秋田大学大学院医学系研究科 消化器外科学講座(旧第一外科)

研究の紹介

最近の学位取得研究

1. Nrf2が肝虚血再灌流障害に与える影響に関する研究
Kazuhiro Kudoh et al. Nrf2 activation protects the liver from ischemia/reperfusion injury in mice.
Annals of surgery 260:118-127, 2014
工藤 和大(▼タイトルをクリックで本文が開閉します)

転写因子であるNrf2は活性化により酸化ストレスに対して細胞保護効果をもたらす。Nrf2の肝虚血再灌流障害における役割を検討している。工藤は、Wild マウス (WT群) とNrf2 欠損マウス (KO群) に70%肝虚血1時間後、再灌流を行い、6時間後の肝障害を評価した。またWT群、KO群にNrf2活性剤である15d-PGJ2を投与し、3時間後に肝虚血再灌流を行い同様の検討を行った。KO群ではWT群に比して肝障害は増悪した。また15d-PGJ2投与によりWT群では肝障害は軽減されたが、KO群では15d-PGJ2による抑制効果は認められなかった。この結果より15d-PGJ2はNrf2依存性に肝虚血再灌流障害を軽減することが示唆された。再灌流後のアポトーシスも同様にKO群でWT群に比べ有意に誘導され、さらに15d-PGJ2投与によりWT群のアポトーシスは著明に抑制された。再灌流後の酸化ストレスをGSH/GSSG ratioにて評価したところ、KO群でWT群に比して酸化ストレスが増悪した。さらにWTの15d-PGJ2投与群では酸化ストレスは軽減していた。Nrf2は肝虚血再灌流障害の増悪を抑制する重要な転写因子である。術前のNrf2活性化は、肝切除術の安全性を向上させる治療戦略となりうることが示唆された。

2. ATP感受性カリウムチャネル開口薬であるジアゾキシドによる肝部分切除後の肝再生促進
Yasuhiko Nakagawa et al. Enhancement of liver regeneration by adenosine triphosphate-sensitive K⁺ channel opener (diazoxide) after partial hepatectomy.
Transplantation 93:1094-1100, 2012
中川 康彦(▼タイトルをクリックで本文が開閉します)

心筋細胞では、ATP感受性カリウム(KATP)チャネルは細胞膜のみではなくミトコンドリア膜にも存在することが知られており、その開口薬であるジアゾキシドの細胞保護効果が注目されている。肝細胞ではin vitroで開口薬のDNA合成促進効果が知られているが、チャネルの局在およびin vivoにおける開口薬の効果は確認されていない。中川は、肝細胞においてKATPチャネルサブユニットであるKir6.1, SUR1の発現を確認し、免疫染色においてKir6.1, SUR1はミトコンドリアに存在することを証明した。さらに70%肝切除モデルを用い、ジアゾキシド投与群で肝体重比、DNA合成能、肝組織内ATP濃度の上昇を確認した。肝切除後に肝組織ATP濃度の上昇がみられることより、ジアゾキシドがミトコンドリアKATPチャネルの開口を通じてミトコンドリアの機能維持に関与していることが示唆された。さらに、ジアゾキシドは細胞内カルシウム過負荷の抑制にも関与していた。本研究によりKATPチャネル開口薬であるジアゾキシドが過小グラフトなど肝部分移植後の肝再生を促進する新たな手段となる可能性が示唆された。

3. 低酸素下に増殖するLECはHIF-1α標的遺伝子を介して虚血障害から肝臓を保護する
Yuki Abe et al. Liver epithelial cells proliferate under hypoxia and protect the liver from ischemic injury via expression of HIF-1 alpha target genes.
Surgery 152:869-878, 2012
阿部 ゆき(▼タイトルをクリックで本文が開閉します)

近年、ある種の間葉系幹細胞は分化能のみならず、成熟細胞に対する保護作用や、細胞分化非依存性の臓器再生促進刺激作用を有することが示され、幹細胞の多機能性が注目を集めている。阿部は、ラット門脈血流遮断モデルを用い、遮断肝葉に誘導された肝幹細胞の一種である肝上皮性細胞(LEC)が肝細胞保護作用を有するかどうかとその機構の解明を行った。阿部は、2%酸素分圧下に おいてでもMTT値の増加とLECの細胞数増加を認め、LECは低酸素環境下で生存するのみならず、増殖しうることを証明した。その機構解明のため、SDF-1αとCXCR4に着目した。SDF-1αはHIF-1αにより発現が制御されるchemokineで、前駆細胞の細胞存在への関与が報告されている。SDF-1αはLECで、CXCR4は肝細胞で発現を認めた。SDF-1刺激下では低酸素下での肝細胞生存率の向上を認め、LEC conditioned medium刺激でもSDF-1刺激と同様に肝細胞生存率は向上し、CXCR4アンタゴニストによってそれらが打ち消されたことから、LECが分泌するSDF-1が、肝細胞が発現するCXCR4を介して生存シグナルを送っているものと考えられた。また、LECを全肝に誘導し、その後虚血再灌流および出血性ショックを行うと、非誘導ラットに比して両障害後のAST, ALT値は有意に抑制され、LECが肝細胞保護に寄与することを証明した。

