腹腔鏡下前立腺全摘除術について
秋田大学医学部泌尿器科
前立腺癌に対する手術療法のなかでも 「腹腔鏡下前立腺全摘除術」は従来の手術より傷が小さく痛みが軽度で、手術後の回復が早い、手術中の出血量が少ないなどの利点があります。癌の治療実績は従来の手術と同等です。
尚、この手術は保険適応となりましたので、これまでのような患者様の自己負担はなくなりました。
前立腺癌の治療法について
病期により様々な治療法があります。癌が前立腺にとどまっていて治癒(根治)が期待される場合、前立腺全摘除術または放射線照射を行いますが、年齢や癌の広がり具合に応じ治療法が選択されます。
貴殿の前立腺癌は癌が前立腺にとどまっていて治癒(根治)が期待されるため、この度前立腺全摘除術が勧められます。
この前立腺全摘除術にもいくつかの方法(手術方法)がありますが大きく、従来の開放手術(15cmほどの切開をおく)と腹腔鏡下手術があります(図1)。
図1 開放手術(15cmほどの切開をおく)と腹腔鏡下手術
腹腔鏡下前立腺全摘除術について
当科では1997年より泌尿器科各種疾患に対して内視鏡(体腔鏡、腹腔鏡または後腹膜鏡などと呼ばれています)を用いた手術を積極的に導入し、良好な成績を得てきました。
2000年からは前立腺癌に対しても内視鏡を用いた手術「腹腔鏡下前立腺全摘除術」を開始しました。従来の前立腺癌に対する標準的な手術療法(=開放手術)はおへそ(臍)の下方を約15cmほど切開し、前立腺と精嚢と呼ばれる部分を摘出するものです(図2)。
図2 腹腔鏡下前立腺全摘除術
一方、「腹腔鏡下前立腺全摘除術」でも摘除する部分は同様ですが、下腹部に5ヶ所の穴(直径5?12mm)をあけ、細長い道具を用いて手術を行います(図1)。
この腹腔鏡下前立腺全摘除術には従来の開放手術に比べて、以下の様な利点があります。
- 術後の回復が早い:だいたいの人が手術翌日に自力で歩くことができます。また、手術翌日に食事や流動物をとることができます。
- 出血量が少ない:腹腔鏡手術により前立腺手術の難点である出血量について改善が得られることが知られています。この手術法では他人の血液を必要とする輸血の確率は5%未満とされています。
- カテーテルが早く抜ける:前立腺癌の手術後は約2週間ほどカテーテルという細い管を尿道においておく必要がありますが、「腹腔鏡下前立腺全摘除術」では術後6-7日目にはカテーテルを抜く予定としています。
ただし、「腹腔鏡下前立腺全摘除術」にも欠点があります。癒着がある症例や出血が多いと従来の開放手術の方が安全です。また前立腺癌の手術療法の欠点である「尿失禁」や「性機能の低下」がおこる割合も従来の手術と「腹腔鏡下前立腺全摘除術」では大差がないとされています。最も大切な前立腺癌のコントロール(治癒の成績)に関しては、長い期間の成績が出ていませんので、確定的ではありませんが、これも大差ないと考えられています。
腹腔鏡下前立腺全摘除術後に病室に帰ってきた時には
- 腕には点滴のチューブが1本
- 背中には痛み止めのチューブが1本
- 腹部には排液管(ドレーン)が1〜2本
- 尿道にカテーテルが入ります
これらは以下のようなスケジュールでひとつずつなくなっていきます。
- 2〜3日目頃:点滴、痛み止めのチューブ抜去
- 3〜5日目頃:排液管抜去(排液の量などにより長期間留置することもあります)
- 7日目頃:抜糸
- 7〜10日頃:尿道カテーテル抜去(場合により長期間留置することもあります)
合併症について
- 手術中・手術直後
- 出血:骨盤内は血流が豊富なため、800ml程度の出血が予想されます。多くの場合、あらかじめ貯めていただいた自己血(自分の血液)を使用します。予想以上の出血があった場合には、輸血が必要になることもあるかもしれません。
- 周囲臓器損傷:3〜4%程度の頻度で直腸、尿管を損傷することがあります。通常手術中に修復できますが、直腸の損傷ではごくまれに一時的な人工肛門が必要になることがあります。
- 感染症:通常手術後2〜3日は発熱します。発熱が持続する場合でも一般的には抗菌薬の投与で軽快します。また感染などにより傷が開くこともあります。10%程度の頻度で起こります。
- 静脈塞栓:手術中、血管内(特に足の血管)で血の固まり(血栓)ができ、それが肺へ飛んで肺の血管を詰まらせる病気です。万一静脈塞栓が疑われた場合、血栓を溶かす薬を投与します。発症するのはきわめて稀ですが程度によっては命に関わることもあります。
- 手術後
- 尿失禁:尿道カテーテル抜去直後には、ほとんどの方が尿もれ(尿失禁)を経験します。しかしおよそ9割の方は術後1?3ヶ月以内に改善し、ごく少量の尿失禁に対して尿パッドが必要な状態になります。日常生活に支障をきたすような尿失禁が継続する場合、コラーゲン注入などによる治療法もあります。
- 性機能障害:原則として両側の勃起神経は前立腺といっしょに切除しますが、癌の浸潤が限られ患者さんの希望がある場合、勃起神経の温存を目指すことも可能です。
- 尿道狭窄:膀胱と尿道の吻合部が狭くなり排尿困難感が強くなることがあります。排尿困難が高度な場合には内視鏡的に拡げることもあります。
- その他:この他にも手術に際しあなたの場合には下記のような併存疾患があるためいくらかの危険性を伴います。
万全の注意を払って手術を行いますが、実際の手術では上記以外にも予想し得ない合併症が起こることがあります。万一そうした合併症が起こった場合でも速やかに適切な対応をとらせていただきます。
手術後の予定
摘出した標本を病理検査に提出します。病理結果が出るのは10〜14日頃です。退院後は2?3ヶ月毎にPSA(ピーエスエー)を測定して再発の有無を観察していきます。