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研究の紹介

呼吸器外科

1.肺癌のセンチネルリンパ節の研究

従来肺癌に対する手術は病状の進行具合に関わらず、肺の切除とリンパ節郭清(リンパ節の摘出)を行ってきました。しかし多くの場合は、治療的にあまり意味のない転移陰性のリンパ節の摘出が行われているのが現状です。この治療的に意味を持たないリンパ節郭清を省略し得るか、個々の患者さんで調べる方法をセンチネルリンパ節生検法といいます。世界でこの方法を肺癌に対して研究しているのは当大学病院を含めて数施設のみです。特に私どもは放射線被爆が問題となる放射性同位元素を用いずに、安全な磁力を利用してセンチネルリンパ節生検を行う全く新しい方法を開発して研究中です。近い将来私どもの方法が普及して、無駄なリンパ節郭清を行わなくても肺癌の手術が安全にすむようになると期待して医局員一同研究に励んでいます。

肺癌のセンチネルリンパ節の研究
肺癌のセンチネルリンパ節の研究

2.磁場誘導加熱による癌の新しい温熱療法に関する研究

秋田県は全国でもがん死亡率が高く、がん対策基本法の施行に伴い、がん治療対策は県内の喫緊の課題となっています。肺癌に限ればいまだに進行がんの比率が高く、根治的な外科切除が可能な例は30数%に過ぎません。手術や放射線治療が適応とならなかったり、抗癌剤が効かなかった進行肺癌には、患者さんのQOLを保持しつつより侵襲の少ない治療が望まれます。

近年、低侵襲治療の1つに温熱療法が注目されており、癌細胞は正常細胞と異なり43℃近傍でアポト−シス(がん細胞の自殺)が増大する性質を応用したものです。

私どもは秋田大学工学資源学部、TDKとの共同研究により、外部から磁場を加えると発熱するが、一定の温度(キュリ−温度)に達すると磁性が失われて発熱が停止する固有の物性値を有する感温性磁性体を開発、この43℃にキュリー点を有する磁性体を腫瘍内に注入し、ループ形状コイルを用いて磁場を加えて自動定温誘導加熱する方法を考案し、動物実験において腫瘍の著明な縮小効果を得ることに成功しました。現在私どもは本法の臨床応用を目標に、工学・医学共同で研究に取り組んでおります。

磁場誘導加熱による癌の新しい温熱療法に関する研究
磁場誘導加熱による癌の新しい温熱療法に関する研究

3.リンパ節転移メカニズムの解明

私たち外科医が根治しうるもの、その命題はリンパ節転移です。腫瘍を切除することは当然ですが、リンパ節郭清、その転移制御が外科医の腕の見せ所です。 私たちは、肺がん患者のセンチネルリンパ節において、線維芽細胞増生因子の一つである Transforming growth factor (TGF) -β1 濃度が高く、そのため強力な抗原提示細胞である樹状細胞が減少することを報告しました。TGF-β は抗腫瘍免疫に抑制的に働き、種々の癌で腫瘍増殖に働きます。さらなる解明のため、マウスTGF -β1 強発現癌株を作成し検討したところ、腫瘍由来の TGF-β1 は所属リンパ節への樹状細胞の遊走を抑制し、センチネルリンパ節転移が増加することを証明しました。この免疫逃避機構が転移メカニズムの一因とすれば、補助治療としてのTGF-β 阻害薬が手術の局所治療効果を高め、抗がん剤や放射線治療の効果を飛躍的に高めることができると思われます。

リンパ節転移メカニズムの解明
リンパ節転移メカニズムの解明