提案ー利用者に対する講習会を

寄生虫学講座教授(次期施設長)吉村堅大郎

 医学研究の中で、実験動物とは全く無縁の分野など、およそ考えられないであろうが、動物実験施設が多くの人達に利用されているのは喜ばしいことである。施設の利用と実験動物について、日頃感じていることを2つばかり記してみたいと思う。まず、次元の低い話の方から始めよう。私自身が施設を利用して以前から感じていることを卒直に言えば、施設利用(特に実験室の)のマナーに欠けている人が少なくないということである。動物実験施設に限らず、共同利用施設は自分の次に利用する人のことを考え、少くとも自分達で利用した部分だけでも後片付けと清掃を充分にしておきたい。この至極簡単なことができていないのは誠に遺憾である。次は1つの提案である。最近は実験動物を用いる研究のあり方について、一般の人々の関心も高くなっているが、動物を利用する我々研究者の側でも、動物にできるだけ苦痛を与えない様留意する必要のあることは勿論、使用する動物数も最少限度にとどめ、その中で信頼性と再現性の高いデータを得る様に実験計画を立てなければならない。このためには、動物実験にあたって動物の選択、特に遺伝的背景や特徴の吟味が必須である。
 現在、種々の疾患モデル動物が国内外で開発、育成されつつあり、野生小型哺乳動物の実験動物化やcongenic系やrecombiant系動物の開発も急速に進んでいる。従って、動物の系統やその遺伝的背景と特徴の正確な把握と理解なしにはもはや実験動物を用いた研究は不可能になってきている。そこで、私の提案とは大学院生、医局員、教官を対象とした実験動物学の基礎と応用に関する講義と簡単な実習を定期的に行ってはどうかということである。さらに、折にふれ実験動物についての最新知見に関して、講習会でも聞かれれば申し分ない。せっかく充実した動物実験施設を持っている訳であるから、これをよりよく利用するためには、時流に即した対応が不可欠ではなかろうか。昨今、この様な思いにかられることしきりである。

注)
これは秋田大学医学部附属動物実験施設ーその誕生と十年の歩みーに(昭和62年)に掲載されたものです。
随筆
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