動物実験施設で「いたちごっこ」はやめたい

施設長 小山研二

 秋田大学の動物実験施設は将来どうなるのか、と折に触れて思う。日々、当施設の教官や技官諸氏が、それぞれの立場で十分に、見事なまでに責務を果たしている。多くの研究者がそれぞれの実験に打ち込み、立派な業績をあげている。そして、それらの実験の妥当性は動物愛護、倫理性を含めて動物実験委員会で適正なものと判定され許可されたものである。これらの事実からすると、わが動物実験施設は、まさに順風満帆と言えそうだが、その財政面は極めて、極めて危ういところにあることに目をつぶってはならない。その危うさの根本はどこにあるのか?支出の中で人件費の占める割合の著しい増加が重大な問題である。9年前は支出3,900万円中1,000万円(26%)であったものが、現在は3,600万円中1,700万円(47%)で、これは他の支出項目の相対的低下を意味する。実験の複雑化、施設の充実、耐用年限を過ぎた機器の更新などからこれらへの支出は本来増加すべきものである。しかし、国からの動物実験施設経費は逆に毎年減少している。9年前は約2,200万円であったものが平成5年1,710万円、平成6年1,660万円、と着実に、毎年約50万円ずつ減っている。

 勿論、国からの動物実験施設経費の目的からしても、これだけで全てを賄うべきではなく、その他の財源を探すことになるのは当然である。とは言うものの、現時点では最も無難な、あるいは最も工夫の無いやり方である受益者負担を採っている。従来は、動物の委託飼育費として徴収させていただいていた。しかも、支出の必要性は増える一方なので委託飼育費の小きざみな値上げをくり返す芸の無さにも限界があり、昨年度から実験室使用料を頂戴する新手も加えた。くり返すが、これまでどうりだと、国からの施設経費は毎年約50万円ずつ減少するから仮に他の条件が同じだとしても一一実際は、支出は確実に増加しているが一一今年度の予算が収支零で組めたということは、来年度は50万円の赤字予算を作るか50万円の収入増を図ることが要求され、これが終わりなく続くのである。まさに、「いたちごっこ」である。危うさはもっとある。昨年まで故障と修理をくり返していた空調設備が国はじめ諸方面のご尽力で新調れた。この空調システムの故障・修理を少なくし、長もちさせるためには適正な保守点検が不可欠であるという。しかし、その専門の技術者を外注すると年間数百万円の経費を要し、現在の当施設の財政からこれを支出することは極めて困難である。再びしかし、早くも新しい空調システムの小さな故障やその修理が出はしめていることからも、このままにしていれば10年後には巨額の修理費を支出していたことに再び気付く愚行をくり返すことになろう。

 動物実験擁殻は、本来医学部全体のためにあることは言うまでもなく、個々の研究者の希望を最大限受容すべき性質の施設である。しかし、現実には、少数のやや特殊性のある実験に対しては、大多数の一般的実験と同程度のサービスを提供することは困難になっている。

 問題は、我々の動物験施設をどうしだいのか」であって、「どうなるのか」という受動的な発想は捨てるぺきだと思う。沢山の選択肢があろう。豪華な三食つきの一泊6〜7万円の和風旅館で下へも置かないサービスを受けたいか、広々として眺めの良い部屋でFaxや直通電話もある機能性に加えて24時間ルームサービスのある一泊5万円前後の高級シティーホテル(但し、ルームサービスや機能性を十分利用すると室料の2倍近い請求が来る覚悟で、)にしたいか、部屋の掃除とベッドメイキングだけはきちんとしてくれる極めて安価なユースホステルも考えるか。研究者一人一人は勿論医学部全体の問題として各講座の責任者が将来のために考えておく重要な問題であろう。「どうなるか」でなく「どうしたいか」ということを。

注)
これは動物実験施設便り第19号(平成6年)に掲載されたものです。

施設利用者等の随筆
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