アメリカの動物保護と動物実験

 

 米国における動物実験は農務省(USDA)が監督する動物福祉法(AWA)により規制されており、さらに国立衛生研究所(NIH)から資金援助を受けている研究機関ではNIHが監督する健康拡大法(HREA)によって規制されている.これら2つの法律はともに動物実験を行うすべての研究機関に対して動物実験委員会の設置を要求している.
 「実験動物を倫理的に取り扱うことは優れた研究を行う上での基本であり、すべての実験は倫理的な配慮のもとに行われなければならない」というのが両法律の一致した基本概念である。そして、倫理的な配慮への最終責任は個々の実験者にあるが、実験動物が倫理的な取り扱いを受け、動物実験がAWAのもとに作られた「動物福祉規則」ならびにHREAのもとに作られた「実験動物の管理と使用に関する指針」に準拠して行われていることをUSDAならびにNIHに保証する責任は動物実験委員会にある。
 研究機関のメンバーが規則や指針を遵守していない場合には、研究機関内で行われる動物実験に関連する全ての研究に対し連邦の資金援助が危険に曝され、最終的には研究機関の他の機能に対する連邦の資金援助もさしとめられることとなる。そのような事態を防ぐために動物実験委員会は動物実験計画書の審査と承認、飼育施設や動物の管理の検討、動物の管理と使用に関する施設全体の計画、研究者や職員への教育訓練等を通して柔軟に対応している.

 以下に米国で動物実験を行う際に、研究機関が従わなければならない法律、規則、指針をあげる。

  1. USDA(United State Department of Agriculture) の役割
    1966年の動物福祉法成立以来、動物の福祉問題をUSDAが管轄している。USDAの活動には以下のものがある。
    1. 研究機関から提出された保証書の確認
      研究機関はUSDAに登録し、必要事項を記載した保証書を毎年USDAに提出しなければならない。
      記載項目としては
      • 購入、繁殖あるいは他の方法で生産した種属毎の動物数。
      • 痛みのカテゴリー毎に分類した使用動物数。
      • 研究機関内で行われた全ての 動物実験が法律、指針を遵守し、動物の苦痛を緩和する適切な配慮が取られたことを保証する研究機関責任担当者の署名。

      USDAはこれらのこれらの書類を報告書にまとめて上院議会に提出しなければならない。

    2. 査察活動
      動物福祉法の監督と実施はUSDA内にあるthe Veterinary Services Division of the Animal and Plant Health Inspection Service(APHIS)の責任である。査察計画はワシントンにいるanimal care stuffにより企画され、全国各地にいるVeterinary Servicesの職員によって実施される。法律を遵守していることを確認する査察は事前通告なしに、大抵3か月に一回の割合で行われる。

      USDAは査察の結果をまとめ、上院議会に報告するannual reportとしてファイルする。法律に違反している場合には告訴するためにUSDAのOffice of General Counselに報告書が転送される。

  2. NIH(National Institution of Health)の役割
    NIHのthe division of the Public Health Service, Department of Health and Human Serviceは医学生物学研究への資金援助を行っている。動物実験を含む研究計画において資金援助(grant)を求める場合には、動物の取扱に関しNIHの方針に準拠することが求められる。

    NIHの動物取扱の基準はthe Guide for the Care and Use of Laboratory Animals(Guide)に要約されている。この冊子はthe National Research Councilのthe Institution of Laboratory Animal Resources(ILAR)によって書かれ、改訂されている。

    Guideに含まれる項目には以下のものがある.
    NIHは通告なしであるいは通告して直接施設を査察することもあるが、IACUCによる内部査察と毎年提出される研究機関の保証書を通して研究機関の自主的な規制を信頼している。

    1. 内部査察の要求
      NIHの規則はIACUCが動物施設の内部査察をすることを要求しているため、IACUCは動物が飼育されまた実験に使用される全ての場所を査察しなければならない。そして全ての管理運営、獣医学的処置および取扱がGuideに準拠していることを確認しなければならない。IACUCはsemi-annual reportsを通して動物の取扱の状態を大 学の担当責任者(officials)に通知することが要求されている。また、規則に準拠していない区域があった場合にはIACUCは個々に説得し、規則に準拠するよう修正のための猶予期間も含め助言しなければならない。IACUCの指導にもかかわらず規則を守られない状態が継続している場合にはIACUCは直接NIHに報告しなければならない。もしNIHがその違反を重大であると見做した場合には研究機関全体の研究活動が危険に曝される可能性を含んでいる。即ち、連邦からの全ての資金援助(当該研究だけでなく、研究機関全体に対する資金援助)が停止される。

    2. 保証書の申告
      NIHのgrantを受けるためには研究機関はすべての基準がGuideに準拠していることを証明しなければならない。IACUCからの毎年の報告書に基づき、研究機関の担当責任者はNIHのGuideに準拠していることを証明する保証書に署名し、それをNIHのOffice for the Protection of Research Risks(OPRR)に提出する(研究機関自体でも保管しておかなければならない)。この保証書の一部として、研究機関はIACUCによって行われた内部調査/査察のコピーを提出することが要求される。IACUCのメンバーの名前と信任状がその内部調査書に添付されなければならない。

  3. AAALAC(American Association for the Accreditation of Laboratory Animal Care) の役割
    AAALACは動物の取扱全般に関し洗練された管理を促進するために貢献しているボランティアの認定組織であり、25以上の主要な科学研究機関(the American Medical Association, American Dental Association, American Hospital Associationを含む)を代表している。AAALACは実験動物施設を評価するための基本的な基準としてGuideを使用している。AAALACによる認定は Guideに記載されている原則に準拠していることを証明するものとしてNIHから高く評価されている。しかし、USDAは動物福祉法に準拠している保証としてAAALACの認定を受け入れていない。それはAAALACとUSDAのプログラムがやや異なる目的をもっているためである。

  4. GLPs (Good Laboratory Practices)
    USDAの動物福祉法は動物を使用する全ての研究、教育に適用され、またNIHは研究機関全体の資金援助に関与する。しかし、GLPsは新製品の許可を得る場合にのみ従わなければならない規則であり、Food and Drug Administration(FDA)が主管している。したがってGLPsはFDAと契約した研究者をもつ施設だけが対象となる。もし研究者がこのような契約の基に研究をしているならば、動物実験施設長はこれらの規則に適応するように特別な配慮ししなければならない。

  5. 絶滅の恐れのある動物種の保護 (Conservation of Dangered Species )
    研究機関は絶滅の恐れのあるを動物種を保存し絶滅を防ぐ全ての連邦の法律に従うことを要求される。この法律(Public Law 93-205)を主管している法的機関はSecretary of the Department of the Interior(内務省秘書室)であり、Fish and Wild life Serviceによって施行されている。この法律は絶滅に瀕している種を保存するために作られたものであり、世界中の野生植物群、動物群を保存するために必要な処置がとられている。霊長類や絶滅の恐れのある他の野生の動物を輸入し、飼育するに当たっては動物実験施設が全ての適切な許可を取得しなければならない。

  6. 州および地方の法律
    研究機関は動物の管理および統御に関する州および地方の法律に従わなければならない。これらの法律は動物管理センター(public pound)からの動物の譲渡をコントロールしており、動物虐待を意味するものでないことの法的定義を与えている。