肥満症の治療標的として期待される
「褐色脂肪組織」の新規制御因子を同定
Nat Cell Biol. 2017 Sep;19(9):1081-1092.
肥満症とそれに起因するメタボリックシンドロームや肥満2型糖尿病は、心血管疾患、腎疾患や悪性腫瘍のリスクを高めることから、健康寿命の延伸を目指す上で大きな障害です。近年、エネルギーの貯蔵を担う「白色脂肪組織」以外に、熱産生を介してエネルギーを消費する「褐色脂肪組織」がヒト成人にも存在することが分かり、褐色脂肪組織の数や働きを高めることが肥満症の新しい治療法につながり得るとして期待されています。
次世代シークエンサーを用いた褐色脂肪特異的なオープンクロマチン領域の解析から、私たちは褐色脂肪組織の制御因子NFIAを同定しました。NFIAを欠損させたマウスでは褐色脂肪の遺伝子プログラムが著しく障害されていた一方、反対にNFIAを導入することで、筋芽細胞や白色脂肪細胞においても褐色脂肪の遺伝子プログラムが活性されました。更に、ヒト成人の褐色脂肪組織でも白色脂肪組織と比較してNFIA遺伝子が高発現していました。この結果は「エネルギー摂取の抑制」ではなく「エネルギー消費の促進」に基づく肥満症、メタボリックシンドローム、肥満2型糖尿病の新しい治療につながる可能性があると期待されます。この研究は掲載号のNews and Viewsでも取り上げられました(Nat Cell Biol. 2017 Aug 31;19(9):1006-1007)。

- 褐色脂肪得意的エピゲノム解析から新規の主要制御因子NFIAを同定
- 「エネルギー消費の推進」に基づく肥満症の新しい治療につながる可能性
NFIAは褐色脂肪細胞及び筋細胞遺伝子プログラムを異なる経路で制御する
PLoS Genet. 2020 Sep 29;16(9):e1009044.
褐色脂肪組織の制御因子として同定したNFIAの構造と機能を解析したところ、カルボキシル末端側の17アミノ酸(pro#3ドメイン)がNFIAの転写活性に必須であり、脂肪分化マスター転写因子PPARγの誘導と脂肪分化に重要である一方、NFIAの筋細胞遺伝子プログラムの抑制作用はpro#3は必須ではなく、筋分化マスター転写因子MyoD1のエンハンサーへのKLF5結合が抑制されていたことから、NFIAは褐色脂肪細胞及び筋細胞遺伝子プログラムを異なる経路で制御することが示唆されました。

NFIAは褐色脂肪エンハンサー上ではPPARyのリクルートを促進し、筋細胞エンハンサー上ではKLF5の結合を抑制することによって褐色脂肪細胞と筋細胞の遺伝子プログラムを制御する