日動協の実験動物輸送に関する指針

 全ての実験動物関係者が,この指針の意味を汲み取って順守されることを期待する.この指針の目的は,マウス,ラット,モルモット,ハムスター類,その他のげっ歯類,ウサギ,フェレット,イヌ,ネコ,ヒト以外の霊長類,ブタ,ヤギ,ヒツジ,及びトリ類を実験目的で輸送する際に守るべき一般原則を明示することである.
  1. 一般原則
  2. 定義
  3. 一般的な注意事項
  4. 輸送車両等
  5. 輸送容器等
  6. 輸送時間の短縮
  7. 輸送中の衛生管理
  8. 環境の汚染防止
  9. 動物の受け渡し時の管理
  10. 輸送中の事故防止
  11. 指針の改廃
  12. 付則

  1. 一般原則
    実験動物(以下動物)の生産,販売に携わる者は,動物の輸送にあたって,「動物の保護及び管理に関する法律」ならびに「実験動物の飼養及び保管に関する基準」の定めるところに従い,対象となる動物の保護に配慮し,かつ人の安全ならびに科学的利用の前提を尊重しなければならない.

  2. 定義
  3. 輸送に関わる一般的な注意事項
     動物輸送の主要な目的は,動物の福祉を侵害することなく,健康で安全に目的地に到着することを保証し,しかも苦痛を最小限に抑える方法によることである.
     動物を移動させるための輸送容器への収容,移動による環境の変化は,動物に対して種々の影響を最小限に抑えるべきである.ストレスを最小限に抑えるためには,以下の点に注意すべきである.

    1. 動物の健康と福祉
    2. 輸送容器の設計(動物に極力不快感を与えず,移動先のケージに容易に移せることを含む)
    3. 動物用の輸送容器内の環境
    4. 床敷,飼料及び飲料水の質と量
    5. 輸送期間と様式
    6. 動物の輸送に関わる者の教育
    7. 輸送容器内の動物収容数と収容密度

    1. 動物の健康と福祉
       輸送される動物は輸送時のストレスにより発症することがあるので良好な健康状態でなければならない.個々の動物は輸送ケージに収容する前に経験を積んだ信頼できる人物によって検査されるべきである.
       この時点で,正常な行動または健康状態から逸脱していることが観察された場合はその個体を輸送計画から除外すべきである.
      • 病気あるいは負傷した動物の輸送
        輸送目的がその手当,検査,緊急の処分の場合に限定すべきである.
      • 妊娠した動物の輸送の後半5分の1の時期に当たる場合は,特に移動に配慮する.
      • その他の特別に配慮すべき動物の輸送
        輸送直後に外科処置を受ける予定の動物,新生子,授乳中の動物,臨床的に遺伝的欠陥を持つ動物に対しては,輸送中の管理には一般的な注意事項を順守するほかにそれぞれ特別な配慮が必要である.

    2. 輸送容器の設計
       動物の移送に使用する輸送容器は,移動日程と輸送される動物種にとって適切なものでなければならない.
      1. 輸送容器の設計には下記のことが要求される.
        • 動物が移動中快適に,かつストレスが最小限になるように収容できること
        • 十分な飼料と飲水または水分補給を適当な形で積載していること
        • 動物が快適で過ごせるように十分な床敷が入っていること
        • 脱出防止や雨漏り防止措置が適切に講じられていること
        • 輸送中の担当者が輸送中の動物から危険にさらされることなく,管理できること
        • 動物を輸送容器に収容する時や輸送中及び輸送容器から他へ移送される際には,動物がダメージを受けることがないように仕上げられていること
        • 微生物の侵入を防止または制限するような設計であること
        • 輸送容器が再使用に耐える仕様で製作されている場合は,一回の移送の都度滅菌や消毒が可能な仕様規格になっていること
        • 十分な換気ができること
      2. 輸送容器の一般的な必要事項
         輸送容器は、偶然開いたりしないように、十分に信頼できるものでなければならない。木製の輸送容器は、動物が穴を開けたり、爪で引っ掻いたり、噛んだりして継ぎ目あるいは接合部を開けることがないように製作しなければならない。化学防腐剤で処理された木材は、防腐剤が有毒となりうるので使用すべきではない。動物が負傷する恐れのある釘、ボルト、尖った角やその他の出っ張りは避け、すべての付属物は角を丸くし、動物が手足を挟まれることがないように取り付けなければならない。輸送容器に必要な指定された材料は、一般に利用されているものであるべきで、動物の健康や福祉に悪影響を与えるような材料を使用しない。輸送に関わる者は、容器を過度に傾斜させないため、あるいは動物と接触しないで持ち上げられるようにするため、適切な取手その他の装置を輸送容器に取り付けることが必要な場合もある。反復して使用する予定の輸送容器は、十分な洗浄と殺菌、消毒に耐えうるように設計することが必要である。輸送容器内は適切な換気が必須であるので、換気孔は輸送容器の両側に設置する。輸送容器を作る際には、側面を傾斜させるなどの注意を払い、外側に隙間ができるような設計にすると、換気孔がふさがれることを防ぐことができる。動物を輸送する者、所有者あるいは輸送容器の設計及び製作責任者は、輸送容器に十分な空間を与え る工夫をすべきである。

    3. 動物用の輸送容器内の環境
       輸送に関わる者は夏期、冬期の温度、湿度変化に対応して積載量、収容密度を考慮する等、動物の生理機能に異常をきたさないように輸送中の環境管理に特段の配慮をしなければならない。

