膀胱癌

膀胱癌

膀胱癌について
秋田大学医学部泌尿器科 講師 堀川洋平

インデックス(下からお選びください)

  • はじめに
  • 膀胱の役割
  • 膀胱癌には2つのタイプがあります
  • 膀胱癌の原因と危険因子について
  • 膀胱癌の自覚症状
  • 膀胱癌の診断
  • 膀胱癌の治療
  • 化学療法について

はじめに

膀胱癌は泌尿器科で扱う癌のなかで比較的頻度が高いものです。発生率は、人口10万人あたり男6人、女2人くらいであり、発症する方の80%が60歳以上と比較的高齢者に多いがんです。このホームページでは、一般の方に膀胱癌について知っていただくとともに、当科での治療について紹介させていただきます。

膀胱の役割

膀胱は、お腹の下の方にあり、腎臓で作られた尿を溜めておくための臓器です。

膀胱は平滑筋という筋肉でできており、その筋肉は排尿のとき膀胱を収縮するために働きます。腎盂から尿管、膀胱、前立腺(尿路といいます)の内側は移行上皮という粘膜に覆われています。移行上皮は、膀胱が伸びたり縮んだりするために都合のよい構造になっています。尿が溜まると膀胱はふくらみ、排尿すると膀胱は縮むので、風船のような臓器と考えてください(図1)。

膀胱の役割

膀胱の役割

膀胱癌には2つのタイプがあります 

膀胱がんには、いくつかの組織型がありますが、90%以上のがんは、膀胱の移行上皮から発生する移行上皮がんです。膀胱癌は、大きく次の2つのタイプにわけられます。

(1) 表在性膀胱癌

悪性度の低い癌で、膀胱の内腔(膀胱の内面)に突出しますが、根は浅く、表面は乳頭状(カリフラワーの様)で狭い茎を持っています。膀胱癌の70%はこのタイプです。内視鏡的に治療できますが、半数以上の患者さんで膀胱内に再発します。癌の深さは粘膜の下に及ぶ場合もありますが、膀胱の筋肉の層には達していません。

また、その他肉眼的に腫瘍が確認できない上皮内がん(Carcinoma in Situ: CIS)と呼ばれるタイプもあります。これは、細胞の顔つきが悪く、また発育が速いため、その約50%が次に述べる浸潤性膀胱がんに移行しやすいため注意が必要です。

(2) 浸潤性膀胱癌

悪性度が高く、根が深く膀胱壁の深くまで達しており、転移もしやすくなります。このため、内視鏡手術で治療することは難しく、膀胱摘出手術や抗がん剤などの身体に負担のかかる治療が必要になります。

膀胱癌の2つのタイプ

膀胱癌の2つのタイプ

膀胱癌の原因と危険因子について

膀胱がんは遺伝子の病気であることがあきらかになってきました。様々な原因により遺伝子に傷がついて、癌になると考えられています(遺伝子の病気とは、生まれつき癌ができ易いということではありません。普通に生活しているうちになんらかの発癌物質に曝露されて、遺伝子に傷がついて細胞が癌化していくことをいいます)。

膀胱癌の危険因子としては以下のようなものが考えられています。

  • 喫煙:タバコを吸わない人に比べて発生頻度は4―7倍高くなります。タバコに含まれる60種類もの発がん物質のうちいくつかの物質が作用することで癌化を引き起こすとかんがえられています。
  • 化学物質:職業性膀胱癌の原因です。有機化学物質を扱う職業の人で、癌の発症リスクが増加すると報告されています。1895年に初めて、膀胱発癌と化学染料との関係が報告されました。それ以降、様々な原因物質がみつかり、これらを職業性に曝露された人は有意に膀胱癌の発生率が高いことがわかりました。
  • 膀胱結石/慢性炎症:膀胱結石や慢性の炎症がある場合もかかりやすいと言われています。これは、慢性の刺激が膀胱粘膜に加わることで発癌を引き起こす可能性が考えられています。

