お知らせ

2023年06月13日(火)

麻酔・蘇生・疼痛管理学講座 山本 夏子 助教が代表著者となる学術論文が国際誌『Anesthesia & Analgesia』に掲載されました

論文タイトル

Influence of different sevoflurane concentrations on postoperative cognitive function in aged rats

著者名

Natsuko Yamamoto M.D., Tetsu Kimura M.D., Ph.D., Yukitoshi Niiyama M.D., Ph.D.

掲載誌

Anesthesia & Analgesia

研究等概要

近年、高齢者の全身麻酔下手術が増加しているが、術後認知機能障害(Postoperative Cognitive Dysfunction : POCD)は周術期の重要な問題である。POCDの機序は未だ不明であるが、脳内神経炎症が関与している可能性が示唆されている。加齢により活性化した脳のミクログリアが手術侵襲によって過剰に炎症性サイトカインを放出し、慢性炎症を引き起こす。吸入麻酔薬であるセボフルランは、ミクログリアの活性化を抑制し抗炎症作用を示すと報告されている。高濃度の吸入麻酔薬による全身麻酔は循環抑制をきたすため、予備力の低い高齢者に深い麻酔を行うことは臓器血流を低下させる危険を伴う。このような高齢者に対して臓器血流を保つために低濃度のセボフルランで浅い麻酔を行うことは、神経炎症を惹起させPOCDを誘発する可能性がある。本研究では高齢ラットにおいて高濃度セボフルランに比較して低濃度のセボフルランがPOCDを増悪させると仮定し、吸入麻酔薬濃度の差異が術後認知機能へ及ぼす影響を検討した。その結果、高齢ラットにおいて高濃度セボフルランと比較して低濃度セボフルランがモリス水迷路試験の遊泳時間を延長させ、海馬正常CA1細胞数を減少させた。これらの結果より、高齢ラットにおいて低濃度セボフルラン麻酔は高濃度セボフルラン麻酔と比較して、術後空間認知機能や記憶に関与する海馬CA1細胞に対してより大きな悪影響を与える可能性があることが示唆された。
高齢者における麻酔深度とPOCDの関連については以前より議論されているが、結論は出ていない。深麻酔はPOCDを誘発するという報告が多い中、本研究は浅麻酔の術後認知機能に対する悪影響に言及した点で新規性が認められ、高齢者の麻酔管理を再考する契機となる可能性がある。

参考URL

https://journals.lww.com/anesthesia-analgesia/Abstract/2023/04000/Influence_of_Different_Sevoflurane_Concentrations.23.aspx