動物福祉のためのサイエンティストセンターによる動物の管理および使用に関する委員会を効果的に運用するための勧告

 研究機関において実験動物の福祉を監督している動物実験委員会(以下委員会)がその機能を効果的に果たすための勧告を以下に示す。
この勧告は,動物福祉ためのサイエンティストセンター(SCAW)の理事会のメンバー及び1984年と1985年に同センターによって開催された5回のワークショップの参加者らによって作成された。5回のワークショップのうち4回が米国で,1回はカナダで開催され,両国の主要な大学も関与していた。全部で千人を超える科学者,施設管理者,飼育担当者らが参加した。以下に示す勧告の中には,公的政策(NIHのGuide for Grants & Contracts,AWA,CCACのGuide to the Care and Use of Experimental Animals Vol. 1 and 2,CCACのEthics of Animal Experimentation)にも盛り込まれているものもある。勧告の全ては米国とカナダ両国における現行の国家的方針に矛盾するものではない。

各研究機関には次のことが求められる。
  1. 委員会は,あらゆる動物の使用が国で定めた実験動物福祉に従っていることを監督する責任を負う。

    委員会の主な仕事は,実験計画書の審査であり,必要な場合には動物福祉に反しないように実験計画書を改善するよう勧告する。その他の仕事として,以下のことが挙げられる。動物の飼育状況の調査,動物福祉に関する研究機関の指針を吟味し,承認し,普及する。動物福祉に関わる問題に関し,研究機関内で教育的役割を演じ,機関内での教育計画を推進する。

  2. 委員会は,その研究機関の最高責任者(例えば,研究所長あるいは副所長)に報告する義務がある。

    研究機関の管理者が委員会が作り上げた最終目標を理解することが大切である。

  3. 委員会の委員長は,動物実験施設長,動物施設の獣医師(attending Vet.)以外の人が務めるべきである。

    委員長には,研究部の部長,上級の管理者,あるいは研究者がふさわしい。

  4. 委員会のメンバーには多分野にわたる専門家を選ぶことが望ましい。

    委員会のメンバーのバランスを保つためには,以下のような人々を選ぶべきである。実験動物学に習熟した獣医師,いくつかの分野における実験動物科学者(できれば疼痛の専門家を含むとよい),地域を代表する人などである。さらに,以下のような人々も委員会に加えるべきである。他の分野,例えば人文科学,倫理学,法学の専門家,研究機関における上級の管理者,飼育スタッフ,学生などである。

  5. 委員会のすべてのメンバーは,研究機関で設定した到達目標を理解し,最高水準の動物福祉を達成するために努力しなければならない。

  6. 委員会,動物実験施設長,動物施設の獣医師,そして研究者の具体的な責任に関して,研究機関は明確な方針を定めなければならない。

  7. 委員会に権限を与えるような方法を考えなければならない。

    その一つの方法として,研究者が動物を入手する前に委員会が実験計画書の審査をする。全ての動物購入申請書に委員会による承認番号をつける。委員会の許可無しに,研究者が動物を研究所に搬入するか,あるいは研究所から搬出することができないようにする。

  8. 実験計画書の審査を迅速に行う方法を考えなければならない。

    計画書の審査が遅れると,研究者の実験の進行が妨げられる。また,提出され実験計画書の審査が終了していないにもかかわらず,研究資金が送られてくることもあることから資金供給元との連携も必要である。

  9. 実験動物学を専門とする獣医師,あるいはそれと同様の教育を受けた人が実験計画書を事前に審査し,その結果を委員会に報告すべきである。

    そのような専門家は,委員会が開かれる前に研究者に直接連絡を取り,疑問点を解決しておく。そうすることによって気付かなかった問題点が明らかとなり,研究者が行おうとしている実験が改善される。このことはフルコミティーの委員会の代わりとなるものでもないし,委員会の責任を減ずるものでもないが,委員会の審査をはかどらせることとなる。