膀胱癌の自覚症状

血尿がもっとも重要な症状です。突然血尿をきたし、自然に消失することがあります。このような時は、安心せずにすぐ泌尿器科を受診しましょう。

また、排尿時に痛みを感じたり、頻尿をきたした場合も注意が必要です。さらに、癌が大きくなり下部尿管を閉塞すると、腎臓が内部が拡張し水腎症をきたすと腰背部の痛みをきたす場合があります。


膀胱癌の診断

外来を受診していただくと、問診のあとに以下のような検査を行うことになります。

(1) 尿細胞診

患者さんからいただいた尿中に、癌細胞が入っていないかどうかを顕微鏡で検査するものです。患者さんに、負担のかからない検査ですが、必ずしもすべての膀胱癌を診断できるとは限りません。特に、悪性度の低い癌では、尿に癌細胞が落ちてくることは少ないため確実な検査とはいえません。しかし、先に述べた上皮内癌(CIS)では、細胞がはがれやすいため、陽性率は高くなります。

(2) 膀胱内視鏡検査 (図3)

膀胱内をカメラで観察します。昔は、硬性鏡と呼ばれる、金属棒のようなカメラで検査しており、その痛みのため患者さんから最も嫌われる検査でした。しかし、現在は軟性膀胱鏡を使用(胃内視鏡のようなやわらかいカメラ)しておりますので、ほとんど痛みを感じることはないでしょう。この検査は、膀胱内を直接観察するので、最も確実な検査といえます。当科で使用している電子内視鏡では画像が鮮明であるため、米粒のような小さな癌も容易に発見できます。

膀胱内視鏡検査

膀胱内視鏡検査

(3) 生検

膀胱鏡検査の際に、膀胱癌らしきものを見つけたとき、鉗子と呼ばれる小さなはさみを使って組織の一部を採取し病理組織学的に検査する方法です。がんの組織型や悪性度を診断することができます。また、肉眼的にわからない上皮内癌(CIS)と呼ばれるものは、この方法で粘膜を採取することで診断できます。

(4) DIP(排泄性尿路造影検査)

造影剤を腕から点滴して、その後何回かレントゲン写真をとります。

この検査では、腎臓、尿管、膀胱が造影されるため、膀胱よりも上の尿路にできた癌を見つけだすのに使用します。古くからある検査ですが、診断に重要なさまざまな情報が得られます。

(5) 超音波検査(エコー)

この検査は、膀胱に尿を溜めた状態で行います。エコーをお腹にあてるだけですので、患者さんへの負担はほとんどありません。しかし、大きな膀胱癌は検出できますが、小さいものは見落とすことが多いのが欠点です。また、この検査のときには、膀胱だけでなく腎臓も一緒に検査することができます。

(6) CT(コンピュータ断層撮影)

この検査では、体を輪切りにしたような画像を得ることができます。造影剤を使いながら、この検査を行うことで、癌の進達度(膀胱壁のどこまで癌が進展しているか)、リンパ節などへの転移の有無をある程度まで診断できます。この検査によって膀胱がんの治療方針を決めることになります。当科では、外来受診していただいて、検査の予約をしていただき、後日CT検査を行うことになります。

また、患者さんによっては病気の進行度をよく調べるために、MRI(磁器共鳴画像検査法)、骨シンチグラフィーなどの検査を追加することがあります。


膀胱がんの治療

膀胱がんの治療は、表在性膀胱がんと、浸潤性膀胱がんで異なります。

表在性膀胱がんの治療

表在性膀胱がんの治療は、内視鏡手術が第一選択となります(TUR<Transurethral resection>と呼ばれる手術です)。内視鏡についた電気メスで、膀胱内にできた腫瘍を図のように切除します(図4)。この治療が可能なのは、腫瘍が小さいこと、腫瘍の根が膀胱の筋層まで入りこんでいないこと、腫瘍の数が多すぎないことです。

しかし、腫瘍が肉眼的に明らかでない上皮内癌(CIS)と呼ばれるタイプでは切除できません。この手術はお腹を切らずにすみますので、手術の翌日には普通の状態にもどることが可能で、約1週間の入院で治療が可能です。しかし、この方法で一度癌を切除したとしても、安心はできません。再発率が70~80%と高率のため、手術後も定期的に受診していただき、膀胱内視鏡検査で再発の有無を確認する必要があります(何回も再発を繰り返すうちに、浸潤性膀胱癌に移行してしまうこともあるため注意深い経過観察が必要なのです)。

