SCAWのPain, Distress and Stress in Research Animals(2000)


Selected Presentations from SCAW's.
Pain, Distress and Stress in Research Animals: .
Current Standards and IACUC Responsibilty ..

conference held in Baltimore, MD in May of 2000
要約

Definition of Terms.
Animal Welfare and States of Suffering and Pleasure.
by Ian J. H. Duncan

 現在、動物福祉の定義については、生物学的必要性を重視した生物学的機能説と、動物が感じる恐れと喜びに着目した感情説の二つがある。感情説における動物福祉とは、一般に「恐れ」といわれる強い消極的な感情がない状態であること、または一般に「喜び」といわれる積極的な感情が存在する状態であることに大きく関係していると考えられている。  「恐れ」とは、痛み、欲求不満、恐怖、さまざまな欠乏状態、系統発生学的に高等な種における倦怠を含む、不快な感情の状態である。また、「苦しみ」とは、痛み、不快感、恐怖、またはこれらの状態の組み合わせによる苦痛の状態を言及する。 以上のような状態が緩和されれば、実験動物における動物福祉は大きく改善されるであろう。 一方、動物における喜びの状態については過去の実験的調査がほとんどないが、この点についての研究も近い将来発表されるであろう。

FRUSTRATION IN LABORATORY ANIMALS.
by C.M. Sherwin

 ここではFrustration(欲求不満)とは、ある態度を示そうとしてもそれを表現することが出来ないことによって生じる消極的な精神状態であると定義する。 そこでまず初めに、一般に欲求不満を引き起こすような状況に対して人間以外の動物と人間のとる行動は類似していることを示す。それらは、「置き換え行動・発声・攻撃性の増加・自己虐待(毛づくろい過多)・ステレオタイプ・無関心」といった行動で現れるのである。
 次に実験室の一般的なケージでは動物に慢性的な欲求不満を引き起こすということを調査し、その上で人間の都合ではなく実験動物に合わせた広さと質を備えたケージをデザインすることで、動物に欲求不満を起こさせないようにする。

BOREDOM AND THE SEEKING OF NOVELTY
by Ruth C. Newberry

 退屈とは、環境における新しい刺激に接する機会が慢性的に欠乏している状態である。実験動物は退屈になると新しい刺激を求める動機を得る、という仮説を証明するために、筆者はニワトリを用いて実験を行い、予測通りの結果が得られた。自然界において、動物は環境の変化や外敵の認識をすることによって将来の不測の事態に対応できるかもしれないので、新しい刺激を求めるのである。実験動物のように、比較的不変の環境で飼育された動物は、変化を認識することができなくなり、探求行動をとらなくなるかもしれない。そうなると、脳の発育は阻害され、退屈を感じるかもしれない。また一方で、過度の新しい刺激は、動物に恐怖とストレスをもたらす可能性も考えられる。

REVIEW OF EXISTING REQUIREMENTS
by Barbara Rich

 議会は今後も動物を用いた研究を行っていくためには、研究に使う動物の管理や保護といった社会的問題に取り組むための法案が必要であるとしている。そのためにも現在問題となっている事項を再検討する必要がある。ここではUSDA規則より定義されている、安楽死や不快といった言葉の意味を確認し、次に研究する過程で動物が被る苦痛を最小限にするような方法をとるための研究者の義務、IACUCの義務に関する法律を示している。そして研究に用いる動物に対する担当獣医師の役割と適切な獣医学的な管理や世話についての法律をまとめ、動物を扱う者に対する研修の内容や、できるだけ苦痛を減らし有意義な動物実験を行うための情報提供の方法、動物の苦痛を最小限にするような研究方法が適切に取られているかの調査方法や罰則をまとめている。そして最後に、脊椎動物を用いた研究に対するアメリカ合衆国の理念(例えば動物実験は適切な目的、方法でのみ行うべきで動物の苦痛を最小限にすべきことなど)がまとめられている。

PAIN AND STRESS IN BEHAVIORAL RESEARCH
by Adrian R. Morrison, DVM

 種々の基本的知識を確立するための基礎的動物行動研究は脳の病気の解明、治療や予防といった臨床研究に大いに役立っている。その反面、行動研究の方法論および理論的基礎は、よくは理解されていない。そのためここでは幾つかの行動研究を例に挙げて、それらを行うにあたっての注意事項が述べられている。行動研究を行うにあたっては拘束などにより動物にストレスをもたらすことが考えられるが、NRCガイドと一致している限り容認される。また、IACUCU(機関内動物倫理委員会)、実験者、飼育者は行動研究中に動物が過度のストレスを被らないように十分注意する必要がある。

MUSIC TO ALLEVIATE PAIN AND DISTRESS
by Sue Raimond

 PET PAUSEとはハープ音楽のプログラムで、家畜やエキゾチックアニマルに対して根本的または補足的なエンリッチメント(心の安らぐ環境の改善)を提供するものである。この音楽を使うことにより、あらゆる年齢の動物に対して心拍数を安定させたり、血圧を下げたりといった効果があることが証明されている。PET PAUSEは、エンリッチメントの強化プログラムにおいて重要な要素であり、単純であるが有効で何度でも使用可能なツールである。

NOISE STRESS AND PHYSIOLOGICAL RESULTS
by Ann L. Baldwin, PhD

 すべての産業化社会において、雑音は、重要な環境ストレス要因であり、多くの副作用が述べられてきた。さらに環境ストレスは、研究動物の生理学的反応にも影響する。動物施設職員の活動レベルの違いによって、ラットの腸間膜にある微小血管系の浸透性および構造が異なる。つまり、ラットが毎日過度の雑音を被ることにより、マスト細胞の脱顆粒が促進され、その結果、微小血管の浸透性が増加する。したがって、ラットを用いて、微小血管の血液交換に関する研究を行うためには、動物施設内の雑音を厳密に制限する必要がある。


 動物実験委員会(主に国立大学医学部)の多くが動物実験を審査するに当たり「倫理基準による医学生物学実験法に関する分類」を用いている。この分類はScientists Center for Animal Welfare (SCAW)のCategories of Biomedical Experiments Based on Increasing Ethical Concerns for Non-human Species(1987)をもとにしてしる。このSCAWの分類が米国で作成されてから15年を経過し、また各国においても独自の「苦痛の判断基準(Pain Scale)」が作成されている。そして動物実験において動物が被る苦痛に対する考えは変化している。そのためグローバルハーモナイゼーションを踏まえ、本HPに各国の基準を参考資料として掲載している。今回はSCAWのPain, Distress and Stress in Research Animals(2000)の要約を掲載したが、動物実験委員会において実験計画書を審査するに当たり参考となれば幸いである。 なお、本要約は授業の一環として当動物実験施設に配属された学生(平成13年度基礎配属学生5名)により作成された。
倫理的動物実験