Recommended Methods of Euthanasia for Laboratory Animals (University of Chicago)

安楽死法

 Euthanasia(安楽死)とはギリシャ語のeu(good、よい)とthanatos(death、死)から由来しており、苦痛なく生を終わらせることである。苦痛のない死の条件とは急速な意識の消失後に心臓の停止、呼吸器の停止を起こすこてである。別の条件としては、感情を持っている実験動物を殺すときに、実施者が不快感をもたない方法であり、死後に採取する組織やサンプルに変性がない方法である。各動物種に対して用いられる安楽死法には種々のものがあり、それぞれに長所と短所がある。そのため実験の種類により最も適切な方法を選択すべきである。以下に示す安楽死法はシカゴ大学の動物実験委員会とAmerican Veterinary Medical Assocuation(AVMA)の安楽死に関する委員会が推奨する方法である。これ以外の方法を用いることも可能である。"1993 Report of the AVMA Panel on Euthanasia"は動物施設事務室で手に入る。また、これらの方法に関して動物実験施設の技術的援助を得ることも、あるいは獣医師と相談することもできる。

推奨される技術:

  1. 二酸化炭素 (C02)

     CO2はげっ歯類や他の小動物を安楽死するために適した方法である。CO2による安楽死はガスボンベと密閉容器、あるいはガラス鐘内に置かれたドライアイスを用いて行うことができる。ドライアイスを用いる場合には動物が直接ドライアイスに触れないよう注意しなければならない。安楽死のために用いるCO2の濃度は90〜100%である。CO2を持ちいて安楽死を行う場合には、まず最初に動物が麻酔状態となり、その後に意識を消失し、反応が無くなるので、動物をチャンバー内に十分な長く置くことが肝要である。死んだことを確認するために動物が呼吸をしていないことを観察し、そして心臓の鼓動が無いことを触診により確認する必要がある。新生子は酸素に対するヘモグロビンの親和性が高いためCO2により長く暴露する必要があり、死亡するまでに15分以上かかることもある。CO2は両生類や爬虫類の安楽死には推奨できない。

     動物施設の実験室にはげっ歯類の安楽死のためにCO2チャンバーを用意しているので、適切に使用するために近くに貼ってある指示書を参照するか、施設職員に聞くようにする。簡単に説明すると、CO2ガスボンベの上についている大きなバルブを反時計回りに回すことによりチャンバー内にCO2を充満してから、その中に動物を入れる。ガス圧が圧力計で5PSI以下であることを確認する。バルブを開けすぎて勢いよくガスを注入すると強い風速のために動物はストレスを被るのでできるだけ緩やかにガスを送り込む。もし必要なら調節器のノブを調整することにより圧力ゲージの圧を下げ、流量バルブをあけることにより確認する。動物をケージからとりだし、チャンバー内に入れるか、あるいはケージごとチャンバー内に入れる。動物を5〜10分ほどチャンバー内に入れておく必要がある。死んだことを確認するために呼吸と心臓の鼓動が停止しを確認する。それには呼吸していないことを観察し、そして動物の胸を親指と人差し指ではさんで心臓の鼓動を触診することにより確認する。上述したように、新生児ではかなり長い間ガスに暴露する必要があり、ピンク色が消失した後に死んだと認めるべきである。そして新生児も含めて動物の死体をビニール袋に入れたなら、閉じる前にビニール袋をCO2で充満させること。

  2. バルビツール酸誘導体

     バルビツール酸誘導体としてはペントバルビタール・ナトリウムが安楽死のために最も使われている。バルビツールには中枢神経を抑制する作用があり、意識消失、深麻酔、無呼吸、心臓停止に至る。安楽死のための量は麻酔のために使われる量の少なくとも2倍(120mg/kg)である。濃縮した製品が入手可能で、安楽死のために推奨できる。以下の表は動物種とその投与経路を示している。

    動物種と投与経路

    動物種
    投与経路
    マウス
    腹腔内
    ラット
    腹腔内
    モルモット
    腹腔内
    ハムスター
    腹腔内
    ウサギ
    腹腔内 (後耳静脈)
    ネコ
    腹腔内 (橈側皮静脈またはサフェナ静脈)
    イヌ
    腹腔内 (橈側皮静脈またはサフェナ静脈)
    ブタ
    腹腔内 (耳静脈)
    霊長類
    腹腔内 (ケタミン筋注による沈静後)


