平成14年度実験動物慰霊式



 平成14年度秋田大学医学部実験動物慰霊式が9月26日(木)午後4時半から動物施設玄関脇にある実験動物慰霊碑前で行われた.飯島俊彦医学部長の挨拶に続いて利用者を代表して石田和人助手(寄生虫学講座)から慰霊のことばをいただいた。
また、慰霊式の後に森本 正敏先生(佐賀医科大学医学部附属動物実験施設)による「実験動物に対する苦痛・痛みの判断基準と動物愛護の精神に基づいた実験動物の安楽死法」と題する講演会が行われた。


学部長挨拶

 本日はお忙しい中、実験動物慰霊式にお集まりいただき、ありがとうございます。

 医学部の社会的な役割は、医学を教育し、研究し、そしてその成果を広く医学・医療に役立たせて行くことにあります。秋田大学医学部におきましても、絶えず多くの動物を用いた実験研究が行われており、過去の成果は生命の本質にかかわる基礎的な研究から、人の健康増進に欠くことのできない、臨床医学や社会医学の発展に大きな寄与をしてまいりました。そこで、秋田大学医学部において教育・研究に貢献していただいた実験動物の御霊にたいし、本日ここに皆様とともに謹んでご冥福をお祈りいたしたいと思います。

 さて、経済社会の発展とともに人間関係のみならず、地球上に存在する全ての生命における倫理が大きな関心事となりつつあります。大きくは環境保全にかかわる「地球にやさしい」心遣いであり、狭義には生命の尊厳の尊重であります。動物実験において倫理性が厳しく守られなくてはいけないことは自明の理であります。動物愛護に関心の強い方々の中には、大学を含めた研究環境でのイヌ、ネコ、サル等を用いた動物実験に対し、疑問と批判をされる方も居られます。批判があるからではなく、尊い生命を犠牲にすることを十分に理解し、よって社会への貢献を果たすことが我々の社会的責務であるとの自覚に立つことが基本であります。

 従来より、我々は動物実験委員会において、その必要性、妥当性、倫理性を充分に審査し、動物実験が適正に行われるよう努めてまいりました。動物実験における福祉の推進は、他動的に規制されるものではなく、実験研究者各自が生命の尊厳を常に意識し、適正な動物実験を行うよう努力することです。「学術の動向」という日本学術会議から出版されている小冊子の本年の9月号に動物実験の特集が組まれております。その中で動物実験を行う実験研究者の倫理原則として、1) Reduction 動物実験数や動物使用数の削減、 2) Replacement 動物を用いることなく、試験管内などの実験で置き換える、3) Refinement 洗練された実験手法による実験動物の苦痛の軽減、 Reduction, Replacement, Refinement 以上の3つのRが挙げられております。動物実験を行う全ての研究者にとって肝に命ずべき規範であると考えます。皆様には常にこの3つのRを意識し実行していただきますようお願いいたします。

 実験動物慰霊式にあたり、倫理への意識をますます向上させることを皆様とともに誓い、挨拶とさせていただきます。


平成14年9月26日    
秋田大学医学部長    
飯島 俊彦      

慰霊のことば

 平成14年度秋田大学医学部実験動物慰霊式に当たり、利用者を代表し、犠牲となられた多くの実験動物の霊に対し、謹んで慰霊の言葉を述べさせて頂きます。

 平成13年度における本学医学部付属動物実験施設の延べ利用者数は、教官、職員、学生を合わせ13,149名に達しました。またこの間、実験に供された動物は、マウス5,700匹、ラット4,945匹、ハムスター22匹、モルモット259匹、スナネズミ90匹、ウサギ303羽、ネコ3匹、イヌ10頭、ニワトリ3羽、ブタ3頭、ヒツジ4頭の計11,342匹を数えました。これら多数の実験動物の犠牲によって貴重な研究成果が得られ、100編の論文発表と125題の学会発表が行われ、さらに、13名の方が学位を取得されました。本学における医学研究発展のために犠牲となられた諸霊に対し、ここに謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

 現在、自然科学分野、特に医学分野においては、さまざまな基礎的研究、難治疾患の原因解明、新しい治療法の開発などを遂行するために、一定限度の動物実験は必要不可欠であり、これらの実験からは数学的モデル、コンピュータシュミレーション、試験管内での生物学的試験などによる代替え実験からは決して得られない多くの重要な知見が与えられます。これら貴重は実験成果の蓄積が将来の科学技術発展に大きく寄与することは間違いありません。しかしながら一方で、自然環境や生物の生命を容易に左右しうる力を持つに至った私たちには、これら自然環境を保全し、生物の保護と福祉を考えると共に、地球上に存在する多くの生命に対する尊厳を認識しなければなりません。特に私たち動物実験に携わる者には、動物の尊い生命を犠牲にして得られる貴重な情報を無駄にしないよう、信頼性の高い実験を実施する責務があります。そのためには、実験者自らが高い倫理観を持ち、さらには研究者のプライオリティーを守りながら、一般社会の理解を得られる実験計画を立案し、社会からの情報公開開示の要望にこたえ、共感を頂けるよう、私たち一人一人が努力しなければなりません。私たちは、今後も継続される動物実験が結果として動物の尊い生命を犠牲にしている事実を真摯に受け止め、動物の生命と尊厳と福祉について真剣に考えなければなりません。厳密な実験計画よって使用する動物数を必要最小限にし、可能な限り代替え方法を利用し、出来うる限り動物のストレスや苦痛を取り除くよう、研究者が自らの実験において真剣に検討しなければなりません。

 最後に、人類の医療・学術研究のために尊い犠牲となられた実験動物の霊に対して、心から感謝と追悼の念を表し、そのご冥福をお祈りすると共に、今後一層動物の福祉に則り、研究者自らの良心に基づいて、必要最小限かつ最大限の効果を果たす動物実験を行うことを誓い、慰霊の言葉といたします。

平成14年9月26日
秋田大学医学部寄生虫学講座
石田和人

秋田大学医学部実験動物慰霊式