小児泌尿器

小児泌尿器科

小児泌尿器科について
秋田大学医学部附属病院非常勤医・秋田赤十字病院泌尿器科 小原 崇

インデックス(下からお選びください)

  • 小児泌尿器科について
  • 膀胱尿管逆流症(VUR)
  • 停留精巣(非触知精巣)
  • 尿道下裂
  • 水腎症
  • 精索静脈瘤
  • おわりに

小児泌尿器科について

小児泌尿器科は腎臓、膀胱、尿管、尿道などの腎・尿路や外陰部・精巣などの子供に起こる病気を対象としています。

もちろん、生まれながらの泌尿器疾患も対象です。小児泌尿器科疾患は、子供の成長発達を念頭においた専門的診療が必要となりますが、小児泌尿器科のある小児専門病院は限られており、またその一方で、小児から成人まで一貫して診療できる大学病院や総合病院の数も限られています。

当科では当院小児科および小児外科、秋田県内外の専門施設と協力し、小児泌尿器科疾患の適切な治療を提供します。

膀胱尿管逆流症(VUR)

腎臓で作られた尿は腎盂~尿管を通り、膀胱にたまった後、尿道を通って排泄されます。通常、この通り道は一方通行で、膀胱にたまった尿が尿管や腎盂に逆流することはありません。しかし、尿管と膀胱の接合部(尿管口)が弱い場合には、逆流を止める力が弱くなり、膀胱尿管逆流症(VUR)となります。VURが存在すると腎盂腎炎を来たしやすく、発熱し、腎盂腎炎が治まった後も傷(腎瘢痕)が腎臓に残ります。このような状態を放置しておくことは腎機能低下の原因となります。

診断は尿検査、膀胱造影検査および腎RI検査などを行います。なかでも膀胱造影検査は最も重要で細い管を尿道に入れ、造影剤を注入し、レントゲンで逆流があるか観察します。腎RI検査は逆流があった際の腎瘢痕の有無をチェックします。

VURは自然消失することがあることがわかっています。この消失率は逆流の程度、年齢などによって変わります。消失の可能性が高い場合には、少なめの抗菌薬の服用で感染を予防しつつ、自然治癒を待つという方法(主に小児科での治療)をとります。しかし、自然治癒が見込めない、あるいは感染がコントロールできないなどの場合は手術を行う(泌尿器科での治療)ことを推奨しています。

当科で行う術式は尿管膀胱新吻合術です。手術は全身麻酔下で行います。下腹部を横に切開して膀胱を開いた上で、膀胱の内側から尿管をくり抜き、膀胱の内側の粘膜の下に「トンネル」を作ります。この方法は、膀胱尿管逆流症の手術の中では最もスタンダードなものです。入院期間は平均7-10日前後です。 また、軽度VURに対しては、カメラを尿道から挿入し(内視鏡的に)、デフラックスという薬剤を注入して、逆流を予防する手術も施行出来ますが、成功率は上述の開放手術に劣ります。

停留精巣(非触知精巣)

精巣は、出生前は胎児のおなかの中にありますが、胎内での成長とともに陰嚢内に下降してきます。男児の多くでは出生時に精巣は陰嚢内に納まっていますが、精巣の下降が途中で止まり、陰嚢底まで降りてこない状態を停留精巣といいます。精巣には男性ホルモンの分泌、思春期以降の精子形成という働きがありますが、停留精巣では精子形成が障害され、男性不妊になる可能性が高くなるといわれています。また、停留精巣は正常の精巣に比べて癌になる確率が高いと報告されており、もしも発癌した場合、手術で精巣を陰嚢内に固定してあれば目に留まりやすく、早期発見できるという利点もあります。

