外科処置を伴う動物実験を行うにあたって
  1. 実験計画の立案

    研究者は以下に留意し,実験計画を立案する必要がある。

    1. 実験は、倫理的,科学的に正当化されるか。

    2. 目的を、動物を使用せずに達成することができるか。

    3. 動物の使用数を減少させるような他の実験方法があるか。

    4. 最も適切な動物種が選択されたか。

    5. 動物の生物学性状(遺伝的、栄養的、微生物学的、一般的な健康状態)は適切か。

    6. 統計学上有効な結果が得られることができるだけ,あるいは教育上目的が達成できるだけ必要最小限の動物が使用できるように実験は計画されたか。

    7. 同じ実験が以前に行れている場合には、なぜそれらの実験をを繰り返さなければならないのか。

  2. 術前の計画

    外科手術を成功させるには以下の注意事項を守ること。

    1. 信頼できる研究データを得るためには健康で疾病のない動物を使用する。そのような動物を得るために研究機関の獣医師あるいは他の資格者に相談する。
    2. 潜在的な問題を抱えている動物は麻酔薬の使用によるリスクが増大し,しばしば外科的処置を困難にする。病気の動物をそのような実験に使用すべきではない。術前の健康チェックにより,そのような潜在している問題を早期に見つけだすことができる。
    3. 動物種によっては,麻酔薬投与による合併症を抑えるために術前の絶食を考慮する。
    4. 術前に抗生物質を投与すると外科的処置の間に薬の血中濃度を高く維持できる。術後に抗生物質を追加投与することも考慮する。
    5. 死体を用いて手術の練習をすることにより,手術時間を短縮することができる。研究者は死体を解剖することにより臓器の分布を詳しく知ることができ,それによって実験の外科的処置の手際が良くなる。それにより必要以上の麻酔薬を使わなくてすむことから術後の回復時間を短縮し,動物の福祉を促進することにつながる。
    6. 鎮痛剤を術前に投与することも考慮する。

  3. 外科的処置

    外科的処置は適切な局所麻酔や全身麻酔下で行ない,麻酔の深さ,低体温あるいは循環器系と呼吸器系の抑制を監視すべきである。

    麻酔と手術は,適切なトレーニングを受け,経験を備えた有能なスタッフによって行なわれるか,そのような経験者の直接の指導,監督のもとでなされるべきである。

    麻酔薬,鎮痛剤および鎮静剤の選択と投与量は,動物種によって異なるため,その動物種に適したもの,さらに実験の目的に適したものを使用する。

    新しい麻酔薬を使用する際や新たな鎮痛剤を併用する際には,あらかじめその方法で練習し,習熟しておく。清書に記載されているデータから投与量を推定したとしても,動物種や系統の違いにより薬剤の代謝も異なるので,予期しない病的な状態や死を招くこともある。麻酔の練習と非生存外科手術の練習を兼ねると,貴重な情報を得ることができ,手術の成功率も高まり,動物の福祉を促進することになる。

    1. 苦痛とストレスの制限

      動物が苦痛やストレスを被っていることを簡単に評価することはできないため,動物が人間と同じように苦痛を感じると仮定しなければならない。そして苦痛およびストレスを回避するか最小限にとどめるために次の事項を考慮すべきである。

      1. 実験処置として適切で人道的な方法を選ぶ。
      2. 動物の飼育や使用に係わる関係者全員が適切な訓練を受け,能力が備わるように努める。
      3. 動物が苦痛やストレスの様相を呈していないか十分に観察する。
      4. 苦痛とストレスを緩和するための迅速な対応をする。
      5. 動物種や実験の目的に合わせて適切な麻酔薬,鎮痛剤および鎮静剤を使用する。
      6. できるだで短い期間内に実験を終える。
      7. 適切な安楽死法を採用する。
      局所麻酔薬,全身麻酔薬,鎮痛剤および鎮静剤の使用は,動物種に合った適切なものでなければならない。

      医療や獣医療で麻酔を必要とする痛みと同等の痛みを生じる可能性のある実験は全身麻酔下で行われなければならない。

      実験を始める前に,動物を実験環境,実験処置そして飼育関係者に馴らしおくと,ストレスなどによる苦痛は薬を用いなくてもしばしば緩和されることがある。実験中および実験後においても苦痛やストレスを緩和し,動物の福祉を促進するために適切な措置をとるべきである。

      苦痛やストレスの発生を防ぎ,それらが発生した場合には迅速な緩和処置をとることができるように常に動物を観察しなければならない。

      上述したような注意にもかかわらず動物が激しい苦痛やストレスに見舞われている場合には,苦痛やストレスを速やかに緩和するか,あるいは安楽死させなければならない。そのような苦痛やストレスの緩和は実験の継続や終了よりも優先する。動物が苦痛やストレスを被っているか不明な場合には,実験を継続する前に獣医師や専門家の意見を求めなければならない。

    2. 苦痛またはストレスの兆候

      研究者は選択した動物種の正常な行動,あるいはその動物種に特有な苦痛やストレスの兆候に精通していなければならない。

      動物が正常時とは違う行動パターンを示していることを知るために頻繁に観察すべきである。正常時には見られない行動パターンを示す場合には,動物が苦痛あるいはストレスを被っている可能性がある。睡眠,摂餌,摂水,毛づくろい,探索行動,学習能力,その種に独特な行動,繁殖行動,社会的行動の変化について観察すべきである。

      動物が急性の苦痛やストレス被っているときには,下記に示す1つ以上の兆候が含まれる。

      1. 攻撃的行動や異常な行動(ある種の動物では過度に柔順になることもある)
      2. 異常なスタンスあるいは歩行
      3. 異常音
      4. 循環機能や呼吸機能の変化
      5. 異常な食欲
      6. 体重の急速な減少,体温の変化
      7. 嘔吐,異常な排便や排尿

      慢性の苦痛やストレスの指標には次のものが含まれる。

      1. 体重の減少
      2. 成長阻害
      3. 繁殖障害
      4. 疾病に対する抵抗力の減退
    3. 術後管理

      術後に最も考慮しなければならないことは苦痛の軽減である。術後の動物を暖く,衛生的な所に収容し,水分や食物を十分摂取させ,感染症の予防に注意するなど快適な状態に保つように心がける。

      術後の苦痛やストレスを最小限にするために必要に応じて鎮痛剤や鎮静剤を使用する。麻酔から回復する動物が怪我をしないような場所に収容し,同一のケージに飼われている他の動物から妨害されたり,攻撃されたり,殺されたりしないように注意する。

      治癒の状況を確認するために創傷部位を定期的に観察し,術後動物が軽減することのできない激しい苦痛やストレスに見舞われている場合には,速やかに安楽死させなければならない。

      参考資料
      ニュージーランドのCode of Recommendations and Minimum Standards for the Care and Use of Animals for Scientific Purposes