寄生虫学と実験動物

寄生虫学講座 阿部達也助教授
 今から300年以上前にフランシスコ・レディが哺乳類の体内に虫が生きていることを見つけたとき、大いに迷ったに違いない。なにしろ、ウジは腐った肉のかたまりから自然に発生すると考えられていた時代である。生物の体内に生物が生きている。これは確かに不思議な現象であり、興味をそそることである。しかし、考えてみれば寄生という現象は、サバンナに棲むキリンの首が長く、北極に棲むクマの毛がふさふさしていることと同じ次元のことなのである。つまり、ある生物が生存のためにある環境に適応してきたという生物学上の事実に収束する。寄生虫にとって宿主は生存のための一つの環境に過ぎない。そしてそれは”利己的な遺伝子”の理論に乗れば、寄生虫の遺伝子が自己の遺伝子を残そうとよりよい場を求めてきた結果なのである。

 動物実験施設と関係のなさそうなことを書いたのは、寄生虫のライフサイクルを維持するには動物が必須であるということを言いたいからである。必然、実験寄生虫学と動物は切っても切れない関係になり、われわれにとって動物施設の使いやすさは高い関心事となる。多くの施設を比べたわけではないが、秋田大学の施設は使いやすい。われわれは多量のマウスを使用するために施設で繁殖させている。ここでは給餌給水は施設にまかせてよい、汚れたケージは所定の場所に出しておけばよいなど、以前使っていた施設からみると、繁殖させ、使用する側の負担はずいぶん減った。その分、当施設の職員の方々にはお世話になっているということである。自分の仕事を見えない部分で支えてくれる方々があることを、研究者は覚えておくぺきであろう。

 動物愛護の立場から、できるだけ動物を使わない実験系が求められているが、寄生虫学の実験をまったく動物なしで行うのは難しい。例にもれず、アメリカの寄生虫学に遅れること10数年にして、日本の寄生虫学の分野でも分子生物学が主流となりつつある。これからは、動物の使用量もいくらか減少するであろうが、その使用を避けてはやっていけない。実験動物利用者として、使用した動物の死が無駄でないようにと願っている。そのためにも、一読もされずに屑籠へ行く結果ではなく、少なくとも人に引用される結果を出せるようでありたいと思うのである。

注)
これは動物実験施設便り第18号(平成5年)に掲載されたものです。

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