臨床の紹介

定位放射線照射

定位放射線照射とは

定位放射線照射は頭蓋内の病巣周囲に限局して放射線を集中させて、近接する正常脳組織の被爆を最小限に抑えて病巣に高線量を投与する新しい放射線治療技術です。定位放射線照射には、60COを線源としたガンマ線を用いる方法(ガンマナイフ)と直線加速器によるX線を用いた方法(ライナックナイフやサイバーナイフ)があります。照射方法に関しては、病巣が小さくて1回照射で行う場合を定位手術的照射、病巣が大きくて分割照射で行う場合を定位放射線治療と定義されています。

従来の放射線治療では病巣周辺の正常な脳組織も被爆するために、食欲不振、嘔吐、脱毛などの副作用が引き起こされ、時にQOL(生活の質)の低下を招くこともありました。しかし、定位放射線照射ではこのような副作用を最小限に抑えて治療することが可能であり、通常は退院後すぐに普通の日常生活を送ることが可能です。

ライナックナイフ

治療の様子

治療の様子

マイクロマルチリーフコリメーター

マイクロマルチリーフコリメーター

ライナックナイフによる定位放射線照射は1998年に保険適応となり、当院でも2000年6月からドイツのブレイン・ラボ社が開発したマイクロマルチリーフコリメーター(mMLC)を用いた定位放射線治療計画装置を導入し、稼動を開始しています。mMLCは直線加速器(ライナック)のガントリーに装着し、コンピュータのコントロールにより、数ミリ幅のリーフを自在に制御することで照射野を設定する補助装置であり、これにより不整形な標的に対しても均一で精度の高い照射野の設定が可能となりました。ブレイン・ラボ社のmMLCは26対のリーフで構成され、中央の7対は最小幅3mmのリーフからなり微細な不整形照射野を設定することが可能で、最大で10cm×10cmまでの照射野に対応できるという特徴を有します。

治療方法

ライナックナイフを行うのに必要な入院期間は1回照射の場合は通常3日間で、分割照射の場合は1~2週間の入院が必要です。当院では、原則的に病変の最大径が25mm以下の場合は1回照射で、病変の最大径が25mm以上あるいは病変が小さくても照射体積内に脳神経などの重要な構造物や重要な部位を含む場合は分割照射での治療を行っています。脳神経外科での開頭手術や従来の放射線治療では数週間の入院期間が必要なことを考えると、非常に短期間での治療が可能です。

入院当日
非侵襲的頭部固定装置(分割照射)

非侵襲的頭部固定装置
(分割照射)

ヘッドリング(1回照射)

ヘッドリング
(1回照射)

造影のMRI検査を行います。

分割照射の場合は患者さん自身の頭部に合わせた非侵襲的なマスクを作製し、固定具をつけた状態でCT検査(通常は造影なし)を行います。

治療当日
フレームをつける前のMRI画像とフレームをつけたCT画像の重ね合わせプログラム(image fusion)

フレームをつける前のMRI画像とフレームをつけたCT画像の重ね合わせプログラム(image fusion)

三次元的放射線治療計画専用ソフトウェア

三次元的放射線治療計画専用ソフトウェア

1回照射の場合は午後1時から頭皮の4ヶ所に局所麻酔を行い、ヘッドリングを4本のピンで頭部に固定します(通常は鎮痛・鎮静剤などは使用しません)。その後、CT検査(造影なし)を行います。脳動静脈奇形の場合は、ヘッドリング装着後に脳血管撮影を行い、引き続いて造影CTを行います。

治療計画は撮影された画像情報(CTとMRIの合成画像)をもとに病巣の周囲脳との位置関係、大きさや形を確認して、3次元的放射線治療計画専用のソフトウェアで放射線を照射する精密な位置や線量を計算します。その後、治療装置に頭部を固定して照射を開始します。

通常、1回照射の場合は1病変につき約15~20分、分割照射の場合は約5分程度で照射が終了します。照射中は痛みや熱などを感じることはありません。

退院

通常は治療翌日に退院となります。退院後はすぐに入院前と同様の日常生活が可能となります。治療後は一般的に照射後1ヶ月とその後は3~6ヶ月毎に定期的なMRIと診察を行いながら経過観察します。

症例の内訳

2000年6月から2014年3月までの当院におけるライナックナイフによる治療症例総数は1736例です。内訳は転移性脳腫瘍が約60%を占め、その他に悪性脳腫瘍、良性脳腫瘍、脳動静脈奇形を中心に治療を行っています。最近では、年間で約140~150症例前後の患者さんを治療しています。

ライナックナイフ治療症例総数:645例(2000年6月~2006年12月)

ライナックナイフ治療症例総数:1736例(2000年6月~2014年3月)

適応となる代表的疾患

下記の疾患が主な治療対象ですが、外科治療では治癒切除が困難な脳深部の病変、多発性病変、再発病変にも効果を発揮します。さらに、患者さんへの負担が少ないために、高齢者や合併症などにより外科治療が困難な患者さんでも安全に治療することが可能です。

