秋田大学医学部 外科学講座(第2外科)
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1989〜2003手術症例成績
 
1年
2年
3年
4年
5年
10年
Stage 0
100%
100%
100%
100%
100%
100%
Stage
100%
100%
100%
98.4%
98.4%
98.4%
Stage
100%
100%
100%
100%
98.1%
98.1%
Stage
100%
100%
91.5%

87.8%

84.0%
79.3%
Stage
100%
92.3%
92.3%
92.3%
92.3%
92.3%
Stage
94.4%
80.8%
73.5%
73.5%
73.5%
73.5%
Stage
100%
95.0%
77.2%
71.3%
71.3%
44.5%
All
99.7%
98.3%
95.3%
93.7%
92.5%
89.5%
◆ 治療関連死亡率 0%
◆ 手術死亡 0%
◆ 合併症(2000年から)
   創感染  4例
   出血 2例(保存的軽快)
   皮弁壊死 0例
   患側上肢浮腫 約5%



センチネルリンパ節生検

センチネルリンパ節の考え
乳房のしこりから腫瘍細胞が広がる道筋にリンパ管があります。このリンパ管を伝わって腫瘍細胞が転移する最初のリンパ節のことをセンチネルリンパ節と言います。これまでの研究成果から、リンパ節への転移はまずこのセンチネルリンパ節に起こり、このリンパ節からより遠くのリンパ節へと転移することがわかってきました。

従来は腫瘍の切除を目的に、腫瘍と道筋にあたるリンパ節を全て切除する方法が一般的でした。しかしセンチネルリンパ節を術中に的確に同定し、迅速病理学的検査でセンチネルリンパ節に腫瘍細胞が及んでいなければ他のリンパ節への転移も無いことが予測されます。今まで画一的に行われてきたリンパ節全切除を患者さんによっては省略できると考えられます。

リンパ節郭清の省略により、腋窩の疼痛の軽減、上肢の挙上障害の予防、上肢の浮腫の予防、リハビリの必要性が無いなどの大きなメリットが得られる可能性があります。
デメリットとしてはわずかな率ではありますが、偽陰性例(転移があるのに実際転移を見つけられなかった方)が認められること、後に局所再発の可能性があることです。


センチネルリンパ節生検を用いた早期乳癌に対する低侵襲手術
現在、乳癌手術はしこりの切除と腋の下のリンパ節郭清をすべての患者さんに行うのが標準的です。このリンパ節の郭清を行う事により手術後の痛み、腕の運動制限、むくみなどの後遺症が出現します。これら後遺症予防のために、しこりの大きさが2cm以下で、腋の下のリンパ節に転移のない早期の患者に対して、当科ではセンチネルリンパ節生検用いた低侵襲手術をお勧めしております。

早期乳癌では、リンパ節に腫瘍の転移がみられない場合が多く、転移のない場合はリンパ節の郭清は不必要と思われます。しかし最近までは低侵襲な手技で転移の有無を判断する方法がありませんでした。

1992年からアメリカなどでセンチネルリンパ節生検という腋の下のリンパ節への乳癌転移を判断する方法が開発され、日本でも広まっております。2003年の日本乳癌学会のアンケートによりますとおよそ乳癌の手術を行う40%の施設で、このセンチネルリンパ節生検が導入されており、リンパ節転移のない場合リンパ節郭清を行わない低侵襲な手術が多くの施設で行われております。

当科でも2001年6月よりこのセンチネルリンパ節生検を導入して参りました。ただ、このセンチネルリンパ節生検は手術の技術が安定するまで経験を要します。そこで当科では58名の方にご協力頂き、センチネルリンパ節生検の手技を検証致しました。

結果は58例中57名の方にアイソトープと磁性体を用いて、センチネルリンパ節を同定する事が出来ました。同定率は98.3%(57/58)となります。その中でリンパ節に転移を認めた方は20名、センチネルリンパ節生検によりこの転移を見つけることが出来たのは19名でした。1名のみこのセンチネルリンパ節生検法で見つけることが出来なかったわけです。

センチネルリンパ節生検にて転移を見つけることの出来る確率(敏感度と言います)は95%(19/20)となります。見つけられなかった確率(偽陰性率と言います)は、5%(1/20)となります。これらの成績はアメリカでセンチネルリンパ節生検を行う際に、基準を満たすものでした。

この結果から当院倫理委員会の承認のもと、患者さんから十分なインフォームド・コンセントを得た後、2003年12月よりセンチネルリンパ節生検で転移陰性と診断された患者さんに対しまして、腋の下のリンパ節の郭清を行わない低侵襲な手術を行っております。

