ご挨拶
秋田大学コーディネーター 柴田 浩行

時代の最先端を引っ張る意気込みで「未来がんプロ」を推進してゆきたい
2017年、文部科学省が新たに募集した「多様な新ニーズに対応する「がん専門医療人材(がんプロフェッショナル)」養成プラン」に対して、秋田大学は前回の養成プラン(次世代がんプロ)に引き続き、東京医科歯科大学を主幹校とする養成プランに参加することになった。本プラン(「未来がんプロ」)では、この他に慶應義塾大学、国際医療福祉大学、聖マリアンナ医科大学、東京医科大学、東京薬科大学、弘前大学が参加し、計8大学が連携することになった。このプランを契機として全国でも最も高齢化率の進行が早く、がん死亡率もワーストの秋田県のがん医療環境、特に人材養成の観点から、より一層の改善を目指す。秋田県にとっては本事業を契機として県内のがん医療環境に拍車をかけることは理想的である。
これまでの「がんプロ」事業で標準化、均てん化という目標は達成した。しかし、がん治療は止まることなく成長しており、個別化という要素を取り込んだ「がんゲノム」、「プレシジョン・メディスン」の実践が求められている。具体的には
- (1)「患者に優しいプレシジョン医療を実践できるがん専門医療人を養成するコース(医学系研究科大学院生(博士課程))」
- (2)「レアキャンサーを担当できるがん専門医療人養成コース(同)」
- (3)「がん患者のライフスタイルに寄り添うことのできる専門的医療人養成コース(インテンシブコース)」
- (4)「患者に優しいプレシジョンがん治療を実践できる薬剤師を養成するコース(修士課程)」
の4つのコースを新設した。
(1)では、従来のがん専門医療人に必要とされる知識、技量に加えて、
- がんゲノムやがん生物学などの基礎医学を理解し、その成果を臨床にいち早く応用することができる医療者
- がん患者の身体状況や腫瘍の特性に立脚したプレシジョン医療を実践できる医療者
を養成する。
(2)ではレアキャンサーとされる生殖器、血液、皮膚、骨軟部組織、頭頸部、口腔などの領域や小児悪性腫瘍に対して、
- がんゲノムやがん生物学などの基礎医学を理解し、その成果である新たな分子標的治療臨床を実践することができる医療者
- がん患者の身体状況や腫瘍の特性に立脚したプレシジョン医療を実践できる医療者
を養成する。
(3)では全国一の高齢化率と広大な地域に患者が点在する秋田のがん患者のライフスタイルに応じた医療を提供できるがん医療専門医療人を養成する。緩和ケア医、サイコオンコロジスト、在宅医、訪問薬剤師、訪問看護師、がん相談員、認定遺伝カウンセラー、臨床心理士、社会福祉士、栄養士、理学療法士などの養成体制の一環としてインテンシブコースを設けて知識やスキルの向上や啓蒙に当たる。
(4)は旧薬学部4年課程卒業の薬剤師を対象として高次のがん薬物療法の知識やスキルを教授する。従来の知識、技量に加えて、
- がんゲノムやがん生物学などの基礎医学を理解し、応用することができる薬剤師
- がん患者の身体状況や腫瘍の特性に立脚したプレシジョン医療を実践できる薬剤師
を養成する。
どの領域においても、近年のがん医療のキーワードはがんゲノムとプレシジョン医療である。新たな知識や技能が導入される際、桜前線や梅雨前線のように西から徐々に北上し、秋田県には最後にやってくるといったタイムラグは、もはや許容されない。いや、我々がいる以上、そうあってはいけない。新たな潮流に取り残されず、むしろ時代の最先端を引っ張る意気込みで、この「未来がんプロ」を推進してゆきたい。
本事業を通じて、このような人材を養成し、本事業の修了者が県内医療において主導的な地位を得られるように働きかけてゆく。具体的には、大学病院を含む県内のがん拠点病院に包括的ながん治療を実践できる「腫瘍科」を開設する。
また、希少がんにおいては人口の少ない秋田県だけでは経験値が上昇しづらいが、連携8大学において、レアキャンサーレジストリーやレアキャンサーボードミーティング(仮称)を設けて集積された治療成績をレファレンスとして使用できるようにする。このような枠組みは終了後も継続する。