最終的な治療適応の決定には患者さんの年齢、症状、治療経過などを総合的に判断して、ライナックナイフ担当の脳神経外科専門医と放射線治療医が十分に検討して判断します。

転移性脳腫瘍
良性脳腫瘍
髄膜腫、神経鞘腫、下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫、血管芽腫、 良性神経膠腫、脊索腫、中枢性神経細胞腫、松果体細胞腫など
悪性脳腫瘍
悪性神経膠腫、悪性リンパ腫、胚細胞性腫瘍、髄芽腫など
脳血管病変
脳動静脈奇形、海綿状血管腫、硬膜動静脈瘻
機能的疾患
三叉神経痛など

代表例

脳動静脈奇形

脳動静脈奇形は年間3~4%の割合で出血(くも膜下出血や脳内出血)にて発症し(全体の約2/3)、その他にけいれん発作などのてんかん症状、頭痛、進行性の神経脱落症状を引き起こす病気です。

治療法には開頭による外科的摘出術、血管内治療による塞栓術、定位放射線照射があります。

治療対象:外科的摘出が困難な脳の深部や機能的に重要な部位(運動中枢、言語中枢など)の脳動静脈奇形であり、比較的安全に治療することが可能です。大きさは3cm程度までは1回照射で対応可能ですが、それ以上大きい場合は分割照射(4回)で治療を行っています。

治療効果:治療の主な目的は出血の予防であり、照射後の閉塞率は3年~5年が経過した段階で70~90%です。完全閉塞が得られない場合は、照射後3~5年の時点で追加治療を考慮します。

MRI(T2強調画像)

照射前 照射24ヵ月後

脳血管造影

照射前 照射24ヵ月後
 

照射前

照射24ヵ月後

転移性脳腫瘍

転移性脳腫瘍は他部位の癌が脳に転移したものであり、原発部位としては肺癌が約半数を占め、第2位に乳癌の順で、最近では大腸癌が増加しています。症状の進行は早く、頭蓋内圧亢進症状(頭痛、吐き気)、けいれん発作、上下肢の脱力、言語障害、意識障害などの症状がみられます。

治療対象:当科では原則として脳転移の個数が最大で6個までは定位放射線照射単独で、それ以上の場合は全脳照射(+定位放射線照射)で治療を行っています。また、病変の直径が25mm以下では1回照射、それ以上の大きさの病変(最大で4~5cmまで)に対しては4~6回の分割照射で治療しています。

治療効果:1回照射にて辺縁線量20Gy以上で治療した場合は、照射部位の腫瘍制御率は80~85%程度が期待できます。治療後は、照射1ヵ月後とその後は2~3ヶ月間隔でMRIにて経過観察し、経過中に新たな病変が出現した場合は、再治療が可能です。

  照射前 照射3ヵ月後
 

照射前

照射3ヵ月後

聴神経鞘腫

聴神経鞘腫は通常は徐々に進行する聴力低下で発症することが多く、耳鳴り、めまい、ふらつきを訴える場合もあります。治療の選択肢は一般的に開頭による外科的摘出術と定位放射線照射があります。また、高齢者では本腫瘍の自然歴(平均の腫瘍増大率0.5~3mm/年)を参考に経過観察も選択肢になります。

治療対象:聴力や顔面神経機能を温存したうえでの腫瘍制御が目的であり、一般的には3cm程度までの大きさの腫瘍が適応になります。照射後、一過性に嚢胞を形成して増大することもしばしばあり、すでに脳幹を圧迫しているような症例は治療が困難になります。当科での定位放射線照射は神経機能の温存を考慮して7回の分割照射で治療を行っています。

治療効果:腫瘍が一過性に増大したとしても、手術が必要な状態にならず、最終的に腫瘍制御(腫瘍の増大抑制効果)が達成される可能性は95%前後です。

  照射前 照射36ヵ月後
 

照射前

照射36ヵ月後

髄膜腫

原発性脳腫瘍の中で最も多く(約26%)、特に高齢の女性に多い疾患です。治療は外科的摘出が原則であり、付着部の硬膜および異常骨を含めて全摘出すれば治癒も期待できますが、局在により全摘出が困難な場合も多くあります。

治療対象:主な治療対象は外科的な全摘出が困難な頭蓋底部髄膜腫や術中に大出血が予想される傍矢状静脈洞部髄膜腫であり、原則的には神経症状を出さないように可及的に腫瘍を摘出し、残存腫瘍に対して定位放射線照射を行っています。また、高齢者や合併症などで手術が困難な場合は、定位放射線照射単独で治療を行う場合もあります。当科では、基本的には1回照射で治療を行っていますが、頭蓋底部髄膜腫に対しては原則として7回の分割照射(視神経近傍などでは12~14回の分割照射を行う場合もあります)で治療を行っています。

治療効果:良性の髄膜腫であれば、腫瘍制御率(増大抑制効果)は90%以上が期待できます。ただし、傍矢状静脈洞部や円蓋部の髄膜腫では、照射後に20~30%前後で一過性の脳浮腫が周辺脳に出現する場合があり、注意を要します。

  照射前 照射48ヵ月後
 

照射前

照射48ヵ月後

受診方法

秋田大学医学部附属病院脳神経外科外来の毎週水曜日がライナックナイフの専門外来です(直通電話 018-884-6361、午前8時30分~午後5時)。受診にあたっては、現在治療を受けている担当医に相談していただき、診療情報提供書(紹介状)とCT、MRIなどの画像フィルムをご持参下さい。

ライナックナイフ担当医
資格 担当医名

脳神経外科専門医

鈴木 明、羽入紀朋

放射線治療医

安倍 明