     ペントバルビタール・ナトリウムは連邦とイリノイ州の麻薬取締局 (DEA)では Schedule II の薬剤となり、連邦の規則では使用量、使用目的、使用日を記録するように要求している。日常的にペントバルビタール・ナトリウムを使用する研究者は直接DEAの許可を取ることを勧める。DEAに登録していない研究者は ARCの Clinical/Surgical Centerから安楽死用の溶液を受け取ることができる。安楽使用に使用する場合であっても、有効期限以内のものを使用する。期限の切れた薬剤はDEAの指示によりすべて廃棄される。

  3. メソキシフルレンまたはハローセン

     メソキシフルレン、ハローセンその他の吸入麻酔薬を適切なガラス鐘の中で吸入させる方法はげっ歯類やその他の小動物の安楽死法として認められている。吸入麻酔薬はそれ自体職員に害作用を及ぼすためにドラフトの中あるいは適切な排ガス装置の整った部屋で使用すべきである。CO2の場合と同様に、呼吸と心臓の鼓動の消失により死を確認する。エーテルの使用は施設内では禁じられている(後述の注意事項を参照)。

  4. 頚椎脱臼

     頚椎脱臼は科学的に正当な理由がある時に、マウスおよび200g以下のラットで条件付きで認められる安楽死法である。この方法を用いる時は実験計画書の審査段階でIACUCにより承認を受けなければならない。実験者はこの技術に習熟していることを証明しなければならない。

  5. ギロチンによる断頭

     ギロチンによる断頭は科学的に正当な理由がある時に、齧歯類に対して用いられる安楽死法である。この方法を用いる時は実験計画書の審査段階で動物実験委員会の承認を受け、実験者はこの技術に習熟していることを証明しなければならない。断頭の際実験者が怪我をする恐れがある。さらに、多くの動物は血液の臭いに対して敏感に反応する。そのため、他の動物がいる部屋で断頭を行ってはならない。そして実験者は動物を断頭する毎に手袋をした手とギロチンを洗うべきである。ギロチンの刃はいつも研ぎすまされていなければならない。

  6. 塩化カリウム(KCL)あるいは硫酸マグネシウム(MgSO4)

     麻酔下の動物に塩化カリウムあるいは硫酸マグネシウムを過量に投与することにより安楽死させることは容認される。血中のカリウム濃度あるいはマグネシウム濃度が急速に上がると心臓は停止する。

  7. 放血

     ウサギや大動物は大容量の血液や血液産物を採取するために放血屠殺されることがある。血液量減退症による苦痛を減少させるために放血する時には、動物に麻酔をかけておく必要がある。

特別な注意事項

 使用される安楽死法の種類にかかわらず、動物が死んだことを確認する必要がある。使用される多くの薬剤は深麻酔を誘発しその後に死に至る。そのため動物が呼吸をしていないこと心臓が停止していることを注意深く確認しなければならない。さらに大動物では瞳孔の散大や角膜反射の消失により確認する。動物の死体を保管する際には動物施設の方針に従い、血液が漏れない袋に入れ、適切な死体置き場に安置しなければならない。

 有害物質を含む動物の死体はそれとわかるように明示して、特別に保管しなければならない。その他の情報が必要な場合には施設に連絡することができる。

エーテルの使用

 施設内でエーテルを使用することは禁じられている。
それはエーテルは極めて引火性、爆発性に富んでいるためである。研究者が自分の研究室でエーテルを使う場合には、爆発防止装置のある冷蔵庫、ドラフトあるいは引火性薬品を取り扱う専用キャビネットの中に保管すべきである。動物を頻繁に殺す場合にはエーテルで行うべきではない。それは動物の死体についたエーテルの安全性が問題となるからである。エーテル麻酔中に動物が死んだ場合には、施設の焼却炉に入れる前にドラフトの中に24時間置きエーテルを除去しなければならない。エーテルを含んだ死体は爆発する危険が大である!

変温動物の安楽死法

 両生類や爬虫類は代謝や呼吸中枢の酸素圧低下に対する耐性が哺乳類とは異なるため哺乳類に適応さ れる安楽死法の幾つかは不適切である。ペントバルビタールの過量投与が推奨される。両生類の安楽死 として脊髄の破壊や断頭などの物理的方法も用いることができるが、その際には麻酔下で行うべきであ る。麻酔による死後変化を防ぎたい場合には4度の冷蔵庫に入れることにより無感覚にすることができ る。断頭により脳死がすぐに起こらないこともあるため、断頭後は脳を破壊しておくべきである。
シカゴ大学における動物の安楽死(1996年以前版)

動物実験手技