シンポジウムS3[第262回実技協本部共催講演]
財団法人動物繁殖研究所における実験動物福祉の取り組み
佐々木敬幸(財団法人動物繁殖研究所)
改正動愛法が平成17年6月22日に公布され、翌平成18年6月1日に施行された。
これにより3Rは明文化され、法的に整備された。ただし、3Rについてどの様に対応するかは規制せず、機関ごとの
自主管理に委ねられた。また、そのよりどころとなる「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」が平成
18年4月28日に改訂告示され、さらに「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」が統一ガイドラインとして
日本学術会議から平成18年6月1日に示された。このように実験動物における福祉の基盤が整備されたことにより、
実験動物生産者ならびに動物実験実施者としての動物福祉に対する自己責任が益々問われる事となった。
動物繁殖研究所の主な業務内容は、実験動物の生産、受託飼育、外科的処置動物などの提供
および動物実験の受託研究であり、実験動物生産と動物実験の両方を行っている。そのようなこともあり、当研究所では
クライアントからの査察を多数受けてきた。印象として、国内の企業は記録類の調査に重きを置き、外資系企業ではより
動物福祉面を重視するように思われた。今後、国内においても動物福祉に対する意識は益々高まりを見せると思われること
から、第三者による客観的な評価が当研究所における実験動物福祉の体制作りの早期立ち上げに有益と考え、日本実験動物
協会(日動協)が行っている 「実験動物生産施設模擬調査 」(以下、模擬調査)を受けることとした。
日動協が行っているこの模擬調査は、実験動物業者を対象に、実験動物福祉が自主的管理の
もとに適切に実施されているかを調査・指導することを目的としており、第三者評価システム構築を目指し、動愛法改正に
合わせて平成16年度にスタートさせたものである。
本講演では、模擬調査の具体的な指摘事項等を示し、当研究所が行った動物実験福祉への対応
について紹介する。
当研究所ではGLP受託研究を行っていた経緯もあり、標準操作手順書(SOP)は整備されている
と思われたので、特段、動物福祉面からのSOPの見直しはしなかった。ところが、実際の調査では、質問に対して回答に苦慮
する場面も多々あった。調査委員からの適切な指導を受けたこの時から当研究所での実験動物福祉に対する真の取り組みが始
まったと言える。
この模擬調査では、実験動物福祉に対して以下の指摘があった。
責任ある組織体制がとられていないこと、
内部監査システムが十分ではないこと、
動物実験福祉に対する教育訓練が十分ではないこと、
安楽死に関する基準が明確ではない等であった。
これら指摘は今回策定された文部科学省、厚生労働省および農林水産省の「動物実験等の実施に
関する基本指針」あるいは「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」の根幹をなすもので、日動協が実施している
模擬調査が如何に実効性のあるものかが伺える。
指摘事項を基に当研究所では、実験動物生産ならびに動物実験が適正に実施されるよう機関内
規程を定めた。そして、実験動物福祉委員会を主体性のある組織に改め、内部監査も行って、実験動物福祉に関する自主的
管理体制の強化を進めている。今後、自主管理の客観性を担保するための第三者評価機関の設置が望まれているが、当研究所
では、現在行っている内部監査に加え、第三者評価機関の調査を真摯に受け入れ、より実行性のある、適正な実験動物生産
ならびに動物実験を行っていく考えである。