修プログラムを移動することができる。その際は移動元、移動先双方の研修プログラム管理委員会を通じて、日本専門医機構の麻酔科領域研修委員会の承認を得る必要がある。麻酔科領域研修委員会は移動をしても当該専攻医が到達目標の達成が見込まれる場合にのみ移動を認める。
12 地域医療への対応

本研修プログラムの連携施設には、地域医療の中核病院としての市立秋田総合病院、秋田厚生医療センター、大曲厚生医療センター、由利組合総合病院、秋田県立循環器・脳脊髄センター、雄勝中央病院、本荘第一病院など幅広い連携施設が入っている。医療資源の少ない地域においても安全な手術の施行に際し、適切な知識と技量に裏付けられた麻酔診療の実施は必要不可欠であるため、専攻医は、大病院だけでなく、地域での中小規模の研修連携施設においても一定の期間は麻酔研修を行い、当該地域における麻酔診療のニーズを理解する。
13 専攻医の就業環境の整備機能(労務管理)
研修期間中に常勤として在籍する研修施設の就業規則に基づき、就業する。専攻医の就業環境に関して、各研修施設は労働基準法や医療法を順守することを原則とする。プログラム統括責任者および各施設の研修責任者は、専攻医の適切な労働環境(設備、労働時間、当直回数、勤務条件、給与なども含む)の整備に努めるとともに、心身の健康維持に配慮する。
年次評価を行う際、専攻医および専門研修指導医は研修施設に対する評価も行い、その内容を専門研修プログラム管理委員会に報告する。 就業環境に改善が必要であると判断した場合には、当該施設の施設長、研修責任者に文書で通達および指導が行われる。
14 専攻医の採用と問い合わせ先
①採用方法
専攻医に応募する者は、日本専門医機構に定められた方法により、期限までに志望の研修プログラムに応募する。
②問い合わせ先
麻酔科に興味をお持ちの方は、下記フォームより必要事項を記載の上ご連絡ください。