腎移植

腎移植

秋田大学医学部泌尿器科の腎移植
秋田大学医学部付属病院 腎疾患先端医療センター センター長 佐藤 滋

インデックス(下からお選びください)

  • はじめに
  • 内視鏡下ドナー腎摘出術
  • 移植適応の拡大と成績
  • 献腎移植増加のための活動

はじめに

最近、秋田大学の生体腎移植数が増加しています ( 図1)。その背景と今後の腎移植医療に向けた私達の活動についてホームページをとおして伝えします。

秋田県内での最初の腎移植は、1975年に秋田大学で施行された姉妹間の生体腎移植でした。しかし、その後腎移植件数は1-2年に1件行われる程度にとどまり、1975年から1997年までの22年間でわずか11件でした。この間腎移植希望者が少なかったわけではありません。秋田県移植友の会の調査によれば、1997年までに秋田県内在住の108名が腎移植を受けています。そのうち97名(90%)は県外の施設で腎移植を受け、その後も遠距離の通院治療をおこなっています。

このような現状を打開するため、1998年2月14日に県内では4年ぶりの生体腎移植が新しいスタッフによって再開されました。この年は年間8件の生体腎移植が行われ、年末の地方紙は「生体腎移植ラッシュ」と報じています(図2)。腎移植が盛んな地域からみればわずかな件数ではありますが、22年間で11件の移植経験しかなかった地域においては大きな変化でありました。翌年の1999年11月には県内初の献腎移植が行われました。

内視鏡下ドナー腎摘出術

2001年7月からは内視鏡下ドナー腎摘を行うようになりました。内視鏡手術導入前は30 cmの皮膚切開をおいていましたが、この手術法の導入により傷は7 cmとなり、筋肉も切らずにドナー腎摘が出来るようになりました(図3)。この手術法はドナーの身体・精神的負担を軽減するばかりでなく、レシピエントがドナーに対して抱く精神的負担をも軽減しているように思われます。この手術法の導入は東北初であり、その利点を多くのマスメディアをとおして県民に伝えてまいりました(図4)。米国では同手術法が主流になりつつあり、我国でも内視鏡下ドナー腎摘出術を行っている施設が増加していかなければならないと考えます。

移植適応の拡大と成績

内視鏡手術の導入のみならず、小児、夫婦間(図5)、ABO不適合(図6)、高齢者移植(図7)など移植適応を拡大してまいりました。特に夫婦間移植が多いのが特徴です。多くの高齢移植希望者にはドナーになり得る親兄弟がありません。余生を共に生きる夫婦間において、移植による生存期間の延長と生活の質の向上を共に願っている方々がいらっしゃいます。高齢夫婦間移植はこれからも増加していくものと思います。

このような移植適応の拡大により、腎移植を再開した1998年から一昨年までは年間7?10件であった移植数も、昨年には21件施行し今年も7月までに13件が終了しました。1施設における件数としては全国で5番目なります(図8)。この5年間で総計67件の腎移植(内生体腎移植66)を行ったことになります。8月以降も年内に10件以上が予定されています。現在では隣県からの移植希望者も受診されるようになってきました。

67件の移植中、現在61名の方々で移植腎が生着(機能)しております(図9)。また、移植患者さんの会「リライフ」も充実し、情報交換や腎移植体験談集の発行を行っています(図10)。「リライフ」とはリセット・オブ・ライフの意味で、患者さん達が銘々したものです。

献腎移植増加のための活動

一見順調にみえる秋田大学の腎移植ですが、大きな問題を抱えています。それは献腎が1995年に1件あっただけで、この数年間まったくないことです。そして67件の腎移植のなかで、献腎移植は他県から搬入されたわずか1件だけです。

秋田県内には1,500余の慢性透析患者さんがおり、そのうち100名以上が献腎移植登録をしています。1997年3月の時点で、秋田大学を第一移植希望施設としている登録者はわずか1名で、他はすべて県外の移植施設を第一希望としていました。それまでの秋田大学の腎移植医療に対する透析患者さんと透析施設医療者の評価でもありました。その後再開した私達の腎移植医療の成果が除々に浸透し、秋田大学を移植希望施設とする方々が増加し、2002年には80名以上が当施設に登録しています(図11)。この方々は臓器提供者を待たなければなりません。

秋田県内でドナー情報が全くないわけではありません。一昨年には9件のドナー情報があり、そのうち6名は意思表示カードを所持していました。しかし、その多くは心停止後の情報であり、そこには生前の意思を生かせない医療システムがありました。私達はこの事実を重く受け止め、移植医と県移植コーデディネータとの共同作業で秋田県の臓器提供推進プログラムを2001年12月から開始しました。

私達は推進プログラム着手にあたり、意思表示カードは次第に普及しているものの、生前の意思を確認する医療システムが構築されていないことを最も重要視しました。死を迎える患者さんが、どのような死を迎えたいと願っていたのか。そのなかで臓器提供の意思はどうであったか。これらを確認しなければならない医療体系が近い将来訪れることを、私達の臓器提供プログラムを推進させる基本理念としました。

私達が考え取り組んでいるプログラムの骨子は、

  1. 県民への啓発
  2. 行政への働き掛け
  3. 死後の臓器提供に関する意思を確認する院内コーディネーターの設置と育成・運営、各病院内での移植説明会
  4. 県内脳外科医との連係
  5. 医局内摘出チームの養成

の6項目です。特に院内コーディネーターの設置と育成は重要課題です。患者の生前の意思を確認できる医療システムを作ることを基本とし、まずは意思表示カードの所持を確認する院内コーディネーターの活動を支援し、県民にもマスコミを通じて理解を求めました(図12)。さらに、秋田大学を始め県内のいくつかの病院では、全ての入院患者さんに意思表示カードの有無を確認するような体制になりつつあります。これは、移植医療に限らず患者さんの意思を反映できる医療システムを構築しようとする努力の現れでもあり、現在県内8施設で実施されています。いずれ、県内の全病院に波及するものと考えています。

秋田県における腎移植の現状と明日の臓器提供増加のための臓器提供推進プログラムへの取り組みについて記載しました。増加している生体腎移植ですら、まだまだ透析医療関係者や透析患者さんに、腎移植医療が充分理解されているとはいえません。また、献腎増加のための私達の活動はまさに始まったばかりです。広く患者さんや県民に知っていただきたいと願っております。

メニューを開く