English version(CCAC, Guide Vol. 1 (2nd Ed.) 1993)
倫理的な動物実験
研究・教育・試験における動物の使用は、生物学的な基本原理の解明、あるいは動物やヒトの利益につながる知識の進展に寄与することが期待されるものに限り認められる.
研究者は動物を使う以外に他の方法がないことを確認してから動物を使用すべきである.
動物の使用にあたっては知識の共有に努め、文献をよく検索し、RussellとBurchの3Rの原則(代替、減少、洗練)を遵守することも要求される.優れた実験結果を得るために適切な動物種を選択し、必要最小限の数の動物に対して人道的な方法を採用しなければならない.
以下の原則はCCAC、学会、動物福祉団体の3者の委員の意見を取り入れて作られたものである.この原則はCCACのGuide to the Care and Use of Experimental Animalsとともに適用されるべきである.
- 動物を使用するに当たっては、CCACのPolicy Statement on Social and Behavioural Requirements of Experimental Animalsに示されているように、動物の身体的、精神的安寧が得られるように努めるべきである.
- 動物に不必要な疼痛や苦痛を与えるべきではない.研究・教育・試験のために行なわれる実験ではできるだけ動物に苦しみを与えないように配慮しなければならない;経済的理由や安直な方法であるという理由によって動物の身体的精神的安寧を損なうような処置を行ってはならない.
- 次のような処置を行うに当たっては、その研究の必要性について専門的に証明されなければならない.また、その研究の正当性を裏付けるために関係者に影響されない部外者の意見が求められる.
- 麻酔をされた動物を用いての火傷、凍傷、骨折、その他の外傷の研究.回復後に適切な鎮痛剤を含む疼痛緩和のための獣医学的処置を必要とする研究;
- 捕食者と餌となる関係にある動物の遭遇、または同種動物であっても長期間にわたる闘争と怪我が予想されるような動物同士の遭遇
- 研究のために疼痛や苦痛が必要な場合には、その強さや期間を最小とするように努めなければならない.
特に、次のような処置については研究者、動物実験委員会、グラント審査委員会、および学術雑誌のレフェリーは審査するに当たって、特段の注意を必要とする.
- 術前、術後の疼痛の緩和処置を実施できない実験
- 疼痛の感覚を減ずることなく麻痺させたり不動化させる実験
- 不快感を増強させるような電気ショック
- 低温、高温、高湿度、異常な気圧など、または突然の極端な環境の変化
- ストレスや疼痛を研究する実験
- 動物種に特異的な生理的要求の限度を越える期間での飼料や飲水の供給停止をともなう実験
- フロイントコンプリートアジュバントの注射.これはCCACのGuidelines on Acceptable Immunological Proceduresに準じて行なわれなければならない.
- 激しく、緩和することができない疼痛や不快感を動物が被っていると判断したならば、急速に意識を消失させる方法でそれらの動物を即座に人道的に処分すべきである.
- 麻酔された動物での非存命実験で、疼痛や苦痛のない実験は受け入れられるが、以下の実験処置は過度の疼痛を生じるために受け入れられない.
- 麻酔なしで筋弛緩剤または麻痺剤(クラーレやクラーレ様薬剤)のみを用いた手術
- 麻酔されていない動物を押しつぶしたり、焼いたり、たたいたりして外傷を負わせるような処置
- 毒性試験、生物学的試験、癌の研究、感染症の研究などは過去においては動物が死ぬまで実験を継続することが要求された.しかし、そのような処置により動物に対して避けられない疼痛や苦痛を生じ、それにより動物が苦悶の徴候を示すことが明かなことから、研究の要求と動物側の要求の両方を満たすような、死に代るエンドポイントを見つけだす努力をすべきである.
- 身体拘束を行う際には、代替手段を十分に検討し、それでも適切な方法が見つからなかった場合に行なわれるべきである.拘束された動物には、特別な管理と注意が求められ、Guideにおいて述べられている一般的な要求と種特異的な要求を遵守する.
- 教室において学生への授業として、あるいは科学的に確立された知識を証明するために行なわれる疼痛の実験や、一頭の動物に対して複数箇所の侵襲処置を加える実験は、正当であるとは見なせない.そのような情報を伝えるためには視聴覚教材や代替法がとられるべきである.
