会長挨拶

 現代医学において、病態・生理機能の解明及び治療法の開発にあたり、実験動物の応用は言うまでもなく不可欠なものです。動物使用の研究においては、ヒトの病態を忠実に再現できる適切な動物モデルの的確な選択が、研究レベルを向上させるだけではなく、得られた研究成果がいかに臨床の現場に貢献できるかにおいても重要な意味があります。生活習慣病の代表的疾患である動脈硬化や高脂血症などの研究においては、ウサギはマウスに比べ理想的なモデルであり、特にCETP遺伝子、LDL受容体機能、アポ蛋白B48含有リポ蛋白などの脂質代謝系の特徴がヒトに類似していることから、コレステロール食に敏感で、高脂血症になりやすく、動脈硬化の形成が容易なため、高脂血症の創薬研究におけるウサギの役割はマウスなどのげっ歯類では代替できないといえます。ポストゲノム時代を迎え、遺伝子の導入や欠損による様々な遺伝子改変ウサギモデルが相次ぎ登場し、それまで実現不可能だった医学研究に多大な貢献をしてきました。しかし、マウスの利用者と比べウサギの利用者数は少なく、むしろ年々減少傾向にあるといった背景の中で、ウサギモデルの応用を広く普及させるという目的で、2003年3月に当時佐賀医科大学(現佐賀大学医学部)の副学長であった渡辺照男先生の提案による第1回ウサギフォーラムの開催を皮切りにし、2年後の2005年に筑波大学で第1回国際トランスジェニックウサギ会議(2回目から国際ウサギバイオテクノロジー会議に改称)を開催する運びとなり、2012年にはウサギによる研究に特化した日本で初めてとなるウサギバイオサイエンス研究会を発足しました。 
 研究会の大きな目的は、日本(山梨大学、佐賀大学、神戸大学、秋田大学)を拠点とするウサギ研究の国際共同体を確立することです。そのために、各分野の国内研究者に限らず、アメリカやヨーロッパ、中国などの研究者と連携しつつウサギの研究に必要な遺伝子情報収集や遺伝子改変ウサギの作製·提供、精子保存などの基盤を構築することを行っています。これまでに、国内の学術会議だけにとどまらず、国際ウサギバイオサイエンスシンポジウムや日中合同ウサギモデル研究会を行い、2014年にEUウサギ研究会との共同会議の開催に至り、特に、ウサギの研究にとって大きな妨げとなっているウサギゲノム情報不足を解消するために、アメリカと中国の研究者との共同研究により、遂に2016年にJW、NZW、WHHL、3種類のウサギの全ゲノム解読を完成させました。今後はウサギモデルを利用した研究を一層発展させるために、多くの積極的参加を期待しています。今後とも皆様のご協力を賜りますよう、呉々も宜しくお願い申し上げます。

 

                日本ウサギバイオサイエンス研究会会長
山梨大学分子病理学講座教授

範 江林