臨床の紹介

てんかん・電磁気生理学

人間の中枢神経系組織には、異なる部位に異なる機能が局在し、神経ネットワークが複雑で、組織が損傷されると回復が難しく、損なわれた神経機能は代償され難いという、他臓器とは明確に異なる特徴があります。そのため、運動野、感覚野、記憶関連領野、言語関連領野といった、いわゆるeloquent areaを回避したり、脳・脊髄神経系の損傷を回避して手術を行うための工夫が不可欠です。高次脳機能、とくに言語関連領野については、その局在に個人差があることが知られており、症例ごとにオーダーメイドの治療計画を立てる必要性があります。脳神経外科手術においては、豊富な手術経験に基づく正確かつ安全な手術手技が重要であるのはもちろんのことですが、術者個人の能力だけでは補えない部分を最新機器によって補い、より安全性が高く低侵襲な手術法が求められ、近年、急速にその成果が上がってきております。

当科では、各種術中モニタリング法・脳磁計・経頭蓋磁気刺激装置・transcranial doppler・SPO2測定装置などのハイテク機器をいち早く導入し、安全に手術を行う工夫を行って参りました。一般的な脳神経外科の教科書に記載されているような電磁気生理学的手法はすべて施行可能ですが、特に当科で力を入れているのが、各種術中モニタリング・脳磁図です。術中体性感覚誘発電位(SEP)モニタリングは当科教授が世界に先駆けて報告した革新的な術中モニタリング法で、現在では世界中で各種脳神経外科手術に応用され、成果を上げております。以下に、当科で頻用する代表的な術中モニタリング法を列記します。これらはいずれも随時施行可能です。

術中体性感覚誘発電位(SEP)モニタリング:
運動野・体性感覚野近傍腫瘍、一時血流遮断を要する手術、脊椎・脊髄外科手術に利用
術中運動誘発電位(MEP)モニタリング:
 運動野近傍腫瘍、一時血流遮断を要する手術(特に脳動脈瘤クリッピングやバイパス術)、 脊椎・脊髄外科手術に利用
術中聴性脳幹反応(ABR)モニタリング:
聴神経腫瘍摘出術、脳幹部病変、椎骨・脳底動脈系の手術に利用
術中視覚誘発電位(VEP)モニタリング:
後頭葉病変、視神経および視交叉近傍の手術に利用
術中脳神経刺激による誘発筋電図モニタリング
嗅神経、視神経、三叉神経、聴神経を除く大半の脳神経機能の術中モニタリングに利用
術中皮質脳波記録(ECoG):
脳表に直接多極電極をおき、てんかんの焦点源を同定しながら切除するのに利用
24時間ビデオECoGモニタリング:
ある程度広範囲に硬膜下電極を留置し、てんかんの焦点源を同定したり、脳切除予定部分近傍の電極に通電して、機能障害が出ないかどうか(=摘出しても後遺症を生じないかどうか)を 調べるのに利用

これらを単独あるいは併用で行い、安全・確実かつ低侵襲な手術に貢献しております。

バイパス手術時における、一時脳血流遮断時の術中MEP

バイパス手術時における、一時脳血流遮断時の術中MEP。
一旦波形は消失するが、解除後に再度波形が出現し、機能障害を来さず治療できた

脳磁図(MEG)は時間・空間分解能に優れ、非侵襲的に大脳の活動を計測できる優れた脳機能検査法で、近年、その有用性が高く評価されています。国内では数十施設にしか導入されておらず、東北地方では3施設に限られます。

これまで、誘発脳磁界測定による一次感覚野の同定、自発脳磁界測定によるてんかん焦点源推定などが報告されております。計測結果をMRI上に3次元的に投影することで、病変と脳機能局在を明瞭に描出でき、脳機能を最大限に温存するための手術計画に寄与してきました。従来の計測では感覚・運動といった比較的単純な脳機能と病変との局在を確認することが主目的であり、言語や記憶といった高次脳機能の局在に関しては、今後の発展が期待されます。

当科では、従来から行われている脳磁図の臨床応用のほか、独自の手法として、単純な言語課題を提示して言語関連領野を経時的に動画化して把握する手法を開発し、手術症例にも応用して後遺症のない安全な手術計画の一端を担うのに成功しております。

また、従来の視野検査では関知できなかった後頭葉病変の正確な視機能評価や、脊髄髄内変化を伴う脊椎・脊髄病変の手術症例に対する術後機能回復の予後予測、なども行い、成果を報告しております。

脳磁図計測室の概観:坐位でも臥位でも計測可能

脳磁図計測室の概観:坐位でも臥位でも計測可能

これら電磁気生理学の成果を踏まえ、てんかん外来も行っております。

生涯に1度だけてんかんを起こす割合は、約100人に1人とされています。また、てんかん症例の約8割は薬物治療で発作のコントロールが可能とされており、まずは発作型や発作の元となる症候群の正しい理解と正しい薬物療法が基本となります。難治性てんかん症例に対しては、24時間ビデオECoGや脳磁図を含めた精査を行って焦点源を正確に推定し、適応があれば外科治療を行うことも可能です。