飼育管理の精度は動物実験の成功の鍵を握る

第一外科学講座 成沢富夫助教授
 当共同利用施設は昭和52年に発足し、その後57年に増築部分が供用されるようになったという。それ以前にも、わが医学部が発足して以来、小さなプレハブ建物で、各種の実験動物を用いた研究が行なわれていた。また、ラットやマウスなどの小動物は、研究室の一つを飼育室とし、それぞれがそれぞれのおもわくに従って管埋しながら、実験的研究を続けていた教室もあった。
 その後、特に臨床教室では、医局員、研究者の数が次第に増加し、量的にも質的にもその管理が不可能になってきた。丁度その頃、動物実験施設が誕生したものと思う。ラット、マウスなどの小動物についてだけを考えてみても、飼育、管理費として施設に支払う経費は相当の金額である。日本における研究システム上、若い研究者はその詳細については無知のままに実験、研究を行なっているようであるが、研究を開始するにあたり、詳細な研究計画を立て、しかも欧米なみに、それに要する直接経費だけでも計算したならば、多分、彼等は仰天するにちがいないと思う。慢性実験の場合には、途中で、原因不明あるいは研究目的とは無関係な原因で動物を失なうことは、研究成果の有意性を失なわせるだけでなく、経費のみならず、研究費の貴重な時間の浪費につながるわけで、とりかえしのきかない損失である。このような観点からみると、現在の施設は立派なハードとソフト機構を備えた研究施設と云える。
 ちなみに、われわれ第一外科でラットを用いて行なった実験的研究の成果をしかるベき形で論文発表したものの中から、各期一編を抽出して、その中に記載されている対照群ラットの実験開始時に対する実験終了時の生存率をみると、施設発足前の実験では87%(13/15、実験開始後47週)、発足後、増築前では90%(27/30、32週)、増築後のSPF室では97%(34/35、42週)であった。死亡ラットの死因は、急性肺炎、肺膿瘍であった。施設の整備が大切であることをうかがい知ることができる。すなわち、現在の設備は、理想の最低限以上には整備され、充分な飼育管理がなされていることを示している。動物の飼育、管理の専門研究者としての松田博士の知識と熱意、施設長奥原教授の経営手腕によって、当施設の立派な運営、さらには多くの研究成果が当施設を利用した研究から生れたものと考える。
しかし、当施設は他の重大な問題をかかえている。施設長が好んで用いる“User”なる言葉で呼ぶ研究者の質の問題である。ここで云う質とは、研究内容を指すのではなく、いわゆる共同利用施設を利用する際の各個人の社会性を意味しており、奥原教授をして“相手は最高学府を出た人、しかも医師であるから、そんな注意はしたくない”と云わしめる性質のことを指している。最近は、この種の心配も少なくなったようである。このように良い雰囲気になった時期、しかも当施設発足10周年を契機として、施設の今後の順調な発展を期待しつつ、思いつくままの感想を記した。

注)
これは秋田大学医学部附属動物実験施設ーその誕生と十年の歩みーに(昭和62年)に掲載されたものです。
施設利用者等の随筆
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