2006年2月まで58名の早期乳癌の方に腋の下のリンパ節郭清を省略した低侵襲手術を行っております。手術後は約2ヶ月ごとの診察と、半年ごとの腋の下の超音波検査を定期的に全員の方に行っておりますが、現在まで腋の下のリンパ節再発は認めておりません。

また、外来で行った痛みや腕のむくみに対するアンケート結果では、リンパ節郭清を省略された患者さんでは、上腕、前腕共に手術していない方の腕に比べて、むくみは全くなく痛みや運動制限も軽いとの結果でした。

以前,反対側の乳癌で腋の下のリンパ節を郭清され、今回の手術では,センチネルリンパ節転移陰性で、リンパ節切除をされなかった方のお話しでは、手術後すぐに手はあげることが可能で、痛みも数日でなくなり、手の感覚も異常なかったとのことでした。回復も早く非常に助かりましたと、感想を述べられておられます。

またこの方は最初の手術のリンパ節郭清の影響で、手のむくみが起こり大変困っておりました。今回の手術により将来,手がむくむ可能性は非常に低く、今回リンパ節を郭清しない方法が開発されたことをとても喜んでおられました。

このセンチネルリンパ節生検を用いた方法は、日本乳癌学会から発刊されている「乳癌診療ガイドライン」でも、早期乳癌に対しては推奨グレードB(エビデンスがあり、推奨内容を日常診療で実践するように推奨する)と認められております。

また、手術後の腕のむくみ起こる率が減少するか?との問には推奨グレードA(十分なエビデンスがあり、推奨内容を日常診療で実践するように強く推奨する)とされております。このことからもセンチネルリンパ節生検を用いたリンパ節郭清を省略する低侵襲な手術は、早期乳癌患者さんにとって、まさに最良な治療法と言えます。

実際の手術手技は以下のような方法となります。
1. 手術当日朝9時にアイソトープを0.5ml しこりの上の皮膚に注射します。
2. 10時 センチネルリンパ節に取り込まれたアイソトープの写真撮影をします。(写真1、黄色い部分)
3. 手術室へ移動、全身麻酔の後、1と同様の場所に磁性体1.5mlを投与します。
4. 手術開始後、腋の下に3cmの小さな切開を置き、センチネルリンパ節を摘出します。(写真2)通常は1〜2個のリンパ節を摘出します。傷の抜糸はなく、痛みも軽度です。
5. その後乳腺腫瘍の摘出となります。


アイソトープを投与する際、注射ですので若干痛みはありますが、その後痛みはありません。脇の下の傷も正面からは見えない場所にあり、美容も十分考慮しております。
アイソトープの被ばくは極少量ですので、健康被害はありません。磁性体も重篤な副作用は現在まで認めておりません。

すべての患者さんがこの方法を選択できるわけではありません。まず、主治医とよく相談してこの手術手技が自分にあった方法であるか、メリット・デメリットを十分理解され、自分に最良な治療方法を選択していただければと思います。


乳癌治療は総合力
現在乳癌に対する治療は、手術、化学療法、ホルモン療法、放射線療法を適切に組み合わせ、その患者さんに最適な治療法を選択するオーダーメードに近い医療です。

外科医だけによる診療には時間的、肉体的限界があります。そこで乳腺外科医だけでなく、放射線科医、病理医などの医師の他に、乳腺専門看護師、化学療法専門看護師、薬剤師、ケースワーカーなどあらゆる方面の協力が必要となり、総合力で患者さんを診療する事が必要となってきております。

その点当院は総合病院であり、全科での協力体制が可能です。また、近日中に外来化学療法室も開設されますし、乳腺専門看護師の育成にも取り組んでおります。乳癌告知後の心理的なサポート、治療なども迅速に対応出来る体制が整っております。

また、乳癌診療に対する知識と理解を深めるために月に1度「乳癌病理検討会」を行い、外科、放射線科、病理、検査技師、放射線技師など総勢20名を超える人数で勉強会を開催しております。これにより診療に携わる医療関係者すべての知識レベルの向上が図られております。

また、患者さんの会では「あけぼの会」が、全国的に組織され、すばらしい活動をされております。当院でも患者さんの会「Smile(すみれ)の会」を立ち上げました。患者さん同士の親睦や常日頃の疑問や相談事に対応できるような、患者さん主体の会であり、我々も全面的にサポート致しております。
ホームページは http://homepage2.nifty.com/smile-akita/  となっております。

セカンドオピニオンも時間は特別設けておりませんが、随時受け付けておりますので、お気軽にご相談下さい。(要予約:電話 018−884−6363 外来直通)




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