腹腔鏡手術

腹腔鏡手術

腹腔鏡手術を積極的に取り入れる秋田大学泌尿器科
秋田大学医学部泌尿器科学教室 教授 羽渕 友則

腹腔鏡手術は、腹腔鏡手術や内視鏡手術ともよばれています。体にメスを入れ大きな傷をつけて行う従来の手術ではなく、小さな穴を開け、カメラと細い手術器械を用いて目的の手術(臓器の摘出、再建など)を行う方法です。

当科では小さな傷、軽い痛み、早い回復、しかも従来の手術以上の成績をあげられるよう積極的に腹腔鏡手術に取り組んできました。

腎腫瘍(腎癌)、前立腺癌、腎移植のドナー(腎臓の提供者)に対する腹腔鏡手術を東北地区では最初に、日本のなかでもいち早く開始し、良好な成績を納めてきました。

現在では、副腎腫瘍ではほぼ全例で、腎の腫瘍(腎盂尿管癌を含む)も9割以上の方で腹腔鏡手術により摘出しています。これらの患者さんは手術の翌日には食事や歩行も可能となります。腎移植ドナーの腎摘出も腹腔鏡を用いており、早期退院が可能です。また前立腺癌に対する腹腔鏡下前立腺全摘除術も日本でいち早く取り入れ、行ってきました。その他の疾患に対しても幅広く腹腔鏡手術を取り入れていますが術式選択には患者さんの希望も十分採り入れますので、担当医に遠慮なくご相談ください。

注:腸や胃、肝臓などが納まっているスペース(腹腔と呼びます)を通して内視鏡を入れる場合を「腹腔鏡」、腹腔を避けてスペースをつくり内視鏡を入れる場合を「後腹膜鏡」と呼んでいます。

現在、当科でも頻度の高い代表的手術を簡単に紹介します。

インデックス(下からお選びください)

  • 副腎(ふくじん)の手術-腹腔鏡下副腎摘除術
  • 腎臓の手術-腹腔鏡下腎摘除術・後腹膜鏡下腎摘除術
  • 前立腺癌の手術-腹腔鏡下前立腺全摘除術
  • 小児の泌尿器、成人の尿路の手術-先天性水腎症、停留精巣など

副腎(ふくじん)の手術-腹腔鏡下副腎摘除術

(1) 副腎について

副腎は腎臓の上方(頭側)に左右にあり、正常の大きさは500円玉程度です。副腎はステロイドホルモン、カテコラミンとよばれるホルモンを作り、分泌します。

副腎は血圧の調節、ストレス時の体調維持、体温の維持、など重要な働きを担っています。ただし、病気で片方の副腎を取り去っても支障ありません。

(2) 副腎に腫瘍があるといわれたら・・・

副腎に腫瘍ができると、ホルモンを過剰に分泌し、高血圧や肥満、糖尿病、不整脈、その他の多彩な症状が出てくることがあります。この様にホルモン過剰の症状を伴う腫瘍では手術による摘出が勧められます。多くの副腎腫瘍は良性であり、悪性(癌)の危険性は少ないのですが、画像検査(CTやレントゲン)や血液検査などで悪性腫瘍が疑われる場合も手術が勧められます。いっぽうホルモン過剰の症状がない腫瘍では、直径3-4cm程度までであれば無治療の経過観察も一つの選択肢となります。

(3) 腹腔鏡下副腎摘除術について

従来は副腎腫瘍に対しては、脇腹や腹部に20-30cm前後の大きな傷をつけて摘出する手術を行っていました。現在では腹に3-4ヶ所の小さな穴を開け手術を行い、目的の副腎腫瘍を摘出します。時間は2-3時間程度と考えてください。

手術後は9割以上の方で手術翌日から歩くことができ、また水を飲んだり軽い食事もとることができます。通常、特に問題が無ければ手術後1週間以内で退院できます。ただし手術前にホルモン異常があった方は、ホルモン値の正常化の確認などでもうしばらく入院が必要となることも有ります。

また輸血が必要な方や開放手術が必要となる方は5%以下です。

ただし、腹腔鏡下副腎摘除術が困難で、開放手術が必要となる場合もあります。腫瘍が著しく大きな場合や隣の臓器(肝臓、膵臓、大血管など)と癒着している場合などです。

腎臓の手術-腹腔鏡下腎摘除術・後腹膜鏡下腎摘除術

(1) 腎臓について

腎臓は高さはお臍より上で、横隔膜の直ぐ下にあり、かなり背側に位置しています。尿をつくり、老廃物を棄てたり、血液産生を促すホルモンや血圧の調節、骨の代謝に関与しています。左右にあり、成人のにぎりこぶし程度の大きさですが、左右のどちらかを摘出しても、残りの腎臓の機能が正常であれば、通常の働きを保つことができます。

(2) 腎臓を摘出する必要がある病気は?
  • 腎臓に腫瘍、とくに悪性腫瘍(癌)ができた場合
  • 腎盂や尿管とよばれる尿の通り道に腫瘍(癌)ができた場合
  • 働きがほとんど無く、体に悪影響(高血圧の原因、発熱や感染の原因、痛みの原因)を及ぼす場合

等です。

腎臓の腫瘍、腎細胞癌についてもっと詳しく知りたい方はこちら(腎腫瘍ページ)

(3) 腹腔鏡下腎摘除術(後腹膜鏡下腎摘除術)とは?

