働く女性における乳がん・婦人科がんと離職
協会けんぽ2500万人の就労女性のデータベース分析
日時:2025年9月8日(月)15:00~
会場:秋田大学医学部(本道キャンパス)管理棟会議室

【 説明者・会見参加者 】
野村 恭子 教授、岩倉 正浩 助教
代表 三浦 恵子 様、副代表 田中 鈴子 様
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当講座 野村恭子教授が代表を務める全国健康保険協会(以下、協会けんぽ)研究班は、国内最大の被用者保険の保険者である協会けんぽが保有する診療報酬請求および特定健診データベース(以下、データベース)を用いて、就労女性を対象に乳がんや婦人科がん(子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん)の診断を受けた女性では、これらのがんの診断を受けていない女性と比べて離職する可能性が高くなることを明らかにしました。
さらに、うつ病の既往歴がある、年齢が高い、月収が低い、勤続年数が長い女性では離職のリスクが高いことが示され、全体的な職場環境の整備にとどまらず、メンタルヘルス対策や経済的支援・カウンセリングなど焦点を絞ったサポートを提供することが治療と仕事の両立を支えるために重要であることが示唆されました。
この成果は、「JAMA Network Open」誌に8月25日に掲載されています。
【 原論文 】
Iwakura M, Nagashima K, Shimizu K, Tanihara S, Terata K, Yamazaki T, Jung S, Kimura T, Terauchi M, Nomura K. Resignation in Working Women With Breast and Gynecologic Cancers. JAMA Netw Open. 2025;8(8):e2528844. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2025.28844. PMID: 40853656.
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【 研究の背景 】

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特に、我が国の女性の働き方は非正規雇用が半数以上を占め、男性に比して賃金も低く、世界経済フォーラムが毎年公表しているジェンダーギャップインデックスも146カ国中118位です。
一度離職すると乳癌の治療費を支払うことが難しくなり、治療の継続にも支障がでることが問題となっています。
これまで、日本全体の傾向を反映した大規模なデータを利用して、乳がんや婦人科がんと離職の関係を検討した研究はほとんどありませんでした。
【 研究結果 】
本研究の結果、年齢や居住地域、事業の種類(法人・自営)、業態、勤続年数、月収、体格指数(BMI)、生活習慣(喫煙、飲酒、身体活動)、うつ病の既往歴を調整しても、乳がんや婦人科がんに罹患した女性は有意に離職しやすいことが明らかとなりました。
さらに離職しやすい就労女性の特徴としては、がんの種類によらず、がんを有している女性の中でも年齢が高い、月収が低い、勤続年数が長い、うつ病の既往歴があること、乳がんでは、特定健診を受けている人の方が離職に至りにくい傾向が示されました。
これは特定健診を受けている人は、健康意識が高く乳がん検診も受けていた人も多かったため、乳がんの早期発見と早期治療に繋がり、結果として離職を防ぐことができた可能性が考えられ、今後特定健診やがん検診の有用性のさらなる検証が望まれます。
【 成果の特筆すべき特色・社会貢献 】
本研究は日本最大の被用者保険者である協会けんぽが保有する大規模データベースを使い、乳がん・婦人科がんの診断が離職に関係すること、その中でもうつ病の既往歴がある、年齢が高い、賃金が低い、在職期間が長いこと、乳癌では、特定健診をうけていないと、離職のリスクが高くなることを示した初めての研究です。
これまで、がん検診は、健康増進法の規定により、自治体が実施主体として担うこととなっていました。
その結果、職場で従業員に対するがん検診の受診勧奨は十分に行われていませんでした。本研究の結果から、就労世代のがん検診受診勧奨が非常に強く訴えることができます。
OECD諸国の中でも、日本の婦人科領域におけるがん検診受診率は依然として低く、直近の国民基礎調査でも50%を下回っています。
本研究の成果が、就労女性のがん対策を推進するうえで一助となることを期待しています。
また本研究の結果から、これらのがんの診断を受けた女性に対し、治療と仕事を両立する支援をさらに拡大する必要があることが示されました。
さらに、うつ病の既往がある、年齢が高い、賃金が低い、在職期間が長い女性では離職が生じやすいため、メンタルヘルス対策や経済的支援・カウンセリングなど焦点を絞ったサポートの充実が求められる可能性を明らかにしており、事業者および保険者が働く女性の健康施策を考えるための基礎資料としての活用が望まれます。
【 研究支援 】
本研究は、協会けんぽの「外部有識者を活用した委託研究事業」において採択された、野村恭子教授が代表の協会けんぽ研究班「就労女性の性に関連する健康と労働生産性の実証研究」の取り組みの一つとして実施いたしました(助成番号:23JHIA02)。