私論

脊椎脊髄外科のアカディミズム発揚に思う

教授 島田洋一

脊椎脊髄外科を専門としてから35年が過ぎた。その頃はまだ脊椎インストゥルメンテー ションもやっと初期のpedicle screwが出てきた時代であり、職人が跋扈する任侠の世界であった。学会では、大御所の経験談に疑いを持たずに頷いていた。論文はもっぱら和文であり、それさえも書かない脊椎脊髄外科医が大手を振っていた。麻痺、大量出血と隣合わせで、他分野とは一線を画すると自負さえしていた。

その後、脊椎脊髄外科よりも関節外科、手外科、腫瘍、リウマチなどに優れた英語論文が多く、全国の整形外科教室で非脊椎脊髄外科の主任教授が続々と誕生した。正に戦国時代の勢力図が一変した感があった。

秋田大学は戦後初の国立大学医学部であるが、歴史に乏しく、臨床の症例数では伝統校に勝てないのは明らかであった。恩師・荒井三千雄教授は私たちを臨床、基礎いずれも秀でてこそ伝統校に対抗できることを教えてくれた。私は、脊椎脊髄外科の他にリハビリテーション医学を専門とし、別の視点からも俯瞰する機会に恵まれた。そこは、基礎医学、アカディミズムの宝庫であり、論文業績を挙げるには絶好の場であった。研究、論文執筆のノウハウを習得してから脊椎脊髄外科をみると、ようやく全国の俊英が重い腰を上げはじめ、他分野と戦える状況になった。教室の論文業績も脊椎脊髄外科が圧倒的になり、名実共に主流と言えた。2017年、第46回日本脊椎脊髄病学会を札幌で主催した。1,575題の応募をいただき、その中から1,102題(採択率69.97%)を採択させていただいた。いずれも研究の質、独創性に優れ、あまりの進歩に感嘆した次第である。

また、quality journalには日本からの論文が数多く掲載され、わが国における脊椎脊髄外科のアカディミズムはすばらしい発展を遂げている。学会も以前のように手術自慢だけの輩がまかり通るほど甘くはなく、中堅、若手いずれも英語論文作成、討論レベルの英会話能力を発揮し、グローバル化している。このような現象は何も脊椎脊髄外科だけに起きているわけでなく、あらゆる整形外科分野に及んでいる。後は、一時期低迷した事を忘れることなく、 整形外科の王道は脊椎脊髄外科であることを示すため、全ての会員が一丸となって邁進することだと思う。

最近の受賞、役員選考における会員の英語論文業績の多さは間違いなくトップレベルであると思う。この状態をさらに向上させるには屋根瓦方式の教育以外にない。自らが英語論文作成能力を持ち、後輩を指導できることが繰り返されることで成し遂げられる。明確に言えることは、英語論文を書いたことがない人はどんな権威でも決して後輩の英語論文を指導できないこと、論文査読を依頼されても対応不能なことである。取り残されないためには自らを高める以外にはない。もはやアカディミズムを伴わない脊椎脊髄外科医が生きていけるほど甘くはない。

しかし、中国の躍進はわれわれをはるかに凌いでおり、 GDP共々負けている。彼らの貪欲な向上心は見習う所が多く、ハングリー精神を持たないとどんどん差をつけられるだろう。国際的に戦うには和文論文は全く役に立たず、英語論文を示して初めて表舞台に立てるのだということをしっかり認識することが求められている。

(Journal of Spine Research Vol.9 No.5 2018 掲載)