ヨーロッパにおける倫理的責任遂行のための法規制システムについて

Regulatory Systems for Discharging Ethical Responsibility in Europe
Cantal Autissier, Institut de Recherche Servier, Suresnes, France

 第36回カナダ実験動物学会の年次総会(1997年7月6〜9日、モントリオール、ケッベック州)においてDr Chantalがヨーロッパの動物実験に関する法規制を発表した.彼女は2つの基準を用いてそれらの法規制を比較した.1点は、それらの規制がライセンス制度を含む法律のもとになされている否か、2点目は研究機関内部あるいは外部の動物実験委員会を持っているか否かである.

 次の11カ国についてそのシステムが調べられた.
 1)スエーデン、2)ドイツ、3)オランダ、4)デンマーク、5)スイス、6)フランス、7)イギリス、8)ベルギー、9)イタリア、10)チェコ、11)スペイン.

 これらの国は全て Council of Europe(CoE:欧州審議会)加盟国である.欧州審議会とはEurope Union(EU:欧州連合)加盟国14カ国を含む34の国から構成されている.EUは以前は欧州経済共同体(EEC)として知られていたが、このEUは加盟国の法律に直接適用される法的拘束力を持った超国家的機関である.それに対して、CoEはEUのように経済統合を目指すことも,超国家的な組織作りを目指すこともなく,主に社会的分野(人権保障,保健,教育,環境など)および政治的分野(民主主義の推進など)で,共通に守るべき条約を外相会議を主体として作るという方法で加盟国関係の緊密化を進めてきた.CoEの条約が加盟国によって批准された場合に加盟国のみに適用される協定へと発展する.このような線に沿ってCoEは1986年3月18日にEuropean Convention on the Protection of Vertebrate Animals Used for Experimental and Other Scientifics Purposes(協定)を承認し、批准することを推奨した.

 EU加盟国は1986年11月24日に公布された実験目的および他の科学的目的に使用される動物の保護に関するCouncil Directive 86/609/EEC(指令)を受入、さらに具体的事項が記されている“動物の設備と管理のための指針”(指令の第5条)と題された指令の付則Annex IIを受け入れた.指令では加盟国間で実験動物に関する法律や規制・監督条項のハーモナイズに努めるように述べられている.システムをハーモナイズせよということは、各国でシステムが異なっていることを意味しており、各国の違いについてDr Auttissierがその違いについて以下に、具体的に述べている.

 1976年以来、スエーデンでは地方の動物実験倫理委員会を基本とした自主規制がとられていた.その委員会では実験計画書の審査がなされていた.1988年にAnimal Protection Actが施行されてからは、これらの委員会が法的に認められた.現在はこのような委員会が7つある.

 イギリスではAnimals (Scientific Procedures) Act 1986をもとにした中央集中化した法規制のシステムがある.この法律のもとに内務省は実験動物を使用している施設を査察し、研究施設に対するライセンス、個々の研究者に対するライセンス、そして具体的な研究計画に対するライセンスを発行している.

 ドイツではAnimal Welfare Act (第2改正、1986)が連邦の法規制システムの基本となっている.実験のために動物を使用している各施設はanimal welfare officerを任命しなければならない.animal welfare officerは州政府に実験計画書を転送するための責任を負う.州政府は倫理委員会によって実験計画書を審査させた後にそれらを承認する.ライセンスには研究機関に対するもの、個々の研究者に対するもの、そして各実験計画に対するものがある.

 オランダでは、EU指令をもとに作られたExperiments on Animals Act(1977)がある.それによると実験動物を用いるすべての研究機関は政府のライセンスを持たなければならない.政府はAnimal Expert Advisory Committeeを公式に認めており、Animal Expert Advisory Committeeは実験計画書の審査や動物使用者の資格の決定を地方委員会に委任している.研究機関内あるいは研究機関外の倫理委員会が実験計画を認めなかった場合には、National Advisory Councilに不服を申し立てることができる.もしこのcouncilが地方委員会の決定を賛成した場合には、実験を行うことはできない.

 デンマークの最近修正された国の法律はEU指令を遵守している.ライセンスが査察局とEthical Councilから発行される.このcouncilはhealth sciences, agriculture and veterinary services, 私企業、そして動物福祉団体から構成される.

 フランスは1988年に個々の実験者に対して直接の責任をとらせるために、動物の使用に関して個々の実験者に免許証を発行する道を選んだ.つまり、実験計画に対する規制はない.しかし、1990年以来、幾つかの私立研究所や公的研究機関においても多くの倫理委員会が自主的に作られている.

 スイスは1978年にスイス動物保護法が制定されて以来、実験動物の使用に関しては大変厳しい規制がなされている.さらに、Swiss Academy of Medical Sciencesとswiss Academy of Sciencesは動物を使用する人に対する行動規範を示している“動物を用いた科学的実験のための倫理原則と指針”を制定した.国、地方、そして研究機関の倫理委員会が動物実験を規制するための責任を負っている.

 ベルギーでは1991年に国の法律にCoE 協定を取り入れた.動物実験計画書は国の委員会によって審査されるととなるが、研究機関に設置された動物倫理委員会の設置も計画されている.

 イタリアでは倫理委員会の設置は法律で義務づけられてはいないが、イタリアの法律によって強く推奨されている.研究者に対して免許証は発行しないが、科学者は動物実験を行うためには適切な経験をもち訓練を受けていなければならない.イタリア方式の特徴的なところは研究機関が動物の使用に関して良心的な客観者(第三者)を受け入れなければならないところにある.

 チェコ共和国では、veterinary services departmentの査察官が動物の使用を監督している.1992年にチェコの動物保護法がCoE 協定に基づき制定された.中央委員会が動物福祉全体の責任を負っている.

 スペインでは法的要求事項が整備されていない.そのため11カ国のうちスペインだけが法規制のない国である.しかし、ある地域では倫理委員会が作られている.例えば、1995年Catalonia州では動物の使用を許可するための責任をもつ地方委員会を設立した.

 動物実験の規制方法に関しては各国において明らかに大きな違いがある.しかし、Dr Auttissierが発表の結論において強調したように、倫理委員会の呼称、構成、機能は各国それぞれで違うが、その目的とするところはは皆同じである.即ち、3Rの遂行にある.


欧州連合(EU)Europe Union
欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC),欧州経済共同体(EEC),欧州原子力共同体(EAEC)の三共同体を総称して欧州共同体(EC)と呼ばれてきた.1993年11月に発行したマーストリヒト条約により分野を拡大し,欧州連合(EU)という名称を用いるようになった.

欧州審議会(CoE)Council of Europe
EU(欧州連合)EC(欧州共同体)とは全く別の機構で,歴史はECよりも古く,第二次大戦の欧州統合機運の中で作られた最初の機構だったが,ECのように経済統合を目指すことも,超国家的な組織作りを目指すこともなく,主に社会的分野(人権保障,保健,教育,環境など)および政治的分野(民主主義の推進など)で,共通に守るべき条約を作るという方法で加盟国関係の緊密化を進めてきた.つくられた条約は140以上にのぼるが,そのうちのひとつ,欧州人権保護条約は,欧州人権委員会・欧州人権裁判所という専門の機関を設け,世界でも最も進んだ人権保障体制をつくっている.