黄河のほとりへ(2)

 暑苦しい夜が明けると出勤ラッシュが始まる。中国人ドライバーの巧みなハンドルさばきで、ホテルから私を乗せた車は朝のラッシュを養成センターへと向かう。大きな道路は自転車、自動車、馬車、荷台に人を満載したトラックでごった返し、その中を後部座席に女性を乗せたバイクが颯爽と走り抜ける。また、激しく行き交う車の洪水の中を悠然と横切る者もいる。交通法規がまだ十分整備されていない状態であるが、中国人の運転技術が上手いのか、あるいは中国人同志の事故は表沙汰にならないのか不思議に事故は少ない。一説には人をはねた場合、人よりも高価な車の方を気遣うと言われるが、真偽の程は定かではない。ただし、外国人の車が中国の人との間で事故を起こした場合には大変な慰謝料が請求されるらしい。

 北京に着いてすぐ注意されたことは、「事故の危険性が多いので車の運転はするな」、「北京駅や北京動物園などの人込みには掏摸が多いので気を付けろ」、「屋台の食い物は腹をこわすので食べるな」であった。

 養成センター近くの細い道の両側には色々な屋台があり、人々は朝食をそこでとるのが常のようである。揚げパンや麺類が美味そうであったが、消化器系に自信のない私は遂に挑戦することはなかった。私より3週間遅れて赴任した本プロジェクトの日本側責任者である上田先生は北京駅で屋台のシシカバブーを食べ、その後一週間ほど腹痛に悩まされたという。食中毒に関しては権威の国立公衆衛生院に勤められたこともある上田先生でさえ腹をこわすのだから、私の判断は正しかったようだ。この腹痛の話は大分後になって露呈したのだが。

 さて、北京での私の役目もほぼ終わりに近づいた頃、3泊4日で秋田と姉妹都市の蘭州市に講演を兼ねて施設見学に行くこととなった。東京大学で実験動物の研修を終えた中国美人の秦川さん、それに北米東海岸をこれまで2度ほど一緒に旅したことのある久原先生との3人旅である。

黄河のほとりへ(3)