貴方は理性的に物事を判断できる人と思いますので返信します。

<問い>はじめまして、東北に住む医学生でもない、一般人です。それでも、返事をいただけ >たらと思っております。私は、日本から、世界から動物実験がなくなるといいと思っ >ている者です。

<答え>私は獣医師ですが、貴方と同じように動物実験が無くなることを望んでいます。
また、この地球上から病気が無くなることも望んでいます。
そのためには生体機能及び病気の本体が解明され、すべての病気の治療法が開発されなければなりません。
しかし、それがすぐに実現するとは思えませんし、またそれを実現させるためには動物実験が必要であると考えています。
私も病気を持っており、私の身の回りにも病気で苦しんでいる人が大勢います。
そのような病気を治すためには人間のエゴですが、動物実験は必要です。動物には申し訳ないが動物実験は必要悪であると考えています。
この点についてはアランジョンソンの「医の倫理」を参照して下さい。

<問い>動物実験をやめるにはどうしたらいいと思いますか?反対論を完全に翻る事はできないのですよね?

<答え>世の中には貴方と同じように動物実験が不必要と考えている人もいるでしょう。
ところで、動物実験に関心をお持ちの方なら、わが国の動物実験を規制している大本の法律である「動物の保護及び管理に関する法律」が一昨年に改正されたことはご存じのことと思います(ただし、動物実験については、「現行の基準に基づく自主管理を基本とすべき」として、今回の改正から除外されました)。
このことについて総理府が平成12年6月におこなった世論調査の結果が総理府のHPに掲載されています。
それによると20〜70代の男女2190人のうち87%の人が「動管法が改正されたことを知らない」あるいは「動管法という法律があることすら知らない」ということです。
世の中の80%以上の人が動物実験を不必要と考えた場合には、民主主義の原則から動物実験は当然廃止されるでしょう。

<問い>動物と人間の間には違いがたくさんあること、動物実験から出た薬害 などがあること、それだけで、実験をやめる理由にはならないのでしょうか。どうせ いいところ悪いところ五分五分なら、命を尊重し、動物実験を廃止したらいいのでは ないかと思います。

<答え>人間には3大本能があります。
一つは食欲、もう一つは性欲、そして残りの一つは知識欲だそうです。
人間は、この知識欲により人間たらしめてきました。
人間の持つ知識欲により多くの病気が解明され、その治療法がみつかりました。
それを示す例としてAmericans for Medical Progress (AMP)の日本語サイトが参考になるでしょう。
しかし、この知識欲が過剰になりすぎて環境破壊など人類が破滅へと向かっていることも確かです。また、人間が火を使うことを覚えたときに二酸化炭素やダイオキシンによる地球の汚染が始まったとも言えます。それなら人間は火を使うべきではない、地球上で動物と共存して原始人のように寒さに震えながら生きていくという道を選ぶべきでしょうか?。
私はそうは思いません。
前述のAMPというところで以下のようなIDカードを作ったそうです。
「署名○○○○:私はアニマル・ライツの支持者です。私が事故にあったり病気になったときには、動物を用いて開発された医療を施さないでください」。これは米国人が得意とするブラックジョークでしょうが、動物実験が廃止された場合には、万人が有無を言わさずこのような状態におかれることになるでしょう。

<問い>代替法が存分に研究できる国からの助成があればやめることができますか?どんなに 奇跡的な治療薬が発見できても、その後にどんなおそろしい薬害が見つかるかわから ないのではないのですか?

<答え>WHOの提唱によりなされたヘルシンキ宣言の第11条に「ヒトを対象とする医学研究は、一般的に受け入れられた科学的原則に従い、科学的文献の十分な知識、他の関連した情報源及び十分な実験並びに適切な場合には動物実験に基づかなければならない。」とあります。
このヘルシンキ宣言を受けて作られたCIOMSの「医学生物学領域の動物実験に関する国際原則」では、できれば動物を用いない代替法を考慮しなさいともあります。 しかし、現在の代替法は火の代わりに原子力を使うようなものと私は考えています。原子力発電に関しては現在でも反対している人が多いことはご存じの通りです。原子力発電自体がまだ十分なものではなく、これからその安全な運用が研究されなければならないものです。
代替法も同じで、現在すべての動物実験に取って代わることのできる代替法は存在しません。もし、動物実験を行わずに、代替法だけで開発された治療法を人間に応用しようとした場合に、反対する人もでてくるでしょう。
これから永年月をかけて動物実験に代わる代替法を開発していく必要があります。その開発に当たってはデータベースを確立するために多くの動物の犠牲を必要とします。

<問い>一般人は医学をほとんど知りません。ただ、命は大切な物それだけを知っておりま す。それは、人間であっても、動物であっても同じです。医学者でも、非人道的、残 酷、野蛮、不道徳、間違った方向に医学を導く、無益とおっしゃる方がいるようで す。
是非考えを知りたく存じます。

<答え>レイチェル・カーソンが「沈黙の春」の中で人間と昆虫との関係において化学薬品を使わない別の道を述べています。病気治療の開発と動物実験の関係での別の道は即ち代替法でしょう。しかし、代替法の現状は前述したようにまだ不十分なものです。十分な代替法が開発されるまでは、動物実験に頼らざるを得ません。 ヘルシンキ宣言の第12条では「環境に影響を及ぼすおそれのある研究を実施する際の取扱いには十分な配慮が必要であり、また研究に使用される動物の生活環境も配慮されなければならない」とあります。 動物実験に使われる動物に対して、福祉に配慮した環境を提供することも動物実験に関わる獣医師としての私の役割と信じております。

最後にレイチェル・カーソンの「沈黙の春」からの引用です。
「私たちの住んでいる地球は自分たちのものだけではないーこの考えから出発する夢豊かな、創造的な努力には、<自分たちの扱っている相手は、生命あるものなのだ>という認識が終始輝いている。生きている集団、押したり押しもどされたりする力関係、波のうねりのような高まりと引きーこのような世界を私たちは相手にしている。昆虫と私たち人間の世界が納得しあい和解するのを望むならば、さまざまな生命力を無視することなく、うまく導いて、私たち人間に逆らわないようにするほかない。」

返事