●胚発生とがんの共通項を見つけて・試す

癌にとって重要な形質は、発生過程などでもオーバーラップして見られることがよくあり、上記の細胞集団移動はむしろ発生組織で解析が進んでいます。神経堤細胞(NCC)は“胚の探検者” と呼ばれるほど様々な場所に移動していく細胞ですが、はじめは神経板(脳や眼・脊髄をつくる)の両端に形成される外胚葉性の細胞集団です。その場所が神経管の外と中の境界つまり堤(つつみ)の部分にあたるので神経堤細胞と呼ばれています。これらの細胞は上皮間充織遷移(EMT)によって細胞・細胞間の接着の状態を変化させます。頭部は接着を保ったままフレキシブルな細胞シートとして集団移動し、頭部骨格などを形成します。体幹部の神経堤細胞は数個の細胞からなる小集団として移動し、必要なところまで移動して必要な細胞に分化します。色素細胞や神経細胞・副腎組織などにも貢献することが知られています。このため、元の神経堤細胞は「幹細胞」的な特徴を持つ細胞であると考えられています。つまり神経堤細胞とは未分化で、高い移動能や組織に浸潤する細胞なのです。この点が「悪性のがんを生み出すがん幹細胞」と似ていることから両者の共通性が注目されてきました。実際に発現している遺伝子のセットなども似通っていることから正常発生とがんの共通項を抽出し、試す材料として注目しています

モデル動物はアフリカツメガエル(なんでカエルなの?)

アフリカツメガエルはかつて実験動物として注目されていましたが、

ノックアウトマウスの開発により、やや下火になっていました。

しかしながら、

・胚が大きく、移植などの操作が容易

・単純塩緩衝溶液で飼育が可能

・同期させた発生を体外で追跡することができる。

・大量の胚を同時に試薬等で処理し、影響を統計的に調べる事ができる

といったメリットは未だ健在です。


さらに、

・モルフォリノオリゴの注入により簡便に遺伝子ノックダウンが可能

・トランスジェニック体が短期間で大量に作成可能

遺伝子改変技術の革新によりノックアウト動物が可能に

・全ゲノムも近日中に公開され、遺伝学も進む

・生体蛍光イメージングに活用可能

といった次世代の発生研究に必要な要素を全て満たしています。