動物実験における実験処置の分類
実験室あるいは野外での研究・教育・試験に脊椎動物や無脊椎動物の使用が必要であると考える研究者、教師は人道的原則を遵守し、CCACの倫理的な動物実験および以下のカテゴリーに示すようなCCACの他の書類を十分に理解しなければならない.
研究や授業において脊椎動物あるいはある種の無脊椎動物を用いて、カテゴリーB〜Eに含まれる処置を行おうとする研究者や教師は、委員会が適切な審査をできるように計画書を提出しなければならない.頭足類その他の高等な無脊椎動物は脊椎動物と同様に発達した神経系を有していることから、それらの動物にカテゴリーB、C、D、Eに含まれる処置を行うときには脊椎動物の場合と同様の配慮を要する.
カテゴリーA:無脊椎動物を用いた実験あるいは生体から分離された組織を用いた実験
死後の剖検あるいはト場から得た組織や臓器の利用;卵、原生動物その他の単細胞生物の利用;脊椎動物以外の多細胞動物を閉じ込めたり、切断したりその他の侵襲的な処置を伴う実験
カテゴリーB:動物に対してほとんど不快感あるいはストレスを与えないと思われる実験
家禽あるいは家畜を生産目的で維持すること;観察あるいは身体検査を目的として動物を短時間保定すること;採血;あまり有害でない物質の静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内あるいは経口投与(ただし胸腔内、心臓内投与はカテゴリーCに分類される);深麻酔により意識を回復することがない動物を用いた急性の非存命実験;瞬時に意識を消失させるような適切な安楽死法(例えば大量の麻酔薬の投与や鎮静あるいは軽麻酔下での断首);自然状態で通常みられるような短期間の絶食、絶水
カテゴリーC:動物に対して軽微なストレスあるいは短時間の疼痛を生じる実験
麻酔下で血管や体腔へカニューレあるいはカテーテルを挿入すること;麻酔下での小規模な外科処置.例えばバイオプシーあるいは腹腔鏡による処置;短時間ではあるが、カテゴリーBの観察や検査時を上回る拘束;短期間ではあるが、自然状態では通常みられない過度の絶食、絶水;意識ある動物に短期間ではあるが強いストレスを生じる拘束を伴う行動学的実験;致死量以下の薬物や化学物質への暴露(例えば動物の様子、生理値(呼吸数、心拍数、排泄量等)、群れの中での行動に激しい変化をきたさない処置)
注)カテゴリーCの処置中あるいは処置後に,動物が自損行為や食欲不振、脱水症状、過剰運動を示してはならない.また、横になったり眠っている回数、鳴く回数、防御・攻撃行動、群れの中での孤立が増えるようなことがあってはならない.
カテゴリーD:中程度から重度の苦痛や不快感を生じる実験
全身麻酔下での大規模な手術で、術後も存命させる実験;長期間(数時間以上)にわたって動物の体を拘束すること;行動的なストレスを誘発する実験(例えば離乳前の幼獣を母獣から引き離すこと.攻撃行動を誘発すること.餌となる動物と捕食動物を同居させること);感覚器官の不可逆的破壊でその際に激しく持続する痛みを伴う処置;フロイントコンプリートアジュバントの使用(容認される免疫処置に関するCCACのガイドライン参照)
その他、疼痛や苦痛を伴う解剖学的あるいは生理学的異常を生じる処置も含まれる;逃れられない有害な刺激を動物に与えること;放射線急性障害を生じさせること;生理機能を損なう程に薬物や化学物質を与えること.
注)カテゴリーDの処置では長期間にわたり著しい苦痛の徴候を示してはならない(その徴候には行動パターンにおける著しい異常.群れの中での仲間同士の社会的行動の欠如.脱水症状.異常な泣き声.長期間にわたる食欲不振.循環性虚脱状態.極度の嗜眠や体を動かすことの拒絶.激しい進行性の局所性あるいは全身性の臨床症状を示す感染症などが含まれる)
カテゴリーE:麻酔していない意識ある動物に耐えることのできる最大に近い疼痛,あるいはそれ以上の疼痛を与えるような処置.
