この問題を解決するため、現職である南谷佳弘胸部外科学講座・教授が中心となり、その卓越したリーダーシップの下、秋田エプソンや秋田県産業技術センターと共同研究・技術開発 を行い、「電界撹拌技術」を応用した迅速免疫染色装置を開発しました。電界撹拌技術とは、パルス状電界を印加することによって液滴に吸引力が作用、上下方向に振動し、スターラーなどの介在物なしに撹拌反応が進展する世界初の革新的な技術です。免疫染色工程を最短13分まで短縮し、術中に客観的かつ正確な病理診断を得ることに成功しました(Imai K, et al. and M inamiya Y; R IHC Study Group. Intraoperative rapid immunohistochemistry with noncontact antibody mixing for undiagnosed pulmonary tumors. Cancer Sci. 2023 Feb;114(2):702 711.)。この研究は多くのメディアで話題となり、経済産業大臣賞を受賞しています。
2012年に始まった入院病床を機能分化させる政府の施策によって、急性期病院と長期療養(慢性期)病院が分かれ、「治す」医療と「癒す」医療の分離が進んでいます。また患者高齢化が進む中、人口減少を見据えて病床数の減少も見込まれます。つまりこの施策により急性期病院への入院が高度医療対象者のみになる上、病床数の点で急性期治療後の療養入院も難しくなる見込みです。この影響で、在宅療養が病後の健康保全の主軸になると考えられます。医療の高度化・複雑化とともに専門的知識が広範囲に多用されている現代において、大学病院から離れた地域で在宅療養する患者であっても、オンラインを用いた対話を通じて専門的知識を持つ医師や看護師から疾病・治療・看護に関する充分な説明を受けられるようにすることが重要です。また医療MaaS(Mobility as a Service)と呼ばれる医療機器と通信機器を装備した車両を用いて患者の居宅近傍まで赴く医療も計画しています。これは患者の体調変化について通信機器を介する医師との相談に加え、バイタルサイン(血圧、脈拍、呼吸数、経皮的酸素飽和度、意識状態)の評価や簡易血液検査(生化学検査、血糖など)、尿検査、超音波検査などを可能にし、必要ならば近隣の病院へ紹介する等の行動決定につなげることができ、患者の心理的・身体的・経済的負担が小さくなります。研究内容としては、生体センサーを用いたバイタルサインを含む生体情報のモニタリング技術、人工知能を応用して日常の健康状態の変動および異常を把握し早期アラートや治療法を提供する技術、近隣病院との連携を可能にする医療情報の「見える化」技術の開発等になる見込みです。この分野に精通した人材が参画してこの新しい医療モデルの構築に邁進して行きます。