CCAC guidelines on: transgenic animals (1997)

CCAC の遺伝子組換え動物に関するガイドライン(1997)

 CCACには、研究、教育および試験に使用される動物に関して監督責任がある。そのため実験動物の管理および使用に関する一般原則を記したガイドライン1巻および 2巻を出したが、それに加えて、最近問題となっている事項に関してもガイドラインを発行している。その一つとして今回CCACの小委員会から遺伝子組換え動物に関するガイドラインを発行した。:遺伝子組換え動物の作成と使用は種々の研究分野において急速に広まっている。そのため、これらのガイドラインが実験計画書の審査に当たり役立つであろう。

 遺伝子組換え動物のためのガイドラインは次の目的で記された。遺伝子組換え動物の作成および管理と使用において倫理的、技術的観点から動物実験委員会および研究者を援助する。遺伝子組換え動物がCCACの倫理的動物実験にそって使用されるように務める。そしてカナダ人の安寧および環境を守るように務める。

 遺伝子組換え動物の定義は「自然発生の突然変異とは異なり遺伝子(遺伝形質を担う物質)の意図的な改変によって作られた動物」である (FELASA、1992年9月、改訂1995年2月)。1981年にJ.W.GordonとF.H.Ruddleがトランスジェニックという言葉を初めて用いたが、それ以来、遺伝子操作された動物は研究材料としてますます重要になっている。

 遺伝子組換え動物は次のような分野で使用されている。遺伝子の調節機構の研究に関する基礎生物学の分野。複雑な恒常性に関与する特定要因の機能を明らかにするために遺伝子が過剰または過少発現した動物をヒト疾患モデルとして使う医学の研究分野。反応性に富んだ実験動物としての毒性試験の分野。特定蛋白質を生産する動物としてバイオテクノロジーの分野。そして肉および他の畜産品の生産性を改善するために農水産業の分野で使用されている。ここに掲げた分野がすべてではなく、遺伝子組換え動物の使用は今後拡大すると思われる。

 遺伝子組換え動物を作成する方法は主に3つある。1つはDNAマイクロインジェクション、2つ目はレトロウイルスを介した遺伝子導入、そして3つ目はES細胞を介した遺伝子の導入である。DNAマイクロインジェクションが最初に行われ、他の2つの方法はDNAマイクロインジェクション法の概念をもとに開発された。

 導入されたDNAは、ある遺伝子の過剰あるいは過少発現、または新な遺伝子の発現に結びつくかもしれない。受精卵の前核にDNAマイクロインジェクション法により新たな遺伝子を導入するが、新たに導入された遺伝子はランダムに宿主のDNA内に取り込まれる。また、導入された遺伝子が、本来の発現部位に挿入されるとは限らない。したがって、目的とする部位に発現させる可能性を増加させるためにベクターを介する遺伝子導入法と相同組換え法を含む別の方法が考案された。一般にレトロウイルスが細胞内に遺伝子物質を導入するベクターとして使用される。

 第3の方法として、DNAの相同組換え法が使われるが、この方法はES細胞内にあるDNAの目的とする部位に正確に遺伝子を導入することを可能にする。もし、細胞内に導入される相同塩基配列が突然変異を起こしていたり別の種からの遺伝子であると、新たな塩基配列は特別に標的とされた遺伝子に置き換わることとなる。このやり方が遺伝子不活性化のための選択方法、いわゆるノックアウト法であり、発生過程の遺伝子制御に関する研究では特に重要である。

 遺伝子制御機構がより解明されることになるので、遺伝子組換え動物は疾病モデル開発のために研究者にとって極めて強力なツールとなる。さらに、遺伝子組換えマウスはより人間の疾病に近いことから、それらを使うことにより動物の使用数を減らすことができる。近い将来、よりヒトに近いモデルが開発されることにより、動物の使用数はさらに削減されるかもしれない。家畜の遺伝子を組換えることにより、薬として重要な蛋白質を経済的、効率的に生産することが可能となり、人間の健康にとっても利益になると思われる。