従来の腎臓の摘出手術は、腹を縦か横、あるいは横腹(側腹部と呼びます)を20-30cm程度切開し、大きな傷を付けて行うものでした。傷の痛みが強く、術後の回復にも時間がかかり、手術後に筋肉が弛み手術の傷跡の周りが膨れることや、また美容上も良い状態とは言えない手術でした。

腹腔鏡下(または後腹膜鏡下)腎摘除術は3-5本の小さな穴(直径5mm-15mm)程度の穴を開け、腎臓を摘出する手術です。

当科では腎腫瘍(腎細胞癌)、腎盂や尿管などの尿の通り道の癌(腎盂腫瘍、尿管腫瘍)、無機能腎、腎移植のドナーなどほとんどの腎臓を摘出する必要のある病気に対して、この腹腔鏡下(後腹膜鏡下)腎摘除術を行っています。

手術時間は2-4時間で、標準的な経過では、手術翌日には食事が開始でき、歩くことも可能です。また腎臓は4-10cm程度のソラ豆型の臓器ですので摘出には小さな傷が必要ですが、工夫して取り出しますので、取り出す傷も下腹部に4cm程度(虫垂炎程度です)の傷が付くだけです(図1)。

腎臓を摘出する経路として、腸や胃が位置する腹腔と呼ばれるスペースから内視鏡を入れる場合を「腹腔鏡下腎摘除術」、背側から腎臓が位置するスペースに内視鏡を入れる場合を「後腹膜鏡下腎摘除術」と呼びます。それぞれ、利点も欠点もあり、どちらが優れているということはありません。当科では「腹腔鏡下」と「後腹膜鏡下」を病状や患者さんの状態を考慮しながら選択しています。

また小さな腎腫瘍に対しては腹腔鏡で腎臓を部分的に切除する方法も安全に行うことができます。

腎移植のドナー(移植腎臓の提供者)からの腎摘出手術も後腹膜鏡下に行っています(腎移植のページもご覧ください)。ドナーの方も手術翌日から食事や歩行ができ、手術後1週間で退院できます。

前立腺癌の手術-腹腔鏡下前立腺摘除術

(1) 前立腺癌に対する治療法は?

前立腺癌に対する治療法は病気の状態、進行度、患者さまの状態、希望など様々な要素で決める必要があります。治療法には、

  1. 手術療法
  2. ホルモン療法
  3. 放射線療法
  4. 化学療法
  5. 待機療法(経過観察)

などがありますが、これらを組み合わせて治療を進めることもあります。そのうち手術療法のなかでも下腹部を切開し、前立腺精嚢を取り除くのが「恥骨後式前立腺全摘除術」で、同様に前立腺精嚢を内視鏡(腹腔鏡)下に取り除くのが「腹腔鏡下前立腺摘除術」です。

(2) 「腹腔鏡下前立腺摘除術」について

従来の前立腺癌に対する標準的な手術「恥骨後式前立腺全摘除術」はおへそ(臍)の下方を約15cmほど切開し、前立腺と精嚢と呼ばれる部分を摘出するものです。

一方、「腹腔鏡下前立腺全摘除術」でも摘除する部分や範囲は同様ですが、下腹部に5ヶ所の穴(直径5-12mm)をあけ、細長い道具を用いて手術を行います。

「腹腔鏡下前立腺全摘除術」には以下の特徴があります。

  1. 術後の回復が早い
    だいたいの人が手術翌日に自力で歩くことができます。また、手術翌日に食事や流動物をとることができます。
  2. 出血量が少ない
    腹腔鏡手術により前立腺手術の難点である出血量について改善が得られることが知られています。
  3. カテーテルが早く抜ける
    前立腺癌の手術後は約2週間ほどカテーテルという細い管を尿道においておく必要がありますが、「腹腔鏡下前立腺全摘除術」では術後6日目にはカテーテルを抜く予定としています。

ただし、「腹腔鏡下前立腺全摘除術」にも欠点があります。病状が進展している例、癒着がある例や出血が多いと従来の開放手術の方が安全です。また前立腺癌の手術療法の欠点である「尿失禁」や「性機能の低下」がおこる割合も従来の手術と「腹腔鏡下前立腺全摘除術」では大差がないとされています。また手術時間が従来の開放手術より長くかかります。最も重要な前立腺癌のコントロール(治癒の成績)に関しては、長い期間の成績が出ていませんので、確定的ではありませんが、これは大差ないと考えられています。

当科では前立腺癌の病状と患者さんの希望を加味して手術療法を含めた治療法を選択しますので、ご遠慮なくご相談下さい。

なお、腹腔鏡下前立腺全摘除術についての詳細はこちらのページをご覧ください。

図1

その他の泌尿器腹腔鏡手術

小児泌尿器、先天性水腎症、停留精巣など

腹腔鏡下手術は泌尿器科の多くの病気に対して応用できます。当科では以下のような病気に対して、より回復が早く、また術後の傷跡もめだたない手術と同等に、成績の向上を目指して腹腔鏡(後腹膜)下手術を行っています。

  • 先天性水腎症、腎盂尿管移行部狭窄症、その他の尿管の奇形:腎臓から尿を運ぶ腎盂、尿管とよばれる尿路に狭いところなどがあり、水腎症とよばれる状態になることが多いです。これらの病気に対して、異常のなる部分を切除し、再建する手術を腹腔鏡(後腹膜)下に行います。
  • 停留精巣:通常、精巣(=こうがん)は陰嚢(いんのう)に納まっています。精巣は、胎児期にはお腹の中にありますが、生まれるまでに陰嚢に移動します。しかし、そのままお腹の中や鼠径部(そけいぶ=足の付け根)に位置する場合があります。これが停留精巣です。この場合、精巣の位置と状態の確認、陰嚢に納める手術などにおいて、腹腔鏡が大いに役立ちます。

このほかの病気に対しても腹腔鏡手術、後腹膜鏡手術を行っています。

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