研究内容2

 

(1)マクロファージによる癌細胞分子情報の伝搬

これらの癌サポート的な間質成分は元々癌細胞が教育して作るものですが、癌細胞の指令はどのように遠隔の間質細胞に届くのでしょうか。対面授業で教育できる生徒の数には限界がありますが、リモートを加える事で倍増します。従来このリモート的側面は、癌細胞の分泌するサイトカインや細胞外小胞(蛋白質や核酸など多くの細胞情報を容れた小胞で、小型のエキソソームから様々なサイズが存在する)などで説明されていました。確かに血管などに入ればnm単位のエキソソームは血流に乗って遠隔臓器に運ばれます。一方、線維化の強い癌組織内ではその拡散距離は限定的な事が知られています。


私達は腫瘍内のマクロファージが癌細胞の分泌する細胞外小胞を取り込んで運搬し、その癌細胞由来の分子の一部を再び放出して他の間質細胞に与え、広範囲に癌細胞の情報を伝搬するポストマン的な役目を持つ一面を報告しました。この時、癌細胞由来の分子は、マクロファージが新たに産生するブレブ様小胞に多く含まれ、更に第三の間質細胞に取り込まれます。図2(Oncogene 38, 2162-2176, 2019)



例えばこの現象により、胃癌組織では癌細胞自身が胃壁を深く浸潤する以前でも、癌細胞のWnt3aなどの分子が胃外表を覆う中皮細胞などに伝達され、活性化した中皮細胞が癌細胞を誘引するニッチを創る事で、胃癌の深部浸潤が促進される例がある事が分かりました。これは中皮細胞の蛍光可視化マウスのLineage tracingの観察から見出されたものです。

この機構は、がんの進行を促進する事に繋がると考えられ、このような中皮細胞関与型のがんの進展パターンが示唆される症例は、胃癌で1割近くに見られます。図3(Cancer Research 77 (3), 684-695, 2017)



 

2. 遠隔間質ニッチの形成による癌の拡散メカニズム