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INDEX

研究で立証した事象を臨床に還元することを目標として様々な研究を行っています。

脳腫瘍

悪性脳腫瘍における各種抗がん剤の耐性機序に関する研究

薬剤感受性解析に基づく抗腫瘍薬・耐性克服薬併用による脳腫瘍個別化治療の確立を目指して、培養腫瘍細胞および脳腫瘍移植モデルを用いて耐性克服薬による治療効果増強に取り組んでおり、薬剤耐性が非侵襲的に評価できるRI製剤の臨床応用に向けて研究しています。

ポジトロンCT (PET)によるグリオーマの病態解析および放射線化学療法の評価に関する研究

脳腫瘍のPET画像診断について秋田県立脳血管研究センターと共同研究を進め、治療前のグリオーマの酸素代謝は悪性度に関わらず低下し、糖代謝は悪性度に伴って亢進して生存期間と密接に関連し、局在診断においてはアミノ酸代謝画像(11C-メチオニン)が早期診断および腫瘍浸潤の検出に有用であることを明らかにしました。現在はPETの代謝機能情報を術中ナビゲーションシステムにおけるCT・MRI形態学的画像に統合するシステムが確立し、腫瘍の浸潤範囲を的確に把握し、腫瘍の悪性度を考慮した効果的な外科治療が可能となっています。今後は代謝画像による治療効果判定に基づいて治療プロトコールを立案して集学的に治療することで治療成績の向上を目指しています。

MRIを用いた神経線維画像化に関する研究

秋田県立脳血管研究センターとの提携により開設された連携大学院の一環として錐体路近傍に病変を有する症例においてMRIを用いた神経線維画像化(tractography)により皮質脊髄路障害を評価し、運動機能との関連について解析しています。

くも膜下出血・脳血管攣縮

脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血後、4-14日後に発生する血管攣縮は脳虚血を引き起こし、臨床上死亡・後遺機能障害の主因となっています。医学的管理や手術手技が近年向上しているにもかかわらず、未解決な課題です。脳血管攣縮の原因・機構を明らかにし、予防法や治療法を確立することを目的とした研究が世界的に行われ、当教室でも行っています。脳血管攣縮はくも膜下出血の血腫によって引き起こされ、血腫からのヘモグロビンが脳血管攣縮に対して重要な要因であることが知られていますが、脳血管攣縮を引き起こす真の原因物質は不明です。多様な要因が複雑に関連しており、結果として血管平滑筋の持続的な収縮がおこると考えられています。

我々の研究では、くも膜下出血後の脳血管攣縮は主幹動脈には発生しましたが、その穿通枝(直径約10分の1以下)では発生しませんでした。この結果をふまえ(研究結果(PDFファイル))、脳血管攣縮の主たる発生部位である主幹動脈とその穿通枝におけるくも膜下出血の影響と相違について研究をさらに進めています。

脳虚血・脊髄

脳虚血、脊髄損傷実験グループでは以下のような実験を行い、国内外の学会、学術誌において発表しております。また、スタンフォード大学脳神経外科など、トップレベルの研究機関と連携して常に最先端の研究を目指しています。

脳虚血実験

実験的脳虚血モデルを用いて脳虚血(脳梗塞)後の神経細胞死に関する研究を行っています。人間の脳梗塞と同様の経過をたどる中大脳動脈閉塞モデル、心停止後の脳障害に類似した現象のみられる全脳虚血モデルを用いています。現在までに虚血後に脳内に酸化ストレスが過剰発生し、引き続きミトコンドリア依存性アポトーシスによる神経細胞死が起こることを確認しました。分子生物学的手法を駆使してより詳細な神経細胞死メカニズムの解明と治療法の開発に取り組んでいます。

脊髄損傷実験

実験的脊髄損傷モデルを開発し、これを用いて脊髄損傷後の神経細胞死に関する研究を行っています。このモデルでは筋萎縮性側索硬化症(ALS)モデルと同様に運動ニューロンに酸化ストレスが加わり、その後にアポトーシス様の選択的運動ニューロン死が発生するため、そのメカニズムの解明と治療法の発見に取り組んでいます。

実験手法

PCと連動したin situ hybridization解析装置

PCと連動した in situ hybridization
解析装置

上述のモデルを使い、蛋白の定量・局在決定に免疫組織染色と共焦点レーザー顕微鏡による観察、Western blot法、細胞外アミノ酸濃度の測定にin situ hybridization法を用いています。また、脳・脊髄内の酸化ストレス評価法としてhydroethidine法、組織内のDNA損傷評価にはTUNEL法、ssDNA法を行っています。また、運動学的評価はラット/マウス用歩行装置を用いたビデオ解析を行っています。

遺伝子組み換え動物

運動学的ビデオ解析評価用のラット/マウス用歩行装置

運動学的ビデオ解析評価用の
ラット/マウス用歩行装置

当科では前述の酸化ストレスを中和する内因性酵素superoxide dismutase (SOD)を過剰発現する動物、細胞外アミノ酸グリシンの濃度を調節した動物など各種の遺伝子組み換え動物を用いて実験を行っています。

