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2023年06月13日(火)

総合臨床教育研修センター 渡邊 健太 特任助教が著者となる学術論文が国際誌『Journal of Gastroenterology and Hepatology』に掲載されました

論文タイトル

Vonoprazan poses no additional risk of developing Clostridioides difficile infection compared to proton pump inhibitors

著者名

Yohei Saruta, Kenta Watanabe, Tsuyotoshi Tsuji, Yasutaka Takahashi, Hisanori Matsuzawa, Tatsuki Yoshida, Yosuke Shimodaira, Tamotsu Matsuhashi, Katsunori Iijima

掲載誌

Journal of Gastroenterology and Hepatology

研究等概要

クロストリディオイデス・ディフィシル感染症(CDI)院内感染下痢症の主要な原因であり、近年特に先進国において死亡が増加している.高齢、抗菌薬の使用、併存疾患スコア、以前の入院既往、胃酸分泌抑制剤の使用などの因子はCDI発症に関連することが指摘されている。特に高齢、抗菌薬の使用は確立した重要な危険因子とされるが、酸分泌抑制剤についてはエビデンスレベルが低いとされている。通常、口腔内細菌は胃酸による殺菌を受けコントロールされているが、酸分泌抑制剤によって胃酸での殺菌を経ずに深部小腸に到達し、腸内細菌叢を乱すことでCDIを惹起すると考えられている。我々は以前に、全国医療機関レセプトデータベースを用いた大規模な症例対象研究で、新規の強力な酸分泌抑制剤であるボノプラザン(VPZ)がCDI発症に関連し、影響の程度が従来からの酸分泌抑制剤であるプロトンポンプ阻害薬(PPI)と同等であることを報告した(Watanabe K, Am J Gastroenterol 2021)。レセプトベースの研究は情報バイアスの問題もあり、今回我々は関連病院の5年間の全入院患者を対象にしたコホートを用いて、clinical settingにおけるVPZとPPIのCDI発症への影響の程度について比較検討を行った。25,000名以上のコホートを用いてVPZ、PPIがともに独立した危険因子であること、また傾向スコアマッチングによるサブグループ解析によって、VPZによるCDI発症オッズ比がPPIと有意差がないことを示した。
胃酸分泌抑制によるdysbiosisがCDIを惹起するのであれば、より強力な酸分泌をもたらずVPZがより大きな影響をもたらすと推測されたが、実際は患者の背景因子を傾向スコアマッチングで揃えた上で検討しても、以前のレセプトデータベース症例対象研究と同じく、VPZとPPIでオッズ比は同等であった。原因は不明であるが、CDI発症に寄与する酸分泌抑制の閾値が存在し、PPI使用で既に閾値に達している可能性がある。日常臨床における酸分泌抑制剤は適応症に対して必要最低限の期間使用するのが大原則であるが、CDIリスクのある症例であってもVPZ使用を控える必要は必ずしもないと思われ、病態に応じてより強力な酸分泌抑制が必要な場合にはVPZも選択肢となり得る。
CDIは比較的発症が稀であり、無作為化比較試験では有意差が認められていない。CDI発症は副次評価項目になっており、サンプルサイズの影響が考えられる。CDI発症と酸分泌抑制剤についてのRCT実施はCDIの発症が比較的稀なために困難であり、傾向スコアマッチングによる比較群の背景を揃えた検討が有効であった。

参考URL

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgh.16169