実験動物に対する苦痛・痛みの判断基準と
動物愛護の精神に基づいた実験動物の安楽死法


佐賀医科大学医学部附属動物実験施設
森本 正敏       

 NATIONAL RESEARCH COUNCIL : USA のGuide for the Care and Use of Laboratory Animalsにおいて、「試験・研究・教育における脊椎動物の利用と管理に関する米国政府の原則」の項目に「健全な科学と強調しながら動物の不安、苦しみ、痛みの排除、もしくは可能な限りの抑制」・「適切な鎮静、鎮痛、麻酔処置」・「実験打ち切りを定めるエンドポイントの設定」が記載されている。また「動物の管理と使用計画書」の項目に、「鎮静、鎮痛、麻酔処置が適正であるかどうか(痛みあるいは侵襲性の程度に視点を置いて、計画書の作成・吟味を行なうとよい)」・「大規模な外科的処置を複数箇所に加える場合の管理」・「激痛あるいは大きなストレスが予想される場合、実験の中断時期、動物の開放あるいは安楽処置に関する定義および手続きの取り方」・「術後管理」・「安楽死処置もしくは動物の処分方法」が記載されている。

 動物愛護の精神・動物実験の倫理に基づけば、動物実験を実施する実験者が、実験(処置)後の動物の状態について日常の観察をすることは、実験者の義務というべきものである。日常の観察により、被実験動物がどのような苦痛や痛みに晒されているかを確認し、その実験の継続あるいは中止を決定する必要がある。また、実験(処置)後の動物の状態を把握していなければ、実験計画書の正確な記載も困難な場合が生じる。動物は言葉を発することができないため、実験者自らの肉眼的観察から動物の状態を推測しなければならない。そのためには、実験動物の状態と苦痛・痛みの関連付けが必要である。

 動物が非常に耐えがたい苦痛や痛みに晒されていると判断したならば、速やかな安楽死を実行しなければならない。安楽死は、実験終了時にも必要な実験手段である。安楽死の方法を選択する際の原則を挙げておく。

  1. 痛みを与えてはいけない。
  2. 意識消失までの時間は短いほど良い。
  3. 死に至るまでの時間は短いほど良い。
  4. 安楽死処置方法は確実で、蘇生されるようなものではいけない。
  5. 動物に与える精神的苦痛は最小限に抑える。
  6. 実施者および見学者に与える精神的苦痛も最小限に抑える。
  7. 安楽死処置方法は実施者に対して安全なものでなければならない。
  8. 安楽死処置方法は研究の目的に矛盾する方法ではいけない。
  9. 安楽死処置に用いる薬品は簡単に入手でき、悪用される可能性の少ないものを選ぶ。
  10. 安楽死処置方法は経済的な方法が良い。
  11. 安楽死処置方法は簡単に実施でき、なおかつ失敗の少ない方法が良い。

 本講義では、各種実験動物が示す苦痛と痛みのサインおよび動物愛護の精神・動物実験の倫理に基づいた安楽死の方法について述べていく予定です。先生方の実験のお役に立つことができれば、幸甚です。