 遺伝子組み換え技術の開発と平行して、この技術の使用に関して倫理的問題が生じてきた。これらの関心は広範で、動物福祉、人間の健康および環境問題を包含している。それらには、挿入された遺伝子により腫瘍あるいは神経組織変成の疾病が引き起こさ、それにより動物が苦痛を被ることも考えられる。また、環境の中への遺伝子組換え動物の逃亡拡散も考えられ、さらにヒトゲノムを組換える可能性があることも言うまでもない。

 遺伝子組換え動物の作成および使用に関しては、CCACガイドラインに従い、すべての実験計画書が審査されなければならない。そして計画書は同じ方法によって審査されなければならない。しかしながら、遺伝子組換え動物に係わる処置全般を詳細に見なければならず、特に遺伝子組換え動物作成計画書により策出される子孫の福祉まで考慮しなければならない。これらの理由から、ガイドラインでは、実験計画書を補完するために付録に示したTransgenic Information Sheetの提出も要求している。

 これらのCCACガイドラインを実施するに当たり、動物実験委員会および研究者は、提案された研究に用いる動物の福祉を考慮し、遺伝子組換え動物個々の特徴を説明しなければならない。さらに、動物実験委員会および研究者は、急速に進展しているこの分野の倫理的問題と技術的進歩に対して常に注意を払う必要がある。CCACは、この急速な進展に応じてガイドラインを修正する必要性を感じている。
  1. 研究者と動物実験委員会の責任

    1. 教育

       動物実験委員のすべてが遺伝子組換え動物の使用における倫理的、技術的問題関して知識を有するように務めることが動物実験委員会の責任である。その目的で関係する図書目録を添付している。遺伝子組換え動物を作成あるいは使用するために動物実験委員会の承認を求める研究者は、これらの動物の使用に関係する倫理的問題に精通していて、その研究が一般の人達の利益につながるということを正当に主張できるようにしておくことが望ましい。

    2. 新しい遺伝子組換え動物を作成するための計画

      1. 遺伝子組換え動物を作成するための処置を動物実験委員会で審査する際には、通常の外科的処置と同様に扱うことができる。

      2. 新しい遺伝子組換え動物作成のための計画書を審査する際に、動物実験委員会は次のことを確認しなければならない。

        • 研究者は、コロニーを維持するために必要な技術と経験(記録の維持も含む)をもっている者を確保できること。
        • 外科的処置やコロニー維持のための準備を動物実験施設と話し合い了承が得られていること。
        • 毎日コロニーの観察を行っている技術者と研究者が研究中の遺伝子組換え動物が示す苦痛のサインに精通していること。
        • 動物が苦痛のために示す行動異常、解剖学的異常および生理学的異常を検知するために、頻繁で十分に信頼できる書式化されたモニタリング・システムがきちんととられていること。
        • 生存実験の場合(動物が死ぬまで実験する場合)にはエンドポイントが明白に規定されていること。

        これらの問題に対処するために標準処理手順書(SOP)を作っておくとよい。

      3. 遺伝子組換え動物の作成、使用に関する計画には、遺伝子組換え動物が被ると予想される症状(付録の中で示されたような症状)に関する情報を含むべきであり、そのような苦痛を緩和するために取られる処置および要求されたモニタリング・システムに関する情報も含むべきである。

      4. 新しい遺伝子組換え動物を作成する計画は、CCACの動物実験における実験処置の分類「D」に最初に割り当てるべきである。承認した場合であっても、その期限は12か月とする。研究者には、動物が示す苦痛を示す徴候に特に注意し、動物が示す症状をできるだけ早く動物実験委員会に報告する義務が課せられる。