  10. 実験計画書を審査する人の範囲は実験処置の種類によって異なる。

    例えば,動物の組織だけを使う実験の計画書は簡易審査となる。生きた動物を用いるが,その動物に対してほとんど苦痛を与えない実験の計画書は1〜2名の委員会のメンバーにより審査してもさしつかえない。その他の処置は全てフルコミティーで審査される。委員は誰でも計画書に対してフルコミティーの審査を要求することができる。

  11. 表1に示している苦痛の分類法,あるいはそれと同等のものを研究機関の指針に取り入れるべきである。

    この分類表では動物の苦痛が増すと思われる処置をカテゴリーAからDの順序に記しているが,実験計画書はこのようなカテゴリーを記載できる様式にしておく必要がある。動物実験委員会はそれぞれの研究所で行われている処置の具体例を加えるなどしてこの表を修正できる。計画書を提出するに当たって,研究者は自分の実験がどのカテゴリーに当てはまるかを記さなければならない。動物実験委員会は研究者の記したカテゴリーが正しいかどうかをチェックしなければならない。苦痛分類の使用は委員会に対しては審査をより厳正なものとするのに役立ち,研究者に対しては気付かない点に関して注意を喚起させる。

  12. 委員会は,研究費の種類(研究部の研究費,民間の研究費,公共の研究費),研究目的の種類(予備研究,生物医学的研究,農学的研究,野生動物の研究あるいは試験や教育)にかかわらず,生きた動物の使用するすべての研究活動をチェックすべきである。

  13. 委員会の決議は,追跡調査ができるように記録しなければならない。

    委員会の記録は,国の規定あるいは認定基準に基づいたものでなければならない。承認された研究が適切に行われているかを確認するために動物実験委員会は適宜調査しなければならない。また,必要に応じて,実験計画書を再審査しなけらばならない。

  14. 委員会は,実験計画書を審査するに当たりRussellとBurchの3Rを考慮すべきである。

    3Rとは,Refinement(動物の苦痛を軽減させるために,実験処置を洗練すること),Reduction(使用する動物の数を減らすこと),Replacement(系統発生学的に見てより下等な動物を使用すること,あるいは動物を使わない実験と代替すること)である。3RのうちRefinementはすぐにでも種々の分野で応用できる。委員会は,動物の福祉を増進させるためには,可能な限り実験処置を改善すべきである。例えば,委員会は,激しい苦痛を緩和するため,あるいは病的状態の期間を短縮するために計画段階でend-pointを早めに設定する(すなわちある一定の基準に達した時に安楽死させる)ように勧告することができる。実験計画書を修正させるに当たっては研究者とよく相談して行うべきである。科学的目的を損なわないのであれば,倫理的に問題となりそうな処置はできるだけ行うべきではない。動物のストレスを取り除いたり,軽減したりすることは結局は実験結果の科学的な信頼性を高めることにつながる。

  15. 安楽死にて動物を処分する場合には,委員会は,その方法が米国獣医学会(AVMA)あるいはカナダ動物管理協会(CCAC)によって定められた基準に準拠していることを確認しなければならない。もし,研究機関がさらに詳細な基準を定めているならばそれに従う。

  16. 委員会は,動物に対して極度の苦痛を与える処置に関しては,研究機関独自の方針を打ち出すべきである。例えばサルを長期間拘束すること,意識ある動物に激しい外傷を与えること,LD50試験を行うことなど(すなわち,表1で禁じているカテゴリーEの処置)については,各研究機関で独自の方針を持つことが望ましい。

  17. 委員会を構成するに足る十分なスタッフがいない小規模な研究機関では,委員会が機能を果たすために,他の研究機関と共同して一つの合同委員会を作ることも可能である。

    例えば,複数のキャンパスを持つ大学では中央委員会を持つことができるし,また,幾つかの隣接した研究機関と協力して共同の委員会を持つこともできる。しかし,国の基準を遵守する最終的な責任は各研究機関にある。