電磁気生理学

電磁気生理学グループでは、主として脳磁図を用いた研究を行っており、下記の成果を報告しております。

  1. MCE法を用いた言語優位半球および言語特異的皮質領野の同定に関する研究
  2. 頚椎症による感覚障害の客観的評価法の研究

MCE法を用いた言語優位半球および言語特異的皮質領野の同定に関する研究

近年、言語機能局在に関する種々の研究の結果から、従来考えられていたWernicke野とBroca野のみならず、シルビウス裂周囲領域が言語プロセスに広く関与していることがわかってきました。Functional MRIやfunctional PETを用いた研究が主流ですが、いずれの検査法も時間分解能が低く、賦活される脳部位の時間的推移を捉えることができません。賦活化された大脳皮質領域が、その課題遂行において、必要不可欠な脳領域の活動のみならず、課題遂行において2次的な役割しか持たない随伴的な活動にかかわる脳領域までも含んでいる可能性が考えられます。

一方、脳磁図は空間・時間分解能がともに高く、言語関連領野の局在のみならず、言語プロセスの経時的推移を捉えられる可能性が考えられます。これまでにも脳磁図を用いた言語機能局在に関する研究が散見されますが、言語賦活課題が複雑であったり、解析方法が煩雑であったりと手間がかかるのが問題点であり、得られる推定結果も古典的なBroca野やWernicke野といった単一領野のみに限られているものが多いようです。 また、言語処理過程の経時的伝播の様子については、視覚刺激提示による言語プロセスの経時的推移に関する報告はありますが、聴覚刺激提示によるものは渉猟し得ません。

我々は、より単純な言語賦活課題として「しりとり」を、より簡便な解析ツールとしてソフトウェアMCE(Minimum norm Current Estimate)を採用し、聴覚性言語プロセスを解明する研究を行いました。解析結果は動画化することができ、かつマルチアングルで観察できることから、着目時間内に経時的に活動する複数部位の誘発反応を直感的に把握することに成功しました。言語特異的皮質領野はシルビウス裂周囲皮質に広がっており、近年の知見と一致するほか、そのtime courseにも一定の傾向を見いだすことができました。実際の手術症例にも応用してみましたが、手術アプローチの選択に寄与できました。

今後は本法を最適化して言語処理過程の空間的時間的メカニズムを明らかにし、言語関連領域周囲に病変をもつ症例の治療方針決定にさらなる情報を提供したいと考えております。

3次元MRI画像(左)を基にメッシュ(中)を作成し、得られた賦活反応をメッシュ状に投影(右)して動画化

3次元MRI画像(左)を基にメッシュ(中)を作成し、得られた賦活反応をメッシュ状に投影(右)して動画化

左大脳半球シルビウス裂周囲に賦活反応がみられる。その潜時はやや長く、部位は広汎に拡がっている

左大脳半球シルビウス裂周囲に賦活反応がみられる。その潜時はやや長く、部位は広汎に拡がっている

左大脳半球シルビウス裂周囲に賦活反応がみられるが、その潜時は短く、部位の拡がりも少ない

左大脳半球シルビウス裂周囲に賦活反応がみられるが、その潜時は短く、部位の拡がりも少ない

頚椎症による感覚障害の客観的評価法の研究

頚椎症では、重症化すると障害髄節レベル以下の脊髄症状を来したり、圧迫の程度によっては髄内に不可逆性変化を来すことが知られております。頚椎MRIによる形態評価では、病変が可逆的か否かを評価することは困難で、手術治療の効果を客観的に予測することも必ずしも容易ではありません。また、術後に感覚障害の遷延を多く経験しますが、精神的な影響も考えられ、感覚障害の客観的な定量法が未だ確立されていないことから、主観的症状と種々の検査所見が必ずしも一致しないことがしばしばあります。

従来、感覚障害を客観的に評価する試みとして、体性感覚誘発電位(SEP)の潜時および振幅を用いた研究が多数報告されておりますが、SEPの有用性については賛否両論であり、未だ一定の評価は得られておりません。

そこで、我々は、感覚障害の客観的評価法として、脳磁図に着目しました。脳磁図によって求められる体性感覚誘発脳磁界(SEF)はSEPを脳磁図に応用したもので、体性感覚刺激を加えた際に大脳の体性感覚野に誘発される反応を加算平均して評価することができます。特に正中神経、後脛骨神経刺激によるSEFは安定した測定が可能で精度も高く、多数の臨床応用がなされています。SEPと同様に潜時の延長による反応異常の評価ができるほか、誘発反応の信号源を推定し、その局在をMRI上に投影できる利点があります。

正中神経刺激SEFの第1波である1Mは、Brodmann area 3bの錐体細胞の活動に由来すると考えられており、SEPのN20と相同とされています。第2波である2Mの信号源はarea3aないしarea4に由来し、1Mの信号源と約180゜逆向きのベクトルを示します。1M、2Mはその出現頻度に個体差が少なく、刺激強度、刺激間隔などの条件による影響を受け難いとされています。我々は髄内にT2高信号を伴う頸椎症症例に対して術前後のSEFを計測・解析し、その1M、2Mの潜時、信号強度にみられた経時的変化をまとめ、治療効果の客観的判定法として有用と考えられました。どの程度までの潜時延長なら、どの程度の信号強度減少なら機能回復が見込めるのかの閾値を求め、本法を感覚障害の客観的評価法として確立することが今後の課題です。

左正中神経刺激による体性感覚誘発脳磁界を重畳したもの

左正中神経刺激による体性感覚誘発脳磁界を重畳したもの。
刺激によるartifact(▼)、第1波(1M▽)、第2波(2M)がみられる。反応のベクトルは互いに180°反対方向を向く