アメリカ実験動物レポート(松田幸久)(第3回) 1/30/1996



米国における動物実験の規制

 米国の研究、教育における動物の使用を規制している法律や規則は基本的には連邦政府が主管している。しかし、州や地方によってはそこの法律がある種の動物の獲得や使用に影響を与えている場合もある。
以下に動物を取り扱う際にシカゴ大学が従わなければならない機関あるいは法律、規則、指針をあげる。

A. USDA(United State Department of Agriculture)の役割
 1966年の動物福祉法成立以来、動物の福祉問題はUSDAが管轄している。
 USDAの活動には以下のものがある。

  1. 研究機関から提出された保証書の確認
     USDAに登録した研究機関は毎年保証書に必要事項を記載しなければならない。
     記載事項としては
    USDAはこれらの書類を報告書にまとめて上院議会に提出しなければならない。

  2. 査察活動
     動物福祉法の監督と実施はUSDA内にあるthe Veterinary Services Division of the Animal and Plant Health Inspection Service(APHIS)の責任である。査察計画はワシントンにいるanimal care stuffにより企画され、全国各地にいるVeterinary Servicesの職員によって実施される。法律を遵守していることを確認する査察は事前通告なしに、大抵3か月に一回の割合で行われる。USDAは査察の結果をまとめ、上院議会に報告するannual reportとしてファイルする。法律に違反している場合には告訴するためにUSDAのOffice of General Counselに報告書が転送される。

B. NIH (National Institution of Health)の役割
 NIHのthe division of the Public Health Service, Department of Health and Human Serviceは医学生物学研究への資金援助を行っている。動物実験を含む研究計画において資金援助(grant)を求める場合には、動物の取扱に関しNIHの方針に準拠することが求められる。
 NIHの動物取扱の基準はthe Guide for the Care and Use of Laboratory Animals(これ以降Guideと略記する)に要約されている。この冊子はthe National Research Councilのthe Institution of Laboratory Animal Resources(ILAR)によって書かれ、改訂されている。
Guideに含まれる項目 NIHは通告なしであるいは通告して直接施設を査察することもあるが、基本的にはACCによる内部査察と毎年新たに提出される研究機関の保証書を通して研究機関の自主的な規制を信頼している。

  1. 内部査察の要求
     NIHの規則は研究機関のACCが動物施設の内部査察をすることを要求しているため、ACCは動物が飼育されまた実験に使用される全ての場所を査察しなければならない。そして全ての管理運営、獣医学的処置および取扱がNIHのGuideに準拠していることを確認しなければならない。ACCはsemi-annual reportsを通して動物の取扱の状態を大学の担当責任者(officials)に通知することが要求されている。また、規則に準拠していない区域があった場合にはACCが個々に説得し、規則に準拠するよう修正のための猶予期間も含め助言しなければならない。ACCの指導にもかかわらず規則が守られない状態が継続している場合にはACCは直接NIHに報告しなければならない。もしNIHがその違反を重大であると見做した場合には研究機関全体の研究活動が危険に曝される可能性を含んでいる。即ち、連邦からの全ての資金援助(当該研究だけでなく、研究機関全体に対する資金援助)が停止される。

  2. 保証書の申告
     NIHのgrantを受けるためには大学はすべての基準がNIHのGuideに準拠していることを証明しなければならない。ACCからの毎年の報告書に基づき、大学の担当責任者はNIHのGuideに準拠していることを証明する保証書に署名し、それをNIHのOffice for the Protection of Research Risks(OPRR)に提出する(大学自体でも保管しておかなければならない)。この保証書の一部として、大学はACCによって行われた内部調査/査察のコピーを提出することが要求される。ACCのメンバーの名前と信任状がその内部調査書に添付されなければならない。

C. AAALAC(American Association for the Accreditation of Laboratory Animal Care)の役割
 AAALACは動物の取扱全般に関し洗練された管理を促進するために貢献しているボランティアの認定組織である。25以上の主要な学会(the American Medical Association, American Dental Association, American Hospital Associationを含む)が後援している。AAALACは実験動物施設を評価するための基本的な基準としてNIHのGuideを使用している。AAALACによる認定はNIHのGuideに記載されている原則に準拠していることを証明するものとしてNIHから高く評価されている。しかし、USDAは動物福祉法に準拠している保証としてAAALACの認定を受け入れていない。それはAAALACとUSDAのプログラムではその目的がやや異なるためである。

D. GLPs(Good Laboratory Practices)
 USDAの動物福祉法は動物を使用する全ての研究、教育に適用され、またNIHは研究機関全体の資金援助に関与する。しかし、GLPsは新製品の許可を得る場合にのみ従わなければならない規則であり、Food and Drug Administration(FDA)が主管している。したがってGLPsはFDAと契約した研究者をもつ施設だけが対象となる。もし研究者がこのような契約の基に研究をしているならば、動物実験施設長はこれらの規則に適応するように特別な配慮ししなければならない。

E. 絶滅の恐れのある動物種の保護(Conservation of Dangered Species)
 大学は絶滅の恐れのあるを動物種を保存し絶滅を防ぐための連邦の法律に従うことを要求される。この法律(Public Law 93-205)を主管している法的機関はSecretary of the Department of the Interior(内務省秘書室)であり、Fish and Wild life Serviceによって施行されている。この法律は絶滅に瀕している種を保存するために作られたものであり、世界中の野生植物群、動物群を保存するために必要な処置がとられている。霊長類や絶滅の恐れのある他の野生の動物を輸入し、飼育するに当たっては動物実験施設が全ての適切な許可を取得しなければならない。

F. 州および地方の法律
 大学は動物の管理および統御に関する州および地方の法律に従わなければならない。これらの動物管理センター(public pound)からの動物の譲渡をコントロールしており、動物虐待を意味するものではないことの法的定義を与えている。

 これらの法律、規則、指針に基づいてシカゴ大学の動物実験に関するThe University of Chicago Manual on Laboratory Animalが作られている。このマニュアルについては機会があれば報告したい。

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