  18. 委員会は,研究者及びその他の職員に対して動物実験に関する訓練の機会を与えるべきである。

    委員会は,実験動物の福祉に役立つとみなされる国や地方の勉強会,ワークショップ,セミナーなどの活動を積極的に推進すべきである。

表1.倫理基準による医学生物学実験法に関する分類


English version


カテゴリー


処置例および対処法

カテゴリA


生物個体を用いない実験あるいは植物、細菌、原虫、又は無脊椎動物を用いた実験
生化学的、植物学的研究、細菌学的研究、微生物学的研究、無脊椎動物を用いた研究、組織培養、剖検により得られた組織を用いた研究、屠場から得られた組織を用いた研究。発育鶏卵を用いた研究。
無脊椎動物も神経系を持っており、刺激に反応する。従って無脊椎動物も人道的に扱われなければならない。
カテゴリB


脊椎動物を用いた研究で、動物に対してほとんど、あるいはまったく不快感を与えないと思われる実験操作
実験の目的のために動物をつかんで保定すること。あまり有害でない物質を注射したり、あるいは採血したりするような簡単な処置。動物の体を検査すること。深麻酔により意識を回復することのない動物を用いた実験。短時間(2〜3時間)の絶食絶水。急速に意識を消失させる標準的な安楽死法。例えば、大量の麻酔薬の投与や軽く麻酔をかけるなどして鎮静させた動物を断首することなど。
カテゴリC


脊椎動物を用いた実験で、動物に対して軽微なストレスあるいは痛み(短時間持続する痛み)を伴う実験。
麻酔下で血管を露出させ、カテーテルを長時間挿入すること。行動学的実験において、意識ある動物に対して短時間ストレスを伴う保定(拘束)を行うこと。フロイントのアジュバントを用いた免疫。苦痛を伴うが、それから逃れられる刺激。麻酔下における外科的処置で、処置後も多少の不快感を伴うもの。
カテゴリCの処置は、ストレスや痛みの程度、持続時間によっていろいろな配慮か必要になる。
カテゴリD


脊椎動物を用いた実験で、避けることのできない重度のストレスや痛みを伴う実験。
行動学的実験において故意にストレスを加えること。麻酔下における外科的処置で、処置後に著しい不快感を伴うもの。苦痛を伴う解剖学的あるいは生理学的処置。苦痛を伴う刺激を与える実験で、動物がその刺激から逃れられない場合。長時間(数時間あるいはそれ以上)にわたって動物の身体を保定(拘束)すること。母親を処分して不適切な代理の親を与えること。攻撃的な行動をとらせ、自分自身あるいは同種他個体を損傷させること。麻酔薬を使用しないで痛みを与えること。例えば、毒性試験において、動物が耐えることのできる最大の痛みに近い痛みを与えること。つまり動物が激しい苦悶の表情を示す場合。放射線障害をひきおこすこと。ある種の注射、ストレスやショックの研究など。
カテゴリDに属する実験を行う場合には、研究者は、動物に対する苦痛を最小限のものにするために、あるいは苦痛を排除するために、別の方法がないか検討する責任がある。
カテゴリE


麻酔していない意識のある動物を用いて、動物が耐えることのできる最大の痛み、あるいはそれ以上の痛みを与えるような処置。
手術する際に麻酔薬を使わず、単に動物を動かなくすることを目的として筋弛緩薬あるいは麻痺性薬剤、例えばサクシニルコリンあるいはその他のクラーレ様作用を持つ薬剤を使うこと。麻酔していない動物に重度の火傷や外傷をひきおこすこと。精神病のような行動をおこさせること。家庭用の電子レンジあるいはストリキニーネを用いて殺すこと。避けることのできない重度のストレスを与えること。ストレスを与えて殺すこと。
カテゴリEの実験は、それによって得られる結果が重要なものであっても、決して行ってはならない。カテゴリEに属する大部分の処置は、国の法律によって禁止されており、したがって、これを行った場合は、国からの研究費は没収され、そして(または)その研究施設の農務省への登録は取り消されることがある.
Laboratory Animal Science. Special Issue : 11-13, 1987による

「実験動物海外技術情報」No.7. p14-17。1989((社)日本実験動物協会,海外技術情報調査小委員会編集の和訳を改訳)

倫理的動物実験