また、患者さんによっては、再発予防のため膀胱内に抗癌剤を注入することがあります。

TUR=Transurethral resection

TUR=Transurethral resection

膀胱内注入療法について

表在性膀胱癌治療の問題点として再発率が高いことが挙げられます。再発を予防するため内視鏡手術後に抗癌剤を膀胱内注入することがあります。方法は、尿道からカテーテルという管を膀胱まで挿入して、その管から薬液を膀胱内注入し、しばらく膀胱内に薬を溜めてもらいます。

この方法では、ある程度の再発予防効果が期待できますが、いまだに完全なものではありません。当科では、膀胱内注入療法をより確実な効果のある方法にしていくために、投与方法などについて研究を行っています。

膀胱内注入する薬剤のひとつに、BCG(弱毒化した結核菌)という薬があります。これは、特に上皮内癌(CIS)に非常に有効な薬剤であり、抗腫瘍効果と再発予防効果における有効性が確立されています。しかし、膀胱刺激症状・発熱・感染症など副作用もあるため慎重に使用しています。

浸潤性膀胱癌の治療

膀胱癌が巨大なもの、浸潤型であり悪性度のきわめて高いものでは、膀胱を全部摘出する方法がとられることが多いです。患者さんの希望により、放射線治療や化学療法などで膀胱を温存することも考慮されます。

膀胱摘出手術と尿路変更術

膀胱摘出手術は、男性では、前立腺も含めて摘出するのが普通で、場合によっては尿道まで摘出することもあります。女性では、尿道も含めて摘除するか、子宮、卵巣の合併切除を行う場合があります。また膀胱摘出のときには、骨盤内のリンパ節もとります(リンパ節郭清といいます)。

膀胱摘出後は、尿を体外へだすために以下の尿路変更術が必要になります(図5)。

  1. 尿管皮膚ろう
    尿管の断端をそのまま皮膚に開口させる方法で、ストーマができるためパウチと呼ばれる尿を溜める装具を皮膚に貼り付ける必要があります。高齢者や合併症のため複雑な尿路変更ができないときに行います。
  2. 回腸導管
    小腸(回腸)の一部を、導管として使う方法です。腸の蠕動運動を利用して尿を体外へ出します。尿はストーマから流れているため、パウチという尿を溜める装具を皮膚に張りつけておく必要があります。手術手技が比較的簡単であることと合併症が少ないことから、古くからある方法(1950年ころに始めて報告されました)ですが、いまだに利用されることが多い安全な方法です。
  3. 自然排尿型代用膀胱
    小腸で作成した膀胱を尿道に吻合してつくります。この方法では、自然に尿道から排尿できるのが特徴です。しかし、本来の尿意がなくなるため時間を決めて排尿することが必要になります。手術は多少複雑になりますが、術後はストーマがなく尿を溜める装具を身体につける必要がないために、患者さんのQOL(生活の質)は非常によいものです。当科では、標準的な術式としています。
膀胱摘出手術と尿路変更術

膀胱摘出手術と尿路変更術

当科では、すべての手術の経験があり、患者さんの病状や全身状態、患者さんの希望を伺って納得した治療を受けていただけるよう努力しています。

化学療法について

浸潤性膀胱癌の患者さんでは、膀胱摘出手術後に補助療法として抗癌剤による治療を追加することがあります。M-VAC療法と呼ばれる方法が一般的で、シスプラチン(様々な癌の治療に使われている薬です)を中心として4種類の薬を組み合わせて使用します。

化学療法は効果もありますが、その反面、副作用がでるため、入院での治療が必要です。M-VAC療法は、癌が進行しており手術が難しいときにまず最初に行うこともあり、これにより手術が可能になることもあります。

また、治療後しばらくして癌が再発してしまった患者さんにも有効な手段です。患者さんは、ひとりひとり薬に対する感受性が異なるため、当科では、患者さんの希望や全身状態などを考慮して、その患者さんに考えうる最もよい治療ができるよう努力しています。

当科ではM-VAC療法以外にも、新しい化学療法の可能性を研究しています。

メニューを開く