当科で行う手術は精巣固定術です。全身麻酔下に精巣の位置・性状を再度確認し手術を行います。停留精巣側の下腹部のしわに沿い、約2~3cmの皮膚切開をおきます。精巣、精索(精巣に つながっている血管と精子の通り道である精管などの束)周囲の余計なつっぱりを丁寧にはずします。また、鞘状突起という腹膜の一部も丁寧に剥がして精巣を陰嚢まで緊張なく降ろせるようにします。陰嚢に1cm程度の切開をおき、精巣を陰嚢内に固定します。溶ける糸で縫合しますので抜糸は不要で、手術翌日の退院となります。また、当科では精巣を触知出来ない場合(非触知精巣)、腹腔鏡検査を行い、腹腔内精巣の有無を確認し、精巣を陰のうに下すのか動脈遮断を行って、1年後に2回目の手術を行うかどうかを判断します。

尿道下裂

男児の外尿道口が亀頭の先端に開口しておらず、亀頭の下部や陰茎の途中、あるいは陰茎の根元などにある状態です。立位での排尿(立ち小便)が困難で、また陰茎の屈曲を認めることが多いため、将来の性生活の問題が生じる可能性があります。

治療方法は手術(尿道下裂修復術)しかなく、高度の手術手技が必要となります。手術は全身麻酔下で行います。まず、包皮や陰茎の屈曲の原因となるつっぱりを剥離あるいは切除して陰茎の屈曲を治します。それでも屈曲が強い場合は、尿道と反対側(陰茎背側)を縫い縮めて陰茎全体が可能な限りまっすぐになるように矯正する場合もあります。次に足りない尿道を形成します。尿道形成には尿道に成長する予定だった組織(尿道板)や包皮の一部を使用します。術後は尿道に管を10-14日程度留置しますので、入院期間は2週間程度となります。原則的に一回の手術で済ませる一期的修復術を採用しています。

当科での過去3年間の初回手術成功率は約80%です。重度尿道下裂の場合は、性分化疾患の可能性も念頭に置いたより専門的診療が必要となる場合もあるため、小児専門施設へのご紹介をお勧めする場合もあります。

水腎症

水腎症とは腎臓で作られた尿の通り道(尿路)が拡張した状態をいいます。水腎症は決してめずらしい疾患ではありません。妊婦検診に超音波検査が広まった現在は、出生前に水腎症と診断されるケースほとんどです。胎児期に一時的に尿路が拡張してみえることは100児にひとりの割合と意外に多く、そのうち明らかな水腎症は600-800児にひとり程度と報告されています。しかし、拡張の程度が強いと痛みや嘔吐などの症状を生じたり、腎臓の機能が障害される恐れがありますので、このような場合には手術治療を行います。

通過障害の程度を調べるため利尿レノグラム検査が必要です。また膀胱尿管逆流症との鑑別のため排尿時膀胱尿道造影検査を行うこともあります。腎臓の機能が極度に低下している、あるいは無いと診断された場合以外は、水腎症の程度によって腎盂形成術や腎摘出術を行います。

腎盂形成術は脇腹に5~6cm程度の切開をおき、狭窄の原因となる部位を切除し、腎盂尿管移行部の内腔を広くつなぎ直します。通常10-14日の入院期間となります。また、当科では年長児-成人例に対しては積極的に腹腔鏡手術も施行しております。

精索静脈瘤

精巣からの静脈がうっ血し、腫れる状態で、小児の場合は陰嚢や下腹部の痛みが主な症状であり、男性不妊症の原因となります。当科では将来的な男性不妊の予防のために積極的に手術を行っていますが、その適応は症状が強いとき、精索静脈瘤がある側(大多数は左側)の精巣が反対側に比べ小さくなってきた場合などです。またFSHと呼ばれるホルモン値の異常高値も手術の適応となります。

当科で行う手術は、ソケイ部(足の付け根付近)またはその上を約2-3cm切開し、手術用大型顕微鏡下に精巣の動脈とリンパ管を残して静脈を結紮する手術を行います。基本的に溶ける糸で縫合しますので、短期間(3-5日)での退院が可能です。

おわりに

上記疾患以外にも、尿管瘤、異所開口尿管、尿道狭窄、尿道弁、夜尿、神経因性膀胱、性分化疾患、陰核肥大、埋没陰茎、翼状陰茎などの小児泌尿器科疾患も診察加療します。子供の尿路、外陰部について気になることがありましたら、かかりつけの小児科医などともよく相談された上で、金曜日の小児排尿障害外来を受診してください。

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