このカテゴリーの侵襲は必ずしも外科的処置に限定されるものではなく、有害な刺激や効果の不明な薬物への暴露も含まれる;生理機能を著しく損なうあるいは死や激しい疼痛、極度の苦痛を生じる恐れのある薬物や化学物質への暴露;重度の侵襲を伴う全く新しい医学生物学的実験;苦痛の程度が未知であるような行動学的実験;麻酔薬を併用しない筋弛緩薬あるいは麻痺性薬剤の使用;麻酔していない動物に重度の火傷や外傷をおわせること;CCACによって承認されていない安楽死法;動物が耐えることのできる最大の疼痛に近い疼痛を生じさせる処置(例えば有害物質の投与あるいは激しいストレスやショックを誘発する処置)で、その疼痛を鎮痛薬で緩和することができない処置(例えば毒性試験や感染実験において動物の死をエンドポイントとしている研究)
許容される免疫法
免疫を行うにあたって、アジュバントの選択は難しい。一般的に言われることは、フロイントのコンプリートアジュバン(FCA)は抗原が少量で可溶性の場合にのみ使われる。FCAを等量の抗原と混ぜ合わせて乳剤として使用する。大量の抗原あるいは免疫原性の高い抗原であるならば、他のアジュバントの使用を考慮すべきである。
免疫法において重要なことは、使用する動物種の取り扱いと実施する技術にたけており、資格と経験のある職員を用いることである。彼らは動物の苦痛に関する知識が豊富で、動物が苦痛を被っていることを察知し、必要な場合には適切な処置を講じることができる。
FCAはFCA以外のアジュバントでは免疫が難しい場合にのみ使用されるべきである。そしてFCAを用いる場合であっても、繰り返して投与したり静脈内に投与してはならない。FCAは馬に使用してはならない。
皮内投与
FCAを皮内投与すると投与部位に感染や潰瘍をおこしやすいため、それを行うにあたっては科学的な根拠と正当性を示さなければならない。皮内投与の正当性が認められるのは細胞性免疫反応を惹起する目的のときのみである。
ウサギでは1カ所に0.05ml(50μl)以上を投与してはならない。皮膚が損なわれないように投与部位を慎重に選ぶ必要がある。投与箇所をできるだけ少なくし、かつ投与部位間をできるだけ離すようにすべきである。
マウスに対する皮内投与は適切ではない。また他のげっ歯類に対しても勧められない。
皮下投与
モルモットでは頸の後ろの皮下に数カ所に分けて投与されるが、総量は0.4ml(400μl)までである。
ウサギでの投与部位は背中の肩胛骨の間で、1カ所に0.25ml(250μl)まで、多くても4カ所までで、投与部位の距離はできるだけ離す。
マウスでは頸の後ろの所に0.1ml(100μl)まで投与できる。
筋肉内投与
ウサギの筋肉内に投与する場合には、大腿部の1カ所に0.5mlまで投与するのが望ましい。ラット、マウス、ハムスター、スナネズミなどの小動物ではFCAの筋肉内投与は勧められない。ネコ、イヌ、家禽のような少し大きい動物では大腿部に1mlまで投与することができる。ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギなどの家畜に対してはFCAを筋肉内投与してもよい。
腹腔内投与
FCAの腹腔内投与は小動物にのみ許される。FCAは1回だけ投与でき、その量は0.1ml(100μl)までに制限される。
静脈内投与
FCAの静脈内投与は認められない。。
フッドパットへの投与
FCAをウサギの足の裏に投与してはならない。免疫産生のために科学的に正当な理由がない限り、FCAをげっ歯類のフッドパットに投与してはならない。ラット、マウスへの投与では一方のフッドパットのみ使用し、金網ケージではなく柔軟な床敷材を入れたケージで動物を飼育する。
動物における腹水産生
FCA以外の潤滑剤(サメの肝油から抽出したもの等)を用いてもよい。
動物が免疫の処置により苦痛、疼痛を示さず、健康状態がよく、衰弱、脱水その他の副作用を示さない限りは、腹水を動物から採取することができる。動物がそのような症状を示したときにはCCACにより承認されている方法で安楽死させなければならない。
投与部位の観察
研究者または実験補助者は投与後4週間の間、少なくとも週に3回は投与部位を観察しなけらばならない。
もし投与部位に病変が認められた場合には、決められた人物(例えば、動物施設の管理者や獣医師)に報告しなければならない。そして病変部に対して適切な獣医学的処置を講じなければならない。そのような病変が生じた場合にはそれが治るまでの間、研究者やその補助者は少なくとも週に3回はその病変を観察し、注意していなければならない。
訳 松田幸久