私論

ゲルマンの矜恃

教授 島田洋一

2018年サッカーW杯が始まり、睡眠不足の日々が続く。

秋田大学整形外科にはエスパニョーレアキタというサッカーチームがある。アキタのクリスチャード・ロナルドこと尾野祐一CAP、メッシこと高橋靖博選手の二枚看板、かってインターハイにも出場したFWである石川慶紀選手など多士済々である。

サッカーと言えば、ブラジル、ドイツ、スペイン、イタリア、フランス、ポルトガル、ウルグアイなど常連国が圧倒的な強さを誇る。明日いよいよ侍ジャパンはコロンビア戦を迎える。直前の監督更迭というハンディのもと、如何に実力上のチームと戦うか、当事者よりも怪しげなコメンテーターが全く異なる意見を戦わせていて、それを聞くのも楽しい。

速報で、前回優勝のドイツが初戦でメキシコに敗れるという番狂わせが起きた。安定した強さを誇るドイツでも初戦の緊張感はただものではなかったようだ。しかし、ドイツは必ず盛り返し、強さを発揮すると思う。それはゲルマンの矜恃というものは私たちが考える以上に強大だからである。その一端を紹介する。

私は、1988年、大学院を卒業して直ぐに初代・故荒井三千雄教授のご命令によりフィンランド・ヘイノラのリウマチ協会病院に留学させていただいた。森の中にあり、多くの湖が点在するおとぎの世界のようであった。

フィンランドは、サンタクロースの故郷で、クリスマスの日は特別な印象を抱いたものである。長いこと、そのように思って来たが、最近、『東大生が身につけている教養としての世界史、河出書房新社』を読んで衝撃を受けた。それによると『サンタやクリスマスはキリスト教とは関係ない』とある。

紀元800年12月25日、いわゆるクリスマスの日は、『西ローマ帝国復活の日』であり、ゲルマンのフランク国王カール大帝が載冠し、キリスト教文化圏を引き継ぐという意味であった。そのため、この日がクリスマスだからといってサンタクロースが街にやってきたり、クリスマスツリーが飾られたということはない。なぜなら、キリスト教とは関係ないからである。

ゲルマン人は『豊壌の神・オーディン』を崇拝していた。毎年12月の冬至祭に神・オーディンは獣の姿で表された。しかし、キリスト教にとって異教の神は都合が悪く、オーディンの役割はサンタクロース(ニコラウスというキリスト教の聖人)に取って代わられた。クリスマスプレゼントは、オーディンのテーマであった『豊壌』として人々に菓子を配ることに由来する。また、サンタクロースの傍らには獣姿の従者が付くが、これはオーディンの姿であり、ゲルマンの神は今もしたたかに生き続けているのだと。

さらに英語の曜日名の接頭辞は大文字であり、ゲルマンゆかりの神の名に由来する。火曜(Tuesday)は軍神テユ―ル(Tyl)、水曜(Wednesday)は主神オーディン(Odin)、木曜(Thursday)は雷神トール(Thor)、金曜(Friday)はオーディンの妻フリッグ(Frig)の日なのである。ゲルマンの神はここにも生き続けていたのである。

こういうことを知ると、ドイツ、フランスなどがサッカー優勝候補であることは疑いない。そこに彼らの末裔でもある南米の強豪がどう絡んでくるかは興味が尽きない。我が純真な侍ジャパンは、余計なことは考えず、自らの姿を貫き通してほしい。我々が長年親しんできたものには多くの歴史が積み重なっていることを改めて知った次第である。