用 語 解 説
遺伝学的モニタリング genetical monitoring
動物実験ではある特性に関し遺伝的に安定した動物(近交系)が多く使われる。そのような動物はどれも、同じ実験処置をした場合に同じ反応を示す(再現性)。
遺伝的に安定していないと実験処置に対する反応が一匹ごとに違ってしまう可能性がある。動物を長期にわたり自家繁殖する(継代する)と突然変異をおこすなどして遺伝的に相違を生じるため、動物が遺伝的に相違を生じていないことを確認する必要がある。そのための遺伝学的検査を言う。
遺伝子改変動物(genetically modified animals)
遺伝子の働きを調べるために、調べたい遺伝子だけを働かなくした動物(ノックアウト動物)、あるいは別の動物の遺伝子が働くようにした動物(Tg動物:トランスジェニック動物)を言う。これらの遺伝子改変動物は病気の原因解明や治療法開発のために近年その利用が急増している。
ELISA法(酵素抗体法) enzyme linked immunosolvent assay
病原体に感染した動物では血清中に病原体に対する抗体を生じる。酵素反応を用いて短時間に血清中の抗体を検出し、診断する方法である。
検疫 quarantine
施設に動物を導入する際の病原体検査を言う。実験動物生産業者以外から導入する動物に実施される。
特に、近年では個々の研究機関で開発された遺伝子改変動物、疾患モデル動物の授受が盛んであり、それらの動物が病原体に感染している確立が高いため、重要な業務となっている。
近交系 inbred strain
兄妹交配を20代以上続けて作出され、その後も兄妹交配を続けている系統。
固体内の対立遺伝子が100%近く相同(遺伝子型:AA bb CC DD ee ・・・)。
個体間でも遺伝子組成が100%近く同じ(皮膚,腫瘍の移植が成立)。
現在,マウスでは250以上、ラットでは100近くの近交系がある。
疾患モデル動物 disease model animals
ヒトの病気の原因究明、治療法・予防法の開発のためのモデルとなる動物をいう。水銀を投与して発症させた水俣病モデルネコなどのように薬物や病原体を投与して作る誘発モデル、動脈硬化症、脳卒中、高血圧などを遺伝的に起こす自然発症高血圧ラット(SHR)のほか、先天性脊椎形成不全や瀰漫性甲状腺腫のモデルとなるISラットのような自然発症モデル、受精卵や精巣にポリオレセプター遺伝子など特定の遺伝子を導入して作るトランスジェニック動物のような遺伝子型モデルなどがある。
染色体16番の異常から発症する遺伝病に多発性嚢胞腎という病気がある。腎に3B以上になる袋(嚢胞)がたくさんでき、腎は40B以上にもなるため圧迫から腎不全を起こし、また高血圧、腎結石が多発するばかりでなく、肝臓や腸管などにも嚢胞ができる。600人から1,000人に一人がこの遺伝子を持つとされる。
マウスやラットにも嚢胞腎を多発する系統があって治療試験などに用いられているが、ペットとして飼われているペルシャ、ヒマラヤンなどのネコには腎だけでなく肝にも嚢胞が多発する個体がある。遺伝子解析を含め、藁にもすがりたい気持ちで治療法を待っている患者と家族のためにこのようなネコが求められている。(知恵蔵1999年版)
前臨床試験 preclinical test
ヒトに臨床応用する前の動物実験を言う。
動物実験 animal experimentation
医学研究の進歩がますます求められ、そのために動物実験は不可欠である。しかしこのことは無節操に動物を実験研究のために殺していいことを意味しない。最近は医学・生物学系研究者が欧米諸国の学術雑誌に論文を投稿しても実験時の動物の苦痛の軽減法や実験後の安楽死の方法に問題がある、実験そのものが本当に必要だったかどうか疑問である、など動物実験の内容が非倫理的として受理されなかったり、実験内容を厳しく問い合わされるケースが増加している。欧米諸国の医学・生物学界は動物に無用の苦痛を与えない動物実験が主流となっており、その意味ではわが国はまだ先進国のレベルにほど遠い。
今後わが国の研究者が世界で評価されるためには、動物の生体を用いずにコンピュータシミュレーションや培養細胞などで代用できる場合は可能な限り生きた動物を用いない(代替)、動物を使わなければならない場合も可能な限り少ない数で精度の高い実験を志す(減数)、動物に可能な限り苦痛を与えないように努め、また最も適切な動物を選んで実験に使用する(洗練)など、動物福祉の基本を絶えず念頭に置かなければならない。(知恵蔵1995年版)
動物実験代替法 alternative of animal experimentation
日本は世界一の長寿国となったが、その陰で病因の解明、予防法や治療法の研究、新薬の有効性、安全性の確認、あるいは栄養の改善のために使われた貴重な実験動物の数は多い。
にもかかわらず、動物実験の現状は問題を多く抱え、動物実験反対運動などの意見に対して十分対応していない。より良い実験手技で、より少ない動物を用いた、より正しい動物実験が進められるための配慮が求められている。動物の生体を用いずにコンピュータシミュレーションや培養細胞などで代用できる場合は可能な限り生きた動物を用いない(代替)、動物を使わなければならない場合も科学的・統計的に可能な限り少ない数で精度の高い実験を志す(減数)、動物に可能な限り痛みと苦痛を与えないように努め、また最も適切な動物を選んで実験に使用する(洗練)ことを総称して動物実験代替法といい、その方法検討のための学会もある。
謙虚な気持ちで可能な限り動物を良い条件に置いて愛情を持って接し、実験技術を改良していくことが貴重な生命を提供してくれる動物に対する研究者のとるべき姿であり、そのために研究者の資格制度なども今後早急に検討されるべきである。(知恵蔵1999年版)
胚操作技術
受精卵への遺伝子挿入、受精卵の凍結保存・解凍操作等を言い、遺伝子改変動物を作出する際に必須の技術でもある。
また、受精卵の凍結保存・解凍技術を用いることにより遺伝子改変動物以外の動物においても時間と空間に制約されない効率的な使用が可能となる。
例えば、当分使用予定のない動物を受精卵として凍結保存し、必要に応じて解凍し個体として発生させることができる。このことにより飼育スペースの縮小と飼育期間の短縮が図られ、経済的な実験が可能となる。
微生物学的モニタリング microbiological monitoring
動物実験では実験に無関係な病気にならないように、病原体に関してきちんと調べられている動物(SPF動物)が多く使われる。
施設で飼育中の動物がヒトや他の動物等を介して病原体に汚染されることがあるため、病原体に汚染されていないことを定期的に確認する必要がある。そのための微生物学的検査を言う。
PCR法(ポリメラーゼ連鎖反応) polymerase chain reaction
血清中の抗体を検出するELISA法では、病原体が感染してから抗体を生じるまでに3〜4週間を要する。そのため、より迅速な診断を行うために考案された病原体の検出方法である。
この方法では試験管内で病原体の遺伝子DNAを増殖させることにより微量な病原体の検出も可能となった。