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2025年05月29日(木)

形態解析学・器官構造学講座 板東良雄 教授が著者となる学術論文が国際誌『Int. J. Mol. Sci.』に掲載されました

論文タイトル

Implications of Chitinase 3-like 1 Protein in the Pathogenesis of Multiple Sclerosis in Autopsied Brains and a Murine Model

著者名

Yoshio Bando, Yasuhiro Suzuki, Chisato Murakami, Takashi Kimura and Osamu Yahara

掲載誌

Int. J. Mol. Sci.

研究等概要

板東良雄教授(形態解析学・器官構造学講座)は国立病院機構 旭川医療センター 鈴木康博臨床研究部部長・脳神経内科医師らと共同研究を行い、重篤な神経障害を呈する多発性硬化症(Multiple sclerosis: MS)の病態モデルと剖検脳標本を用いて、Chitinase 3-like 1が多発性硬化症の病態に対して保護的に働く重要な因子であることを明らかにしました。

MSの原因はまだ明らかではありませんが、免疫細胞や自分自身の組織を攻撃する自己抗体がグリア細胞の一つであるオリゴデンドロサイトやオリゴデンドロサイトが形成する髄鞘を攻撃してしまうことによって起こると考えられており、中枢性炎症性脱髄疾患として難病指定されています。慢性的に炎症が惹起され、再発と寛解を繰り返しながら徐々に神経変性が進んでいくのが典型的です。日本においても患者数が近年増加する傾向にあり、特に20-30代女性に多く発症することが知られていますが、MSの病態は未解明な点も多く、十分な根治療法が存在しません。

本研究では、ヒト剖検脳標本を用いて2DーDIGEショットガンプロテオミクス解析を実施し、Chitinase 3-like 1 (CHI3L1)という蛋白質がMSの病態依存的に発現変動することを見出し、オリゴデンドロサイトやミクログリアというグリア細胞に病態依存的にCHI3L1が強く発現誘導されることを初めて報告したものです。また、CHI3L1の機能解析も行った結果、①オリゴデンドロサイトにおいては細胞死を誘発する小胞体ストレスに対して細胞保護的に働く、②オリゴデンドロサイト前駆細胞に対してオリゴデンドロサイトへの分化誘導を促進する、③活性化したミクログリアから産生される炎症性サイトカインの発現誘導を抑制する、④リコンビナントCHI3L1をマウス実験的脳脊髄炎モデルに投与したところ、炎症を抑制することによって症状を軽減することを明らかにしました。つまり、CHI3L1がMSにおける脱髄や軸索変性に対して保護的に働き、神経再生を促進する可能性を示唆します。

本研究成果により、CHI3L1を標的としたMSの治療薬開発が期待されます。

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