      5. 動物実験委員会は、研究者から報告を受けた後に、計画書を見直し、実験処置の分類を修正することもある。しかしながら、動物が予期しない苦痛を被っていることに気づいた場合には、動物実験委員会は動物が被る苦痛を最小限にするか緩和するように計画書の修正を研究者に要求し、あらためて提出された計画書について再審査するこにとなる。

    1. 既存の遺伝子組換えの動物を利用する計画書


      1. 遺伝子組換え動物に関する計画書は2部に分かれている。それは遺伝子組換え動物の作成とその後の動物の実験操作である。その後の操作が遺伝子組換え動物の観察および安楽死だけの場合を除いて、作成と使用の計画書は別々のものとして見なされる。

      2. 使用計画書を審査するに当たって、動物実験委員会は遺伝子を組換えていない動物で認められる処置が、遺伝子組換え動物においても認められるかを考慮すべきである。その理由は遺伝子を組換えることにより表現型が変わり、それによりストレスが生じるかもしれないためである。

      3. 既存の遺伝子組換え動物を使用する計画は、付録の中で要求された情報をも含むべきである。

    2. 使用数

      1. 研究に使用するかあるいは作成するすべての遺伝子組換え動物の数を使用カテゴリー毎に分類し、動物実験委員会に提出する計画書に記述すべきである(例えば卵のドナー、偽妊娠用の雌、種雄、作成に成功した遺伝子組換え動物など)。

      2. CCACへの毎年の動物使用数を報告するに際して、研究者は、「種」を記載する欄に遺伝子組換え動物とそれ以外の動物を区別する。

      3. 全体の動物使用数を削減するために、適切な場合には、CCACは、他の動物実験委員会の承認を得て作成された遺伝子組換え動物を利用することや、遺伝子組換え動物以外の動物を使うことを奨励すべきである。症候を示さないヘテロの動物を明白に区別し、研究者がその動物がヘテロであると気づいている場合には、繁殖目的のためにだけ使用されるべきである。動物施設内で使用数を調べる際には、毎年の使用統計のそのような他の施設から搬入された動物を二重に計算しないようにすべきである。

    1. 封じ込め

      1. 遺伝子組み換え動物の作成あるいは使用のための計画書を作成するに当たって、「人間の健康および環境への危険が最小限であること」をACCに保証しなければならない。マイクロインジェクション法あるいは増殖能力のないウィルスを用いて作成された遺伝子組み換え動物については、封じ込めレベルは、動物の逃亡拡散と野生種との交配に注意するだけでよい。、計画書には、次に示す情報が含んまれるべきである。

        • 動物施設の封じ込めレベルと拡散防止措置、そして可能な場合には、動物を輸入する際の輸送の間の拡散防止措置

        • 封じ込めに失敗したときの捕獲計画

        • 万一封じ込めに失敗したときの人間の健康あるいは野生動物への影響。

      2. 一般に使用される遺伝子組換えの種については、各動物施設が、計画書の記載事項に基づき封じ込めのためのSOPを持つべきである。

      3. 動物実験委員会は、バイオハザードを引き起こす可能性のある計画については機関内のバイオハザード委員会と封じ込め方法について話し合うべきである。

    1. 他の規則

      1. 動物実験委員会が計画書を承認したからといって、研究者は他の政府の機関の規則から免れているわけではない。例えば、ある種の遺伝子を組換えた魚を作成するに当たっては、Department of FisheriesととDepartment of Oceansの承認を必要とする。ある種の計画についてはバイオハザード委員会の承認も必要になるかもしれない。

  2. CCACの責任

    1. 教育

      動物実験委員会のメンバーに配布している遺伝子組換え動物の使用に関する倫理的、技術的な事項を記したリストについては少なくとも2年ごとに更新し、そのリストにはすべてのメンバーにとって適切な記事を含めるべきである。

    2. 使用数および報告

      毎年の動物使用数統計には、実験に使用された遺伝子組換え動物の動物種とともに個々の系統も記述すべきである。
訳 松田幸久

倫理的動物実験