4. 肝細胞癌症例における内因性urinary trypsin inhibitorの術前・術後発現動態の研究
Isao Kikuchi et al. Clinical and prognostic significance of urinary trypsin inhibitor in patients with hepatocellular carcinoma after hepatectomy.
Annals of surgical oncology 16:2805-2817, 2009
菊地 功(▼タイトルをクリックで本文が開閉します)

周術期に用いられるミラクリッドは手術侵襲に伴って減少するurinary trypsin inhibitorの活性を上昇させることが周術期の炎症反応を抑え合併症を回避する目的をもって投与される。本研究において、菊地はこのurinary trypsin inhibitor活性が肝切除症例で術後第一病日に減少することを確認した。しかし、この肝切除症例におけるurinary trypsin inhibitor活性の低下は切除肝の非癌部正常肝重量に相関せず、腫瘍体積と相関することが明らかとなった。すなわちurinary trypsin inhibitorの術後低下は周術期侵襲に伴う肝機能低下に起因するのではなく、腫瘍でurinary trypsin inhibitorが産生されていることが示唆された。そのため、免疫学的に切除標本を検討し肝細胞癌におけるurinary trypsin inhibitor産生を明らかにした。また、癌におけるUTIの過剰産生は術後の再発のリスクであり、UTIは予後を規定する有用なマーカーであると考えられた。

5. ω3系不飽和脂肪酸投与による肝虚血再灌流障害軽減効果・cyclooxygenase-2活性、プロスタグランジンと肝微小循環に対する不飽和脂肪酸の効果の研究
Wataru Iwasaki et al. Changes in the fatty acid composition of the liver with the administration of N-3 polyunsaturated fatty acids and the effects on warm ischemia/reperfusion injury in the rat liver.
Shock 33:306-314, 2010
岩崎 渉(▼タイトルをクリックで本文が開閉します)

インパクト投与によって周術期合併症が減少し集中治療室管理と在院期間の短縮効果が報告され、わが国でも臨床に応用されている。しかし、ω3系不飽和脂肪酸の具体的な抗炎症効果、周術期の臓器障害に対する効果を検討した基礎研究はほとんどない。岩崎はあらかじめ一週間ω3高含有オイルを経口投与したラットの血液および肝組織中不飽和脂肪酸濃度にω3/ω6比が上昇していることを証明した。さらにこのラットに肝虚血再灌流を与え肝機能が保護されることを確認した。この保護効果は肝臓におけるcyclooxygenase-2 m-RNAの誘導抑制を伴っておらず、COX-2酵素活性に依存する経路以外の要因によって肝機能が保護されていることを明らかにした。肝障害には炎症性サイトカインTNF-αおよびインターロイキン-6の活性化が関わっており、ω3投与ラットでは虚血再灌流後これらが有意に抑制されていた。また生体顕微鏡を用いてω3投与ラットの肝微小循環障害が軽減されていることも明らかにした。これらの効果は不飽和脂肪酸の代謝経路下流に存在するプロスタグランジン、およびトロンボキサンの産生が変化し炎症反応の活性化が効果的に抑制されていることが関与すると考えられた。

6. 肝虚血再灌流後の肝微小循環障害を軽減するPhosphodiesterase-3 inhibitorの研究(cyclic AMP, protein kinase Aシグナルの肝保護作用の研究)
Kohei Satoh et al. Implication of protein kinase A for a hepato-protective mechanism of milrinone pretreatment.
Journal of surgical research 155:32-39, 2009
佐藤 浩平(▼タイトルをクリックで本文が開閉します)

Lewisラットを用い、cAMP dependent protein kinase (protein kinase A)が肝虚血再灌流障害軽減効果をもたらすことを酵素活性測定の研究で明らかにした。Milrinone投与によりprotein kinase Aが活性化された群(Group M)、milrinome投与前に活性抑制剤であるRp-8-Br cAMPsを投与した群(Group I)、Control群(Group C)の3群で45分・肝虚血再灌流後の肝障害度を検討した。Group Mでは血中AST, ALT, LDHは有意に抑えられ、TNF-αも抑制されていた。Group Iではこれら肝保護効果は遮断されており、肝逸脱酵素はControl群と同程度に高かった。この結果からmilrinoneによって誘導されるprotein kinase Aの活性化は肝虚血再灌流障害を抑制する効果があることを証明した。

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