    4. 飼料、飲水及び床敷の質と量
       輸送に関わる者は必要に応じて適切な飼料及び飲水の給与を行わなければならない。ただし、輸送中の動物は不安、緊張、運動不足、あるいは振動病等のために食欲不振となり、l日以内の輸送では、むしろ給餌、給水は手控えたほうが良い場合がある。しかし、1日を越える輸送の場合は、特別の配慮が必要である。移動時間が24時間以上におよぶ場合には、輸送中に点検及び給餌、給水の手配が必要である。個々の動物種における特別な必要事項については輸送計画を立てる際に考慮に入れることが,必要であり、別に述べる。
      • 飼料:飼料は、それぞれの動物に適合したタイプとする。
      • 飲水:給水は、ゼリーや水で湿らせるか、あるいは水で浸した飼料の形で、または果物や野菜などの形で、水洩れ防止の加工をした輸送容器内で水分を与えるべきである。
      • 床敷等:床敷または寝わらは常に用意しておく。通常床敷に使用される素材は粗いおが屑や木屑または細切した紙などである床敷または寝わらは尿を吸収し輸送容器の床が極端に湿気が残らないように維持することであり,動物を快適で安全に保ち、急激な揺れや振動及び不可避的な温度変化から守ることであるので、十分供給しなければならない。床敷は清潔で、それぞれの動物に適合したタイプとする。

    5. 輸送の期間と様式
       動物の輸送にあたっては、原則として最短時間の輸送経路を選択し、動物が受ける影響をできるだけ少なくする様式を採用すべきである.

    6. 動物の輸送に関わる者の教育と指導
       動物の供給、利用に関わる者は、動物福祉の精神を十分に理解し、関係法規ならびに本指針を厳格に順守するように輸送に関わる者の教育、指導に努めなければならない.

    7. 輸送容器内の動物収容数と収容密度
       1つの輸送容器内の動物収容数は、動物が輸送期間中快適に過ごすことができる匹数でなければならない。輸送容器の設計と動物の収容密度には余裕をもたせるべきである。

  4. 輸送車両等
     輸送に関わる者は、輸送の過程において動物が受ける生理学的,心理学的障害をできるだけ僅かに抑え、また感染症の誘発を招来しないような輸送車両等を選択しなければならない。陸上輸送に空調付き動物専用車を使用するこが望ましい。
     車両内の温度が設定範囲から逸脱した場合などの特定の変化が起こった時には、運転手に直ちに通報する警報装置を設置しておく.
     輸送途中で車両が故障することもあるので、代替車の準備が必要である。
     運転手は動物の取扱いについて経験を積んだ有能な人物であるべきである。

  5. 輸送容器等
     輸送に関わる者は、輸送中の環境変化によって動物が受ける影響をでるだけ少なくするように、また動物が負傷したり脱出しないように、その規格、構造、その他について輸送容器等を工夫しなければならない。輸送容器内に異種の動物を一緒に収容してはならない。同一輸送容器内に収容される動物は、すべて同一コロニー由来のもので、同齢層からなりなり、性別も統一されていることが必要である。天敵同士にあたる動物を同じ車両に乗せて輸送する場合は、特別の配慮が必要である。
     動物を収容した輸送容器は、乱暴な取扱いや過度の騒音にさらされるとがないように移動させる。輸送容器には各々の輸送の詳細や動物への特別の注意事項、緊急の連絡先を表示する。

  6. 輸送時間の短縮
     輸送に係わる者は、輸送に伴う動物の疲労、苦痛を可能な限り少なくするために、できるだけ短時間による輸送手段を選択しなければならない。
     ただし、輸送時間が最短ではなくとも動物が受ける苦痛が少ないと予測できる経路が別にある場合には、それを選択することが望ましい。とくに航空便や船舶を利用する場合、輸送に関わる者は、発送者、輸送者、受領者そして国際間の輸送では、通関代理業者、税関、動物検疫所等の連絡を密にし て、輸送に要する時間をできるだけ短縮すべきである。

  7. 輸送中の衛生管理
     輸送に係わるる者は、動物に対する微生物学的汚染を防ぐため、輸送車両等ならびに輸送容器等の内部の整理、清掃、消毒等に努めるとともに、輸送にあたって身辺の清潔を保持しなけれ ばならない。
     空調車は使用毎に輸送車内(または室内)を清掃し消毒薬を散布し、必要に応じてホルマリン燻蒸する。また輸送中は、動物及び容器の取扱いはディスポーザブルの手袋を使用して行い、直接ひとの手が触れないようにする。

  8. 環境の汚染防止
     輸送に係わる者は、動物を輸送する際に生じる微生物、汚物等による近隣環境の汚染を防止するため、輸送車両や輸送容器等に工夫を凝らす等の必要な措置を講じなければならない。とく に、公道あるいは公共の輸送機関を利用する場合、環境汚染に対する配慮は必要である。

  9. 動物の受け波し時の管理
     輸送に係わる者は、動物の受け渡しにあたって、動物が受ける心理学的、生理学的、微生物学的な悪影響を避けるため適切な場所を設定するとともに、一時的保管の時間を最小にするように努めなければならない。動物の受取人は引き渡し証にサインし、受け取り後できるだけ早く、できれば運転手が滞在している間に、輸送されてきた動物の状態を調べることが必要である。

  10. 輸送中の事故防止
     輸送に関わる者は、輸送車両等に関するあらゆる事故、例えば自然災害、異常天候、交通事故、車両等の故障、輸送者の心身の異常、動物の異常等を想定してその発生を避けるように万全 の措置を講じておかなければならない.

  11. 指針の改廃
     この指針の改廃は、生産対策専門委員会委員長の提案に基づき本会会長が行う。

  12. 付則
     この指針は、平成6年3月29日から施行する。

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