抗動物実験運動について一考を

微生物学講座 工藤行蔵助教授
 現代医学の進歩の礎に大量の各種の動物が各分野の実験に供されていることは医学の領域の研究に携わっている者にとっては自明の理である。

 このことに反対するグループが現れ、我国の諸動物実験機関との衝突があったようであるが、動物愛護の観点からみて当然の邂逅に違いはないが、平等な立場のそれではない。

 愛らしいウサギを苛酷な条件におとし入れ死に至らしめることに対する阻止運動は欧米より本邦にもたらされた。捕鯨およびイルカ捕獲問題と共にいわば一種の“西欧からの衝撃”(Western impact)である。

 中世、時の丞相秀吉はキリシタン伝導阻止のため布告した1条に、伝導師のために動物を食肉として売買することを禁じたことがある。当時、本邦では牛馬らを喫する慣例は稀であったが、無垢の白地ほど染まり易いものはなかった。いったん染められた白布を元の白に戻すのは困難で、われわれはその染まり具合を試験管のなかの反応を観察している科学者のように東における“西からの衝雲”の状況をとらえ得た。

 これからも、動物実験を行い試行錯誤の中から真理を追究し続けなければならないなら、科学者は彼らの運動の根底に耳を傾けることも必要だろうし、論ずべき問題も山積するだろう。年1回の動物慰霊祭で事足れりでは彼らの運動を阻止することは不可能だろう。一考を要する運動ではある。

注)
これは秋田大学医学部附属動物実験施設ーその誕生と十年の歩みーに(昭和62年)に掲載されたものです。

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