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2022年05月27日(金)

第一内科 渡邊 健太 医員の学術論文が国際誌『American Journal of Gastroenterology』に掲載されました。

論文タイトル
Potent Acid Suppression With Vonoprazan vs Proton Pump Inhibitors Does Not Have Higher Association With Clostridioides difficile Infection

著者名
Kenta Watanabe, Yosuke Shimodaira, So Takahashi, Sho Fukuda, Shigeto Koizumi, Tamotsu Matsuhashi, Katsunori Iijima

掲載誌
American Journal of Gastroenterology

研究等概要
クロストリディオイデス・ディフィシル感染症(CDI)院内感染下痢症の主要な原因であり、近年特に先進国において死亡が増加している。CDIは高齢、併存疾患、入院、抗菌薬の使用、胃酸分泌抑制剤の使用などと関連することが指摘されている。通常は口腔内細菌は胃酸による殺菌を受けるが、酸分泌抑制剤によって胃酸での殺菌を経ずに深部小腸に到達し、腸内細菌叢を乱すことでCDIを惹起すると考えられている。我々は、本邦の全国医療機関レセプトデータベースを用いて、2014年4月から2019年1月の期間にCDIの診断および治療がなされた18歳以上のCDI症例4466例と年齢、併存症の重症度などの背景因子をマッチさせた対照13220例を抽出した。そして、2015年から市販された新規の胃酸分泌抑制剤であるボノプラザンと、既存の強力な酸分泌抑制剤であるプロトンポンプ阻害薬(PPI)を比較した時のCDI発症リスクについて検討した。ボノプラザンはPPI以上の酸分泌抑制作用とPPI以上の効果持続時間を持つことがわかっている。結果として、PPIもボノプラザンもともにCDIのリスク因子であることが明らかになったが、その程度は比較的軽微であった(オッズ比:1.3~1.4)。また、PPIと比較して、ボノプラザンがCDIリスクをより高めることはなかったと結論した。
本邦の医療データベースを用いてボノプラザンを含めた酸抑制剤とCDIの関連について検討した。これまでにPPIとCDIの関連についての検討は複数あるが、ボノプラザンとCDIの関連についての検討は本研究が世界で初めてである。予想に反してボノプラザンはCDIとの関連にPPIとの有意差は認めなかったが、既存の酸抑制剤と同様にCDIのリスク因子であることが明らかになった。ボノプラザンやPPIに代表される酸抑制剤は日常臨床で非常に多く処方されており、漫然と継続されているケースも少なくないと感じる。本研究を通じて、臨床医がCDIなどの有害事象の潜在的なリスクを孕んでいることを正しく認識し、適応症以外の症例での漫然とした処方に対する警鐘となれば幸いである。

参考URL
https://journals.lww.com/ajg/Abstract/2021/08000/Potent_Acid_Suppression_With_Vonoprazan_vs_Proton.16.aspx