[特別講演 3]

インスリン依存型糖尿病モデルラットにおける
原因遺伝子解析の現状と未来
米田 嘉重郎 先生
   (東京医科大学動物実験センター)

     ヒトのインスリン依存型糖尿病(IDDM)は、その発症と進展に複数の原因遺伝子と環境要因が関与する多因子遺伝疾患と考えられている。
 現在、ヒトIDDMにおける原因遺伝子の遺伝学的解析が、連鎖解析や患者集団を用いて行われている。しかし、任意の組み合わせによる研究材料を得ることができないという本質的な問題点がある。この点の解決策として重要視されているのが、ヒトIDDMのモデル動物から得られる遺伝情報の集積である。
 これまでに、ヒトIDDMの病態と部分的類似が認められ、かつ多因子遺伝と考えられているモデル動物として、NODマウス、BBおよびLETLラットが知られている。
 ここでは、IDDMモデルラットにおける原因遺伝子の遺伝学的解析の現状を紹介しつつ、近未来のモデルとしての意義を考えてみたい。

1.BBラット
 ヒトIDDMの発症に、MHC(主要組織適合遺伝子複合体)が強く関与し、その作用は一次的と考えられている。BBラットにおいても同様に、MHC(ラットではRT1)が強く関与している。最近では、MHCコンジェニック系統を巧みに利用した交配実験から、クラス()抗原を支配するRT1.BとRT1.D遺伝子座uハプロタイプ遺伝子の双方かあるいはいずれかが、IDDMの発症を制御していると考えられている。さらに、BBラットの特異的形質であるリンパ球減少症という免疫異常は、第4番染色体上のNpy遺伝子座近傍にマップされているリンパ球減少症遺伝子(Lyp)によって支配されている。興味あることにLyp遺伝子は、IDDMの発症に必須である。したがって、BBラットにおいてはMHC遺伝子とLyp遺伝子が、IDDMの発症を支配する主要な原因遺伝子と考えられている。なお、Lyp遺伝子は、膵島炎(IDDMの発症に先行する)と甲状腺炎の発現にとって、共通の遺伝的基盤であることも明らかにされている。この事実は、強度の甲状腺炎が認められ甲状腺機能障害を呈する新しいラットモデル確立の可能性を示唆している。
  RT1.BとRT1.Dを含めたクラス()遺伝子の詳細な遺伝学的解析ならびにLyp遺伝子の同定が、今後の課題として重要と思われる。

2.LETLラット
 もう一方のIDDMモデルとして、大塚製薬徳島研究所で開発されたLETLラットが用いられている。このラットは病態がBBラットに認められるようなリンパ球減少症を伴っていないので、ヒトIDDMのより優れたモデルと考えられている。しかし、この系統の発症率は20%以下と低く、原因遺伝子の遺伝学的解析には不向きである。
 ごく最近、我々はLETLラットから高発症の亜系統(KDP)を作出して遺伝学的解析を行い、IDDMの発症がBBラットと同様に二つの主要な原因遺伝子により支配されていることを明らかにした。一つは、すでに判明していたRT1領域のuハプロタイプ遺伝子で、もう一つ(Iddm/kdp1)は第11番染色体上のD11M16Mit14b遺伝子座の近傍にマップされた。さらに、Iddm/kdp1遺伝子座領域について、ヒト、マウス及びラット間の比較遺伝子地図を作成し、Iddm/kdp1遺伝子がヒトおよびモデル動物においてもこれまでに発見されていない新しいものであることを明らかにした。
 現在、我々はIddm/kdp1遺伝子のポジショナルクローニングを目標に解析を進めている。  IDDMラットモデルにおける原因遺伝子の遺伝学的解析から、MHCが主要な原因遺伝子として共通で、non-MHC原因遺伝子がかなり異なっていることが判明した。このこは、ヒトIDDMの遺伝を考える上で意義深いと思われる。今後、IDDMラットモデルにおける原因遺伝子解析がさらに進めば、ヒトIDDMの遺伝学的基盤の解明や病因の理解に、さらには治療法の確立に多大な貢献が期待できると思われる。

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