動物実験計画書の審査と情報公開(抄録)

松田幸久(秋田大医学部附属動物実験施設)
 ヘルシンキ宣言はヒトを対象とする医学研究の倫理原則を述べているが、その中の11、12項には動物福祉への配慮も明記されている。これに基づき国際医学団体協議会(CIOMS)は「動物実験についての国際原則」を1985年に発表した。この国際原則では次のことが強調されている。1)必要な生物学的試験の実施や医学生物学の進展を過度に妨げるような制限であってはならない。しかし、それと同時に、2)医学生物学者は、用いる動物に対して人道的な敬意を払うという道徳上の義務を見失ってはならない。3)動物に苦痛および不快を与えることをできる限り避け、また生きた動物を用いなくとも同じ結果を達成できる可能性に絶えず注意を払わなければならない。

 欧米では自国の法律、規則あるいは指針にこのCIOMSの原則を取り入れ適正な動物実験の実施に努めている。わが国では1973年に作られた「動物の保護及び管理に関する法律」が3年前に改正され「動物の愛護及び管理に関する法律」(動愛法)となったが、動物実験については1980年に作られた「実験動物の飼養及び保管等に関する基準」(基準)を遵守し、自主的管理を行うということで、改正から除外された。したがって動愛法および基準にCIOMSの原則は取り入れられていない。しかし1987年の「大学等における動物実験について(文部省学術国際局長通知)」によりCIOMSの原則に基づいた動物実験指針が、主として医学教育研究機関で自主的に作成され、動物実験委員会が設置されるようになった。現在ではすべての国立大学において動物実験委員会により動物実験計画書の審査がなされている。

 ところで、昨年からわが国では「行政機関の保有する情報の公開に関する法律(情報公開法)」が施行されており、幾つかの国立大学では、動物実験計画書を含む行政文書の開示請求が主に動物愛護団体に所属する一般市民からなされている。各国立大学では国立大学医学部長会議から出された見解(「開示に当たっては関係者のプライバシーと研究者のプライオリティーに配慮する」)に基づいて動物実験計画書の開示に努めている。しかし、すでに情報公開の制度が定着している欧米諸国を見ると、たとえ部分開示であったにせよ動物実験計画書そのものを開示している国はほとんどない。その理由として、欧米諸国にはCIOMSの原則を取り入れた法律あるいは基準が完備していること、また方式に違はあるが動物実験計画書の審査を含めて動物実験に関して行政機関が関与しているためと思われる。

 本シンポジウムでは情報公開と動物実験の関係について、とくに動物実験計画書の審査方法と開示方法のあり方について諸外国の例も交えながらお話ししたい